昔関わりのあった近所の老夫婦がいる。その家のご主人は面白い人で、よくいろんな発明品を作っていた。幼い私に素朴ながらも見たことのない自作のおもちゃで遊ばせてくれたり、庭先で身近なものを組み合わせて作られた変な形の干物製造機がくるくる回っていたり。今は交流もなくなってしまったが、時々元気そうに植木の手入れやらをしている様子を目にしては安心していた。

しかしここしばらく、その老夫婦を見ていなかった。お互いのタイミングが悪いだけであろうとは分かっていても、相手も80代の2人暮らし。何かあったのではないかと心配にもなる。その家の横を通るたびに息災だろうかと様子を伺っていた。


つい先日、いつもより早めに学校が終わって下校中、その家の2階のベランダで奥さんが洗濯物を干していた。以前と変わらない様子に少し安心する。それにしても80代なのにあの量の洗濯物を抱えて階段を登れるのか……と自分の祖母と比べてしまいながら関心していると、後ろから自転車に追い越された。なんと乗っていたのはあのご主人だった。ご主人は軽い身のこなしで自転車をおりるとヘルメットを外し、ポケットからスマホを取り出して触ったかと思うと玄関脇のダンボール箱を見やり、ベランダの奥さんに声をかけた。

「おーい、Amazon届いてるぞー!」

うん、お元気なようで何より。もうしばらくは何も心配する必要なさそうだ。不安から一転、あまりに現代に馴染んだ老夫婦にじわじわと笑いがこみ上げ、私はそれを気取られぬように口を引き結んで上を見上げながら家まで帰った。