昨日の夜中、あるCDをセットした。
「渡辺茂夫 バイオリン演奏の記録」
戦後の天才少年バイオリニスト。7歳でリサイタルを開き、14歳で名門ジュリアードに留学、16歳で服毒自殺を図り、一命はとりとめたものの精神に障害を負い帰国。
それから亡くなるまでの数十年間、一度もバイオリンを手にすることなく、精神を病んだまま子供のような心で亡くなった人。
喪主は茂夫にバイオリンを教え、誰よりもその将来を嘱望していた父。
変わり果てた姿で帰国した息子を迎え、それから何十年も、彼が死ぬまで身の回りの世話をし続けた。
その父が中心となって、茂夫の数少ないバイオリン演奏の記録を集め、販売目的ではなく制作されたのが「渡辺茂夫 バイオリン演奏の記録」の三枚組CDだ。
このCDの存在を知ってから何年も諦められず、販売用ではないこれをどうにか手に入れられたことは私にとって大きな幸運だった。
部屋で一人きり、このCDをかけ目を閉じると、満天の星空が目の前にあらわれてくる。
渡辺茂夫の、静謐で哀愁漂うバイオリンの音色が導き手となって、心の深淵にぐいぐいと引きずり込まれていくような錯覚を覚える。
導かれ、奥底まで深く沈んでいくと、そこには内なる宇宙が広がっている。
群青色の空間に、煌く星々が点在し、私は一人きりでぽつんとその広大な広がりに対峙する。
聴こえてくるバイオリンの調べ。ショパンの遺作、ノクターン。
渡辺茂夫の大いなる魂の孤独。その宇宙の寂しさ。静謐さ。無垢なる美しさ。
どこまでも続くその宇宙に吸い込まれ、星々に抱かれ、慰められる、私の小さな小さな震える心。
人は一人だ。だからこそ、つながりが愛しい。一日一日が愛しい。
(※ 以前別の場所で書いた記事をアップしたものです)