二年生存率10%。
高いですか?それとも低いですか?
この数字は腎盂癌ステージⅣの生存率です。
少し古い数字ですので、もっと成績が上がってきているとは思いますがインパクトは十分です。
施設によっては3割を超える数字を出していますが、小さく「*切除可能症例のみ」と書かれておりステージ4そのものの数字はなかなか出ていません。

告知の際に主治医から「標準治療があります」「大丈夫」「頑張りましょう」「よくある病気です」と大変頼もしい言葉を沢山いただいていたので、帰りの電車でこの数字を見た時は気が遠くなりました。

腎盂癌は尿管癌とまとめて腎盂・尿管癌あるいは上部尿路癌と呼ばれます。
尿路というストローがすぽっと腎臓に刺さっており、そのうち腎臓の中に隠れた部分が腎盂、外に出ている部分が尿管です。
この尿路は袋状の膀胱へと続いています。
腎盂、尿管、膀胱と一続きの同じ組織でできているため、癌としては一まとめで扱われます。膀胱癌の弟分のようなものです。

腎盂癌の進行度にはT分類、N分類、M分類という三つの分類があるようです。
T分類は広がりの度合いです。周囲の他の臓器や腎臓の外側の脂肪組織に広がっているとステージ4になります。
N分類はリンパ節転移です。一個でもあるとステージ4になります。
M分類は遠隔臓器転移です。一つでもあればステージ4です。
ステージ4にはa、bなどという分類はなく、多少雑な気がしますが、リンパ節転移も肺転移や骨転移も全て同じ扱いです。

標準治療はガイドラインによると、ステージ4は化学療法のみで、それもGC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)の一種類のみ。しかも膀胱癌用に開発された治療法をそのまま流用しているため、膀胱癌ほど治療成績は良くなく、ガイドラインでの推奨レベルも高くはないです。
もしGC療法が奏功しない場合はどうするのかと告知の際に聞いたところ、セカンドラインとしてPG療法(パクリタキセル+ゲムシタビン)を提案されました。
昨年12月の適用承認以降はエビデンスのあるセカンドラインとして免役CP阻害薬のキイトルーダが使えるようになりましたが、それ以前はPG療法、TIN療法、MEC療法、PEG療法、PC療法、GD療法、TIP療法、GCD療法など、各病院がそれぞれ適用範囲で使えるものをサルベージ療法としてやっていたそうです。もちろんエビデンスはありません。

調べれば調べるほど、主治医の「大丈夫」という話と腎盂癌ステージ4の現実の乖離に驚きました。
標準治療をしても9割助からない…
本当に手術まで持ち込めるのだろうか…
かなり良い方に「盛った」情報で安心させられているのではないか…
考えるほどに不安になりました。

家族と沢山検索し、その日のうちにオンコロさんで治験を見つけ、webで問い合わせをしてみました。
見つけたのはキイトルーダ+GC併用療法の治験第三相です。
GC療法群、キイトルーダ単剤群、GC+キイトルーダ群の三種類の治験で、たとえはずれの対照群にあたっても標準治療と変わらないため、大変魅力的に見えました。
後日オンコロさんから電話があり、私の通っている大学病院でもこの治験を行っているため主治医に相談してみてくれと教えていただきました。他にも丁寧にご説明いただき、大変感謝しております。
主治医に電話で聞いてみたところカンファレンスにかけていただけることになりました。結果としては、
①治験は切除不能例が対象で、リンパ節多発転移は切除不能に含めることも可能だができれば切除を目指したい
②治験の開始まで1か月前後かかるができるだけ早く治療を始めた方がいい
③病理に問い合わせたところリンパ節生検のプレパラートが10枚しかなく、製薬会社が要求する20枚に足りない。また生検をしなくてはいけなくなる
④原発が画像上で見えないことは、治療をする上ではリンパ節転移の大きさで効果測定するため問題ないが、非典型例として製薬会社が治験に使うことを嫌がる可能性がある
⑤手術可能になった時にすぐ手術という訳にいかなくなる。せっかくの根治手術の可能性を潰してしまう
との回答を得ました。
お忙しい中真摯に対応していただき、これはもう最初の提案の通りGC療法で切除を目指すしかないなと腹を括りました。

その後娘に色々と調べてもらい、主治医とその所属しているグループの学会発表や論文などを見つけてもらいました。
その中に腎盂・尿管癌のリンパ節転移症例に術前補助化学療法と拡大手術をした場合の成績の論文がありました。2015年に国際誌に発表された報告で、主治医も共著者として隅っこの方に載っていました。
特筆すべきはその内容です。
GC療法ベースの化学療法をした後に手術をすると、完全奏功した患者は72%、部分奏功の患者の37%が無再発だと報告しています。単施設の後ろ向き報告ですので統計的にはエビデンスレベルが低く、結果にはある一定の留保が必要です。
しかし、主治医の先生はリンパ節転移症例の患者が普通に寛解を得ているのを目撃している人だということがわかりました。
主治医の「大丈夫」にはきちんと根拠があったのです。

無理を承知で言えば、最初からこう言ってほしかったなと思います。
忙しい中で多様な患者を相手にバッドニュースを伝えなくてはいけないご苦労を思うと、他業種とはいえ私も専門家の端くれですので、本当に大変だろうなとわかります。
「大丈夫」と言われるのは嫌で「これこれこういう理由で大丈夫」と言ってほしい、と以前にも書きましたが、医療現場でも何とかならないものでしょうか。
主治医でなくてもいいので、間に入って伝えてくれる仕組みでもあればいいのになと後になって思います。

 

長くなりましたので経緯の振り返りはここで切ります。