1月末の大雪の反動からか、急にやってきた春に心も体もビックリした今年の春。花粉症の方には辛い時期だろうが、3人の中で唯一花粉症ではない私にとっては待ちに待った季節だ。


私にとって、春がやってくる歓びは寒さから解放されるという理由だけではない。誕生月であると同時に、私が最も愛するカテゴリーのクルマを存分に堪能できるからだ。

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オープンカーは黎明期の自動車のように屋根を持たない。そう考えれば、このボディ形式は最も自動車らしいという言い方もできるのかもしれない。日本の街中を走る多くの実用車のようなはたらきはしないが、屋根が開けられることで移動そのものの醍醐味を存分に味わえる。


中でも、ロードスターと呼ばれるボディ形式は数あるオープンカーの中でも屋根を開けた状態がデフォルトであるとされる。備わる幌はあくまでとっさの雨をしのぐためのものと考えられているのだ。


そんなボディ形式そのものを車名にしたマツダのRoadsterは、オープンでもないスポーツカーでさえも育たない不毛地帯であるわが日本市場の中でも不動の人気を獲得してきた。近年でこそスポーツカーが復活の流れを見せる中で、誕生から途絶えることなくバトンタッチを繰り返し、現在では4代目となっている。


この4代目 RoadsterNR-Aというサーキット用の装備を備えたモデル以外は全てのグレードのステアリングを私は握っている。中でも印象深いのが、日帰りで出かけたこちら。

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そう、日光 いろは坂のある金精峠である。


金精峠の桜の見頃は4月末。今年はこの暖かさでもう少し早いのかもしれないが、2年前の4月末、私はこのRoadsterとともに春を満喫していた。


その時乗っていたのは、S Special Packageのマニュアル。叶うならビルシュタインダンパーを備えるRSに乗りたかったのだが、桜の咲く時期に実車が間に合わなかった。ついでに言うとブラックというボディカラーも私にとっては減点要素だったけど、走り出したらどうでもよくなっていた。


いろは坂へ向かう細い一本道。ここぞとばかりにステリアングを切り込むと、クルマがコーナリングすることを歓ぶかのようにノーズをインへ向けていく。先代のNC型でも何度かロングドライブを経験した私が感じたのは、ステアリングを切り込んだ時の反応の違い。NCだとステアリングを切り込むエンジンなどの重量物が一瞬「グラっ」と動いてターンインを始めるという挙動だった。ところが、NDの場合はその「グラっ」を感じさせない。ステアリングの切り込みから実際のコーナリングまでの流れがシームレスで、コーナリング中のライン取りが楽しくて仕方がなかった。


ただ、その時の脚まわりの動きには賛否両論あるかもしれない。というのも、法定速度レベルのスピードでもロール量は大きく、それを不安定だと感じてしまうかもしれないからだ。私の場合は乗り始めはそのロール量の大きさに戸惑ったものの、沈み込んでからリアがだらしなく崩れるようなことはなかったのでRoadsterの味としてアリだと思っている。後日やっと乗れたRSが硬めた脚によって軽快感が薄れたように感じたことを考えれば、こちらの味を好む人がいることは納得できる。


いよいよいろは坂に到着してからは、2車線になった瞬間に前方のクルマをオーバーテイク。NCよりコンパクトで軽量になったボディを、これまた排気量を落とした1.5Lエンジンで引っ張っていく作業が楽しくてたまらない。あっという間に展望台に辿り着き、中禅寺湖周辺を駆け抜けたら下りのオリジナルいろは坂へ。


ここでは、ここぞとばかりにヒール&トーを意味もなく繰り返していた。先行車に阻まれスピードは出ていなかったけれど、練習にはかえって好都合。コーナーの進入で強めのブレーキ。先行車との車間を稼ぎながら、かかとでスロットルを煽る。「ブォン」と勇ましいエキゾーストをこだまさせたらシフトダウン。エイペックスを抜けたところからじわりとアクセルを踏んでコーナーを脱出すればまた先行車が迫る。今では一連の流れを機械に任せることもできるが、これが決まればRoadsterのコンセプトである「人馬一体」の核心に触れられる。


ご当地名物の湯葉を食べようとクルマを停めると

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まさかのNA Roadsterに遭遇。

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私はベージュの幌を羨ましく見つめていたけれど、私のRoadsterに気がついたオーナーさんはNDをどんな風に見ていたのだろうか。

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行きは下道だったので、帰りは高速で家路を急ぐ。NC型のソフトトップは高速域になると跳ねる挙動が見られて落ち着かなかった(空気を入れすぎたレンタカーの影響??)けれど、NDならオープンのままでも挙動は安定している。こういう時はBluetoothでお気に入りの音楽を聴こう。


そういえば、この曲がかかる度にアクセル踏んでたんだよな。


夕暮れの少し寒い風が吹きつける中、この曲の思いとRoadsterに乗る私の思いがシンクロする。エンジンの回転が上がるたび、速度が上がるたびにその叫びが大きくなって、その叫びに押されて加速しているかのような気になってくる。いつまでたっても大人になれないのなら、せめてこんなオトナでいたいなと思いながら。


Roadsterがある1日。

それは、屋根を開けるという行為によって心の中に新たな風を呼び込む行為だ。


時に臭うトラックからの排気ガス。

ふとした瞬間によぎる仕事のいざこざ。


オープンにできないクルマなら外界から隔離されることによって得られる安心感はあるけれど、ネガティブな空気も室内にこもりやすい。でも、オープンカーの屋根を開け放てば吹きつける風がそんな憂さを吹っ飛ばしてくれる。その向かい風を時に受け流し、時に抗いながら駆け抜ける時。ドライバーは気がつくはずだ。「自分が悩んでいたことは、ひょっとして小さなことなのかもしれない。」と。


人生にはクルマに乗るだけで解決できない悩みだってある。でも、オープンカーで味わった景色は世界の広がりを教えてくれる。その中でも私がRoadsterにこだわるのは、このクルマが決してパワフルとは言えないからだ。パワフルなオープンカーも大好きだけど、このクルマを速く走らせるには少しばかりのテクニックと前へ進む意志が求められている。


どんな困難だって、前に進まなければ答えなんて分からないんだ。

だから言おう。心に溜まったものを感じたら、試してほしい。



「そうだ、Roadsterに乗ろう。」

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P.S. Mazdaに媚びを売る意図はございませんorz