不思議: /5
和: /5
森美登美彦さんの「きつねのはなし」を読みました。
ジュードさんのブログで森美さんの著書のレビューを
拝見して読みたくなりました。
『きつねのはなし』
古道具屋の芳蓮堂でアルバイトしている武藤は店主の
ナツメさんに頼まれて天城さんの屋敷へ配達をすることになった。
クセのあるお客さんでどことなく不気味であった。
『果実の中の龍』
私が大学の二回生となった春、先輩は私の前から姿を消した。
先輩の下宿に入り浸り、本を読んだり、一緒に風呂屋へ行ったり、
そしてシルクロードを旅した先輩の話は私を魅了してやまなかったのだが……
『魔』
家庭教師のアルバイトで西田酒店へ通っていた。教え子になった高校生の
修二は剣道をやっていて体格がいい。無愛想だがすぐに仲良くなることが出来た。
そんなある日、近所で通り魔事件が続けざまに起こった。
『水神』
祖父の通夜で集まった父とその兄弟たちは、寝ずの番で祖父にまつわる
不思議な話をしながら、預かっていた家宝を届けると連絡してきた
芳蓮堂を待っていた。ところが約束の時間になっても法蓮堂がやって来ない。
不思議な話でした。
聞くところによるとこの作品は森美さんの作品の中でも異色なのだとか、
ちょっと変なところからチョイスしちゃったかな……
連作短編とは言わないのかもしれませんが、この短編すべてに
共通のキーワードがたくさん潜んでいます。
京都、古道具屋の「芳蓮堂」、胴の長いきつねのようなケモノ、
座敷牢に閉じ込められた老人、竹林の中の寺などなど、
「あ、この言葉さっきも見た」というデジャヴュの連続です。
そのくせストーリーは全くと言っていいほど絡んでこない。
こんな風に短編同士の統一感を持たせるという方法があったのか
と、そこにおもしろみのある作品でした。
表題作「きつねのはなし」がモロに好みの話でした。
雰囲気がとにかく好きです。得体の知れない客の天城と主人公武藤の
やり取りが昔話の一場面のようです。
そして竹林に囲まれた屋敷、ラストの祭りの風景の描写がとても幻想的でした。
それだけに他の短編がかなり色あせて見えてしまいました。
残念なことです。
描写は相変わらず好みなのですが、ストーリー進行が
妙にゆっくりに感じられてちょっと眠いです。
題材的にもかなり好みだった気がするのですが、
なぜでしょうか、すごく時間がかかった上に「読みにくかったな」という
印象が残ります。
雰囲気を楽しむ本、かもしれないですね。
「きつねのはなし」が本当によかったので、
こんな感じでまた書いて欲しいなんてワガママなことを思っちゃいました。
次は「森美さんらしい」と言われている作品を読んでみたいです。
ジュードさんありがとうございました。