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あらすじ
なんとなく教師という仕事に就き、初めて赴任した高校で、清は文学部の顧問になった。ずっと体育系の生活を送っていた清からすれば、ただひとりの文芸部員、垣内君の存在は不思議なものばかり。
傷ついた心を回復していく再生の物語。ほかに、単行本未収録の短編「雲行き」を収録。
この作品は登場人物がなかなか魅力的です。
高校のときの友人の事故を機にバレーを諦め、淡々と過ごす清。
大人びた雰囲気を持っていて、運動も出来るのになぜか文芸部にいる垣内君。
素直でまっすぐで自分のペースをしっかりと持った弟の拓実。清を少しでも元気付けようと花屋でバイトをし、余った花をもらってきては家に飾るような出来た弟です。
料理教室も開いているが、真面目すぎる故に生徒がついてこれない不倫相手の浅見さん。
皆、非常に性格も考え方も大人のようなしっとりとした雰囲気を持っています。だからこそ清の清々しさ、垣内君のふと見せる無邪気さがよりキラキラとした色を与えている気がします。
この作品は清が主役ですが、垣内君のかっこよさが際立つ作品のような気がします。
垣内君は作中に次のようなことを言います。
「面白くなろう、楽しくしよう。そう思っているんだけど、そう思えば思うほど、僕はだんだんつまらない人になってしまう。難しいですね」
この一言は、彼の存在を全て表しているようで、しかもどことなく自分にも投影してしまうような、どこか力強い言葉のようにも思えます。
でも…彼は十分面白い人間だと思いますよ。
ほかにも素敵な言葉が多く、こういう言葉が並ぶことがキラキラとした雰囲気に繋がるのかもしれません。
この本の印象的なシーンは、「さぶ」を読んだときに垣内君へ電話をした清と、「夢十夜」を読んだ後に浅見さんへ電話をした清。そして両者の電話の対応の仕方。
電話をかけているときの清の姿がすぅっと映像として浮かんでくるようで、胸を締め付けます。
この時ふと、清が戸田恵理香さん、垣内君は三浦春馬さん、浅見さんは谷原章介さん、ついでに拓実君は神木龍之介君が浮かんできました。
垣内君との清、浅見さんとの清、拓実との清、とそれぞれの清が順番に描かれていて、どれも清なのだがやはり生活する場が違うと人の雰囲気も変わるものだなぁと楽しめる構成になっています。
すぐに読み終えることの出来る本で、ふとまた読み返したくなるような魅力的な本でした。
そうそう、この作品には「さぶ」や「夢十夜」などの昔の作品が出てきて、展開を彩ります。
なんだか最近こうして昔の文学を用いた作品が多く、無知な僕はちょくちょく登場作品を読んだりしていますが…
昔の文学はどこか全体を通しておどろおどろしく、読後感がなかなか切なさでいっぱいになります。
そういえば僕はそういう作品を現代文学でもあまり手にしません。人間の芯の部分を避けている…のかもしれませんね。
ふぅ…
青春と言えば、やっぱり海の絵が映える気がします。
でも、青春っぽいことって他にもたくさんある。
この本では部活最終日にグラウンドをただ走ってサイダーを飲むと言うまさしく絵に描いたような青春もあれば、図書館の本を整理すると言う淡々とした作業もまた青春である。
青春とはひとつの思い出の形であり、その中に辛さや悲しさ、切なさが一滴でも混じっているのならば青春だと感じることが出来る。
浜辺やグラウンドを意味も無く走ることも、図書館の本を整理することも無かったけれど、僕には他の形の青春があった。
なんだかそれだけで妙に誇らしく思えます。。。