ある老夫婦がいる。
どこかで見た様な片田舎の、どこにでもありそうな一軒家に住み、月並みの人生を送り、平凡な毎日をやり過ごし、ただ時間だけがゆっくりと進み、惰性でのみ生きているかの様な老夫婦がいる。
普通と呼ばれるに相応しい程の激しい起伏の無い老夫婦がいる。
7人の子供達は巣立ち、半分は正月に孫を連れて帰省してくる。
今は、これと言った趣味も無く、何なら茶柱に一喜一憂している。
そんな老夫婦だが、つい先日結婚記念日を迎えた。
双方共マメな性格の為に覚えてはいたものの、切り出す機会も無く、また恥ずかしさからかタイミングも逃し、いつもの就寝の時間に差し迫った。
特にプレゼント等も準備していなかったので、これもまた夫婦とお互いが見ていないところで苦笑し合い、床に着いた。
ふとおじいさんが隣に、枕のYESの文字を見るに認め、頬を紅潮させたおばあさんと目が合った。
おばあさんの目は女性、雌のそれと見紛う余地も無い程の妖艶さを帯び、老体でありながらも月明かりに照らされた肌は段々と白く輝いていった。
久々のことで緊張しているのか、おばあさんの身体は弛緩し若干強張っている。
そういう初なところも愛くるしく感じるものだった。
が、数分後、おじいさんは全てを悟った。
いかに普通な人生も、後の方でドラマチックな最期が待っている筈も無い。普段通りにしかならない。おばあさんは今も尚夢見心地。
星の数程の夢や希望はある
星の数程の女もいる
しかし存外その星には手が届かない