千年樹 (集英社文庫)/荻原 浩
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あらすじ (巻末より)

東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる。そこへ、くすの実が落ちて―。いじめに遭う中学生の雅也が巨樹の下で…「萌芽」。園児たちが、木の下にタイムカプセルを埋めようとして見つけたガラス瓶。そこに秘められた戦争の悲劇「瓶詰の約束」。祖母が戦時中に受け取った手紙に孫娘は…「バァバの石段」。など、人間たちの木をめぐるドラマが、時代を超えて交錯し、切なさが胸に迫る連作短編集。



これは大樹が様々な人たちを見守ってきた というような売り文句を読んで手に取った作品です。

こういうアイテムに弱いのです。

てっきり直球感動的なもの、ほのぼの系かと思っていたら大間違い。

ジャンルとしては僕の中ではホラーと分類したくなるようなお話の連続です。

うたい文句にご注意あれ!!


しかし思い起こしてみると、荻原さんの作品では「押入れのちよ」を読んでいたなと。

その感覚に近いのだなと。

そしてあの押入れのちよは思い返せばなかなかの名作だったのではないかと。


この人のホラーはどこかやわらかな雰囲気があってひんやりするというよりもしっとりとした怖さがあって嫌いじゃありません。

今作においてはユーモアさも薄れ、ただ残酷な描写や、辛い部分が漂うという感じがあります。

それでもしっとりとしたやさしさを感じるのは登場人物の切なさ、哀愁、悲しみ、そういったものがじんわりと描かれているからかもしれません。

ただそのしっとりさとは逆に、落ちのつけ方にもう一歩強さがあったらとも思うのですが…

このくらいのぺたっとした感じを超えてしまうと雰囲気が変わりすぎてしまうのかもなぁ。

この作品の最大の特徴はやっぱりひとつの物語をふたつの時代で繋いでいることでしょうか。

萌芽では逆賊に追われ、死を目前にした家族と自殺を決意したいじめられっこの中学生が、

バァバの石段では時を越えて明かされるバァバが送った秘密の恋文が、

千年樹の下で繋がります。

この時間の越え方は気持ちがよく、なぜか達成感に近い感覚を受けました(笑)


千年という時間はなかなか体感することはできないし、実感することもできない。

例えそれが目の前の大樹を前にしても、僕たちはおおきな時の流れを粗末にし、目の前の急速な流れにばかり気をとられてしまう。

この作品はそういった感覚の鈍さを感じさせるいい材料になるかもしれません。


他の収録作も同じように時空を超えた物語を展開するのだけれど、どれもアプローチが異なるので面白い。

また、登場人物も幼稚園時代、中学生時代、社会人というように成長し、それぞれの時代で物語が始まります。

構成に弱い人にはうってつけの一冊になっているのではないでしょうか?

いじめにあい鬱憤をぶつける人々、男女の恋、戦争の悲劇、そういったものをこの千年樹にぶつけ、たくしていった登場人物たち。

物語途中では、この千年樹は様々な栄養を地面から、そして人から吸い取っておおきくなっていったのではないかという表現が出てきますが、あながち間違いではないのかもしれない。そう思わせる良質ホラーでした。



ふぅ…


帰りの電車用に本を買おうとふと入った本屋さん。

読みたいと思っていた本のタイトルはどれもなく、最後の切り札キノの旅を買ってきました。

見事に12巻をすっ飛ばして13巻を手にしてしまいましたが(嫌な予感はしていた)、まぁ問題なく読めるというのは短編小説の強みですね♪

それにしても…いや、また感想は全部読んでから。。。