「あ、あにき!今日は疲れているわよね!」
自室でくつろいでいると、急に紗黄(さき)がそんなことを言いながら部屋に入ってきた。
「いや、今日はずっと家にいたし、疲れては――」
「仕方ないわね!そんなに疲れてるなら、私がマッサージしてあげるわ!」
「だから人の話をき……って、マッサージ?」
「そうよ!私がテニス部で学んだマッサージで、あにきの疲れを取ってあげるわ!」
ふむ、まあ、マッサージをしてくれるというなら断る理由もないだろう。
「おう。それじゃあ頼むよ」
「まかせて!……って、これは『争奪戦争』の一環なんだから、勘違いしないでよね!」
「はいはい」
「はいは一回でいいの!それで、どこをマッサージすればいいのかしら?」
む……そこまで考えてなかったな……。まあ、無難に肩でももんでもらうとするか。
「じゃあ、肩を頼むよ」
「肩ね……それじゃあ、そこの椅子に座ってくれるかしら」
紗黄に言われ、俺は勉強机の前の椅子に腰かける。
「じゃあ始めるから、痛かったりしたら言ってね」
「おう……っっ!!」

こ……これは……。
 
めちゃくちゃ気持ちいいじゃないか!
弱すぎず、それでいて痛くない程度に加えられる力!
凝ってはいないと思っていたが、それは普段から同じ凝りが続いてしまっていたからこそ、日に日に気づかなくなってしまっていたのかもしれない。
紗黄のマッサージには、そんな、本人すら気づいていなかった疲れを取り除くような、そんな力がこもっている。
テニス部のマッサージってすごいな!
それにしても……
(気持ちよすぎて声がでてしまいそうだ!)
 
「んっ……んっ……。どうしたのあにき?さっきから黙り込んで。もしかして痛かった?」
「い、いえ、だいじょうぶですわよっ!?」
「何で女の子口調になってるのよ……。よしっ、これで終わり!他にマッサージしてほしいところはないかしら?」
これだけ気持ちいいと、この際いろいろと疲れを取ってほしいところである。
「じゃあ、次は腰を頼むよ」
「ふっふっふ。素直ね、それじゃあ、そこのベッドでうつぶせになってくれるかしら」
言われるがままにベッドでうつぶせになる。
「それじゃあ始めるわよー」
「おぉ……」
 
ふにっ
 
む……、これは……。
うん、まあそうだよな、紗黄が上に乗ってるんだもんな……。
女の子ってこんなにやわらかいんだなぁ……って相手は妹だぞ……。
「んっ……はぁ……ふぅ……腰って結構力がいるのよね……。ん……」
くっ……紗黄の声がきになる……。
そうだ、円周率でも唱えておこう、3.1415……
「んしょ……うんしょ……」
……02139494……
「ふぅ……んっ……。よしっ、あにき、終わったわよ!気持ちよかった?ってあにき?あにきー?」
……234545……にいさんしこしk……
「そんなことしてねぇよ!」
「きゃあ!も、もう何よあにき!いきなり大声出して……」
「あ、ああ、紗黄か……」
「『ああ紗黄か』じゃないわよ!気持ちよかったかって聞いてんのよ!」
ふむ……だいぶ体が軽くなった気がするな……。
思ったより、疲れがたまっていたのかもしれない。
「うん、気持ちよかった」
「そう……あにきに喜んでもらえたなら私もうれし……って!あくまであにきにアプローチするためなんだからね!勘違いしないでよね!ほら!終わったんだから、早く私の部屋から出て行って!」
紗黄にグイグイと押されて部屋から出される。
「まったく、もうアプローチの時間は終わりなんだからね!」
―バタンッ!―
紗黄は勢いよく部屋のドアを閉める。
……あれっ?何で俺追い出されなきゃならんかったんだろう……。