ネット上の情報を見ていると、がん患者に対して「終活」をすることは良い心がけであるというキャンペーンや、「相続対策をしないと『争続』になってしまい大変だ」と必要以上に不安を煽って仕事に繋げようとする「終活ビジネス」「相続ビジネス」をよく目にします。

税理士稼業を長くしていますと、がん患者さんが死亡を前提に相続税の試算や相続税対策を依頼されることも多いですし、こちらからご提案することも結構あります。
適切な対策をすることによって不安を解消し、相続税を抑え、資産承継をスムーズに行うことができることを専門家としてよく知っているからです。

我々税理士は「告知されたらまず相続対策を」と考えがちですが、いざ自分が癌を告知されて思ったのは「そんなことできるか!」ということです。
相続税の計算や分け方など知ったことじゃない、というのを身をもって実感しました。
以前あるお医者さんが、「告知されたらまず筋トレで体力を作りましょう」と言っていたのですが、その方も後にがんになって「そんなことができるか!」と考えを変えていたのを見たことがあります。
全く同じですね。
告知直後の混乱の中ではとても余裕なんてある訳がないのです。
自分の死後の財産のあり様や税金の心配などしている場合ではありません。

癌になってからずっとそう思い続けて考えを改めていたのですが、がん告知直後から100点満点の相続対策をやり切って、現在治療法がなくなりターミナルケアに差し掛かっているという方に先日お会いしました。
告知後から冷静に財産を処分し、分け方を決め、遺言書も作成したという状況で、相続税の試算を依頼されました。
なかなかここまで冷静に自分の置かれた状況を把握して適切な行動が取れる方はいません。
長く税理士をしてきましたが、ここまできちんと徹底された方には初めて会いました。
私もステージ4のがん患者ですが、ここまでは絶対できないし、実際何となく先送りをし続けていてできていません。
感服しました。
 

ここまでできる方はほとんどいませんが、告知の混乱が収まって治療が落ち着き、体調が良いときにでも相続のことを税理士などの専門家に相談していただければと思います。
相談に乗りますと標榜しているサービスは沢山ありますが、できれば利害関係にない独立した専門家に相談するのがお勧めです。
相続対策は税金がどれくらいかかるのかという観点から組み立てるのが一番手っ取り早いです。
よく相続が不安だと悩んでばかりいる方がいますが、相続税の対象となるか否かも含めて一度税理士に相談してみるとよいでしょう。
なお税についての相談は無料であっても税理士以外が行うことは税理士法により禁止されておりますのでご注意下さい。