真夏の昼の暑さと、貧乏と、満腹とが揃うと本当にどうしようもない気持ちになる。
この三つが揃うと何が不満かというと、暑いからどこか涼しい場所で一休みしたいけど、お腹が空いていないのに(この時は喉も乾いていなかった)飲食にお金をかけるなど言語道断であり、結局一休みできないのだから家に帰るほかない、という結論を受け入れざるを得ないからである。せっかく浅草まで来たのにもう帰るのか。交通費がもったいない。せっかく化粧もしてあるのに。もっと夜までいられたらこの辺りにしかない素敵な感じのバーとかに行きたかった。けれどこの残念な気持ちを打ち負かしてくれるほどの涼風も吹いていないし、近くにベンチ付きの木陰も見つからないのだから、仕方ない。色んなことを諦めて三分歩けば着く駅へ足を運ぶ。
貧乏と満腹を同時に持ち合わすための条件は一つしかなく、他人のお金で食事をする、というのがそれである。
上京する前、名古屋でバーテンをしていた時のお客がいまだに連絡をくれる。大体ふたつきに1度ほど。今でも会っているのはもうこの人だけになってしまった。会えば御馳走してもらえる上にそれ以上の要求をしてこない。良い人だなと思う。隣を歩いていても誇らしい気分には決してなれないし、話が面白いわけでもないから、本当に、ご飯を食べさせてくれるから、という理由だけで会っている。
今日は正午に待ち合わせして、お昼3時に解散。その3時間で鰻を食べて、ビールを飲んで、少し人力車で散策して、少し電車に乗って、少し歩いて、カフェでケーキを食べた。食べたものが全部美味しかったから楽しかった。3時間の会話の中で印象に残っている話を思い出そうとしてみるけど、これが毎回かなり難しい。話のネタを出すのに骨を折らない方だし、会話の中でちゃんと笑い合った感覚はあるのに、しばらく記憶と真剣に向き合った結果脳内で再生できたのは、あんなに額や腕から汗を吹き出していたのにも関わらず、今にもはち切れそうなほどピチピチになった薄ピンクいTシャツに汗じみを一つも見つけられないことを隣で不思議がっている私、という映像だけだった。
カフェで解散してから早30分。お礼ラインを送らなきゃと思うけど、そうするとその流れで、さっき人力車に乗った時に付いてきた特典「思い出の記念撮影」なる人力車から浅草寺を眺める二人のツーショット写真を送らなければならないから気が乗らない。気が乗らないというのは、写真を送信する際その二人を見返すことになるからだが、それが嫌なのはその際にまた私がそれほど美人でないことを思い知ることになるのが嫌だからだ。きっとこの写真を撮った人力車のお姉さんも、同伴にしては女の方がさほど美人じゃないし、親子にしては会話は敬語だしお互いちゃん呼びだし、何より男の方が父親だとしたらこんなに気持ち悪くデレデレしないだろう、と無駄に考えてしまっただろうし、ただでさえ体力を使う仕事なのに頭まで使わせてしまったと思うと申し訳ない。人力車は私の想像を裏切らず二名用座席はとても狭かった。
2020/08/22