過日、梅雨明けの発表を裏切るように篠突く雨が降る中、それに呼応するようなアートブレイキーのドラム音だけが響く店内で静かにフライヤーに火をつける男がいた。
わたしである。
雨のランチは目が回るほどの忙しさになるのが常。と同時に雨のディナー営業はもっぱら暇になるのも常。
昼はいつものように鬼神のごとく鶏を揚げ、底が見えたタルタルの残量に怯え、なんとか乗り切ったわけだが、夜は一転静かにスタートした。
我が城は地下にあるため、外の様子などはご来店いただいたお客さんの様子からしかわからないわけだが、どうしたことか一向に来客の気配がない。
陰鬱とした空気を取り払おうと地上にひょっこり顔を出しても、人影もなく、聞こえるのはショパンになど到底及ばぬ雨音と、通り過ぎる空のタクシーが水を跳ね上げる音だけだった。
「今日は予約のお客さんだけかなー」
仕込むものもたいしてなく、予約のお客さんを迎え入れ少しは気が晴れたが、グループで盛り上がっているところにずかずかと入っていけるほど図太い神経は持ち合わせておらず、結果黙々と働かざるを得ない状況にもやもやしながら、その時を待った。
「大将2人いける?」
きた。待望の話し相手、常連さん。
慣れた口調でいつものメニューをご注文いただき杯を重ねるごとに饒舌になるいつものスタイル。
たわいもない話から仕事の話まで、時に陽気に時に熱量をもって会話していたが、ふと周りに目をやり気づく。
「今日暇そうやな。」
「そうなんです。雨の日はゆっくりとかよく言うんです。2.8月は暇とか。大掃除しだすとお客さん来るとか。飲食店あるあるですね。」
「なるほどな。業界によっては色々あるねんな。」
「そういえば、大将はギャンブルやるんか?」
この方小学生の頃にダビスタ3という名作に出会って以来、空白の期間は所々あれど、人様に胸を張っても差し支えないぐらいは競馬について語れるであろうことをお伝えした。
「競輪は?」
はっきり言おう。好きである。
語れるほどの知識や、見てきた歴史があるわけではないが、競技として好きである。
地域や、同期でラインを組み、時には自身が犠牲になることも厭わず地元の顔を勝たせることに尽力する漢気。団体競技の側面もありながら尽きるところ個人競技であり、様々な人間模様を垣間見れるところも魅力である。
車券を買うことはないが、見ているだけで胸が熱くなることは多々ある。
「車券買うと余計熱入るぞ。」
おい、おっさんいらんこと言うな。