田沢湖 KCBM
今朝の体調はどこかおかしい。
体は鉛のように重く、頭は霧が掛かっていて霧笛が鳴り続けている様だ。目はしょぼしょぼして、ピントが合わない。寝て居ない訳だ。目を瞑ってはいるものの周りの人たちは既に起き始めていて荷物を出したり、着替えたりしていて騒々しくなってきた。自分もとりあえず、布団から出て用意をする事にした。時刻は6時、出発は7時だから今のうちに荷物を纏めてウダウダしていれば時間はその内に経ってしまうだろう。天気は曇り、気温も今までのように朝から汗が滲み出てくるような程ではない。これは助かる、呑んだ翌日でしかも寝不足となった時のカンカン太陽の下にさらされた時は、まさにドラキュラの心境になる。溶けて無くなってしまいそうになるのだ。と、そんなしょうも無い事を考えながら、あちこちに散らばっている荷物を纏め、相方をガレージの外に引っ張り出し、パッキングを始める。そういえば、昨日の夜はシャワーすら浴びていなかった。体中がベトベトして非常に気分が悪い。
北海道の涼しい空気が懐かしかった。
後から後から夕べ大虎になっていた人たちが表に出てくる。姐さんとなると、史上最悪の悪夢から命からがら逃げてきたような顔をしている。聞くと、夕べの事を全然憶えていないのだと言う。しかも、置き出した時に周りの男性陣から「いや~夕べはえらいことしましたね~~~」と半笑いで、言われているらしい。
勿論、問いただしても「いや~そんな事私の口からはとてもとても」とはぐらかしてみんな離れて行ってしまうのだと言う。「医局長が私の電話番号をすぐリセットするって所までは覚えてるんだけどねぇ・・・・」
そりゃまた、まだ宴会が始まって間もない頃だ、その後から憶えていないのかこの人は?「と言う事は、タクシーで此処まで戻ってきて、2次会に参加して、私の椅子を奪い取ってあみちゃんの様子を風呂場まで見に行った事も憶えていないとか?」と聞くと、「ええっ!!!そんなことあったの!全然憶えていない」と言う。
「うわー、久しぶりにやっちゃったかー」本人相当凹んでいる。「ねえ、TNTあたし、夕べなんか宴会の席でやらかしたの?」次はおいらかえ?
「知りませんよ、自分はあみ助に医局長がチョッカイ出してたから、それを封じ込める事で手一杯だったんですから」と、逃げる。
「ちょっとーーー!!!誰か教えてよ!!!」姐さんまじで半泣き状態。
昨日そんなに呑んでたかなぁ?2次会の時なんか、ちゃんと受け答えしてたから大丈夫だとおもったんだけどねぇ。一方の医局長は、既に自分のZ1をガレージから出してきて暖気を始めている。医局長のZ1は当時ヨーロッパに向けて輸出されたイエローボールとよばれる、黄色い火の玉だ。この色は中々お目にかかれない。そして、全塗装してもこの色にする人は中々いない玄人好みの色である。ざ分散の画像掲示板でも何度も拝見しているが、改めて実写を見ると非常に綺麗に乗っている。医局長曰く、「雨の日には。乗らない」そりゃそうだ。香川県の大型初心者さんのZ1だって、舐められる位のピカピカ仕様だったが、医局長のもそれに充分対向できるほど、磨き上げられている。それに比べて、相方は・・・・まぁ旅の垢でくすんではいるが、頼もしく見えて、俺はこれでいいと思っているけどね。そうそう、家に戻ったら徹底的に綺麗にしてやればいいのだ。それまでガマンガマン。
そして、問題の(?)あみちゃんが出てきた。思ったよりも元気そうである、若いからもう復活してしまったのか?夕べは暗闇の中でしか見なかったFZをガレージの外に引っ張り出す。新型のFZ400はかなり大きく見える。聞くと、このバイクは大学の先輩から只で譲り受けて貰ったらしい、しかし、マフラーは過激な跳ね上がりが印象的な2本出し、リヤサスはオーリンズ、ブレーキホースは全てステンメッシュに換えられている。ワカバマークのライダーが乗るような状態じゃないんじゃないの?しかも、リミッターカットしてるみたいだし。そして、あみちゃんが荷物を取りに裏の倉庫に行っている間に医局長がおもむろにFZにガムテープを貼り付け、マーカーペンで「KAWASAKI」と書き始めた。そうか、たしかKCBMは川崎車以外の入場は駄目なんだったけか。それに芸が細かい医局長。FZのFの所にもテープを張って「Z」にしてしまった。
「おっしゃ、これで完璧だべ」
そそそ、そうかなぁ・・・思いっきりFZなんだけどなぁ。医局長の旧友A氏も赤いMkⅡでやって来た。この人のもピカピカ。まぁ絶版車で遠出する人なんて限られているからこれがスタンダードなんだろうなぁ。全員揃った所で出発。総勢9台か。ここで、皆に遅れまいとあみちゃんが慌てたのか、歩道から車道に出たときに大きな段差にはまって体制が崩れ、アクセルを大きく捻ってバイクから振り落とされそうになった。
更に本人は慌ててしがみついたので、そのままFZは歩道に飛び込みA氏の仕事場に突っ込みそうになったがどうにかリカバリー、「あああ、朝から嫌なもん見ちゃったなぁ」焦りは禁物。こんなんでしょっぱなから事故られたんではたまったものではない。
国道を走り繋いで途中のGSで給油。更に走って、盛岡南ICの出口で埼玉から来たと言うZep750のライダーと合流。そして、CBのS氏は自宅に緊急の用事が出来たと言う事で、ここで残念ながらお別れとなった。
ICを出発、R46で田沢湖に向けて走り出す。しかし、生憎の曇り空だというのに、田沢湖へ向かう国道は車が多く流れが遅い。信号で次々と隊列が切れ、その度に先行したメンバーは待つという繰り返し。台数が多いとこう言うことが多くなってくるから大変だ。途中のコンビニで朝飯を買出し、その間にも沢山の川崎車が通り過ぎていく。皆、当然デカイバイクばかりで殆どがマフラーを換えているので、物凄い音である。けたたましいのではなく、地鳴りのような音である。留寿都のミーティングでも、そうだった。パーキングから全員が一斉に出発する時のあの轟音だ。更にその先の道の駅で2台のバイク乗りが合流。MkⅡA氏の知り合いらしい。黄色いZ1-Rとトムキャット、まぁどれを見てもでかいのばかり、やはりビッグバイクのカワサキである。カワサキと言えばビッグバイクとなる訳だ。
思い出深い仙岩道路をトラックを避けながら走る。
程なくして今回の会場がある田沢湖スキー場への分岐点に到着。そこからは、車の数はグット減るが、バイクの数がドドッと増える。あたりまえか、此処から先には温泉街とスキー場しかないのだから。
会場に到着。
ここで、あみちゃんのFZがオフィシャルに停められてしまった。本人はそこでカワサキと書いてあると説明したが、当然受け入れられず、姐さん達が応援に駆けつけたがやはり駄目。仕方なく会場の隅っこにFZを置いて荷物を持ってやって来た。まだ、開聞してから間が無いのか台数は5~60台と言った所。しかし停めてあるバイクには県外ナンバーも多く見受けられ、このミーティングの人気の高さが伺える。そこに、見たことある人が近づいてきた。おお、ざぶん氏である。今回は家族サービスも兼ねてやってきたとの事で奥さんと子供二人を引き連れている。長男のシーヤ君は1箇月ほど前に酒田市内のビヤホールで一緒に飲んだ事を憶えていてくれてたようで、なんとなく嬉しかった。暫く経つと、場内アナウンスが流れ受付開始。途端に長だの列がテント前に出来る。ぼやっとしていると、その列がドンドン長くなっていくので早々に列に並んだ。しかし、この立って待っているときが一番辛い。寝不足、旅の疲れ、二日酔い気味。フラフラする。あくびが連発する。救いなのが今日の天気だ。これがピーカンだったら、ぶっ倒れていたかもしれない。姐さんも頭が目覚めてきた途端に、頭痛が酷くなりしんどそうである。一方のあみちゃんは、夕べしっかり寝たせいかピンピンして、相変わらずキャピキャピやっているが、会場に入ったばかりの時には初めてのミーティング参加、そしてこのバイクの数に少々圧倒されているようだった。
自分に順番が廻ってきたので、名簿に名前やらなんやらを書き、ステンレス製のマグカップを貰い、ヘソ出しで涼しげなKAZEギャルからコーヒーを入れてもらう。参加費は無料で、コーヒー一杯が頂ける。この為に皆さん遠路遥遥やって来るのか・・・・・いやはや、恐れ入る。自分にはそこまでして馳せ参じる気力は無いなぁ。どこかツーリングしててその途中で寄るってんなら、分かるけど。
その後はご歓談タイム。自分がトイレに行って戻ってきたら、不意にマグカップが入っていた箱が飛んできた。その来た先を見ると、なんと「おばんがです」さんではないか!あの4月の仙台で開かれた第1回ざぶん会の幹事を請け負ってくれた人である。そして、開口一番。
「汚いZですね~~」
だって。そんな言葉もう、ミミタコだってぇの。
その後もあそこがいかれてるだの、ここが壊れそうだのと色々指摘してくださった。相変わらず、Zには見る目が厳しい。ましてやこんな長距離をフル積載で走っているZ1を見るのは生まれて初めてのようで、しきりに「信じられない」を連発していた。
一方ざぶんさんは、車で来たことをいい事に自前のアコギを持ってきて居た。ざぶんさんは真っ先にそのFGを自分に手渡し「まずは弾いてみて下さいよ」と貸してくれた。ほぼ2ヶ月ぶりのアコギ、う~ん懐かしい感触だ。この日の為に弦も張り替えてきたという、その音は澄み切っていて心の琴線に染みてくる。なんだか、無性に家に帰りたくなってきた。芝生の生えていない浄化槽の上に車座になって、ざぶんさんはジャカジャカとギターを掻き鳴らし、歌を歌い出す。(こう言う所を場所に選ぶセンスがこの仲間のいいところかも)次に表彰式、一番遠くから来たと言うライダーに遠路賞が送られるのだが鹿児島来たと言う二人組みが賞を貰っていた。
で、なんとなく自分はそれが面白くなかった。
考えてみれば、ここまでの道程での距離を考えたら会場の中で一番距離を走って、やってきたのは他でもない自分と相方である。鹿児島から真っ直ぐこの会場まで走ってきたとしても、せいぜい1500キロ弱だろう。しかし、相方は既に4000キロを走りきっている。賞を貰うのなら文句なしに自分たちの筈なのだが、きちっと証明するとなると、これは難しい。証拠になる物は一杯有るが、余にも量が膨大で説明するだけで時間が終わってしまう。釈然としないが、ここはすっぱり諦めることにしよう。
そして、じゃんけん大会、自分はあのステージに立っているKAZEギャルとはまともにじゃんけんで勝てなかった、せいぜい3回まで勝ち進んだのが1回だけであとは初戦敗退の連続。やる気は既に無かった。とくに欲しい!!!というもの無かったし。まぁこう言う所で只で振舞われる物は所詮こんな物ばかり、仕方の無いことか。姐さんは最後に出てきたニンジャタオルを異様に欲しがっていたが、その執念も実らず敗退してしまった。いいじゃない、姐さん。来年もここでミーティングがあればサクッと出かけられるんだから。
なんだかんだで、騒々しいままKCBMは終了。
ここで、自分は携帯で今夜の宿の手配を済ませておいた。夕べはA氏から「家にとまっていけよ」と温かい言葉を頂いたのだが、正直今晩ばかりは酒抜きで、体をクリーンにして、溜まった日記を少しでも片付け、早く寝たかったので丁重にお断りした。また、今度の機会東日本でオフ会が開かれたらお世話になるかもしれませんのでその時はよろしくお願いします。
昼の時間になったので、ここで東京遠征隊は東京まで今から一気に帰るのだそうだ。しかしあまりのバイクの台数が出口に殺到しているので、またたくまに見失ってしまい、満足に挨拶も出来ずにお別れしてしまった。一方、東北方面のメンバーは更に山を登た先にある食堂街にて昼飯を食べる事になった。
そして、駐車場に戻り、ここでいよいよ散会である。夕べ一睡もしなかったという医局長はもう限界のようで、さっさと帰ってしまった。A氏も友人を引き連れて山を降りる。自分も、疲労と寝不足が限界ギリギリ状態なので、お世話になった方々に挨拶をして廻ってそうそうに撤収させて貰った。祭りの後の寂しさがまたやって来た。留寿都の時もそうだった。何度味わっても何度経験しても嫌なものである。これが単独での参加で、だれとも満足に話をしてなかったら、それ程感じられなかったに違いない。
山を降りる。左手には秋田駒ケ岳の先鋒が聳えている。今度は、あの山にでも登って見るか・・・。R46に出て、来た道を引き返す。岩手市内でA氏に教えて貰った温泉センター「MARS」に立寄って2日ぶりの風呂に浸かる。しかし、着替えを出していなかったのでおなじTシャツをもう一回着なければならない。確か、この下着は田老町のキャンプ場で着替えた物の筈だから、3日間汗だくのまま着っぱなしだと言う事になる。うへぇ~~~汚たね~~。しかもなんだか臭いし。はやく宿に行って着替えたくてしょうがなかった。北海道に居た間は毎日のようにふろに入っていたのに、此処にきて暑い日が続いているのに風呂に入っていない。どうも、慌しいとそう言うところがおざなりになる。旅に出て風呂に入らないなんて、時間のある自分にとってはおかしな話ではある。しかし、アルコールをしたたか呑んだ後に風呂に入って大失敗した事があるので入れないのだ。本当は宴会が始まる前に済ませて置けばよかったのだが昨日今日とバタバタしていたので、それを逸してしまったのだ。川原毛温泉だって、あそこはよほど空いていない限り体や頭なんか洗ったら顰蹙を買ってしまうだろう。だから、あそこでは浸かるだけに留まっていた。
風呂でバッチリ頭や体を洗い、すっきりした所で温泉センターを後にする。今夜の宿は高速のインターから至近距離にあるYHである。ここのYHは夕食の提供はしていないので、自分で買って来るか、外食してくるしかない。YHまでの途中にコンビニ発見、買出しをすませYHに到着。
建物は大きいのだが、なんだか薄暗くて不気味な雰囲気が漂っている。応対したオーナーも、見るからに不健康そうな感じがして、暗い。おいおい、あの小松島千歳の二の舞なんじゃないだろうね、と警戒したが、それ以外は特に問題なし。風呂も入れる用意がされていたが、ついさっきまでだだっ広い所でマッタリして来たので使わない事にした。
部屋もどことなく暗く、ジメッとしている。天井の明かりをつけても何だか暗い、オーナーのキャラクターがそのまま反映されているようだ。寝床はベッド、しかしその手元にある読書灯のまたしょぼい事しょぼい事、あのサークラインの紐を何度か引っ張ると、オレンジ色の電球(常夜灯)がつくでしょう?あれが壁に埋め込まれているのだ。こんな灯で本なんか読んだら速攻で目が悪くなりそうだ。
テーブルの上にPCを置き、弁当のおかずを頬張りながらHPの更新とメールチェックを済ませた辺りで猛烈に眠くなってきた。時刻は8時を過ぎようとしていた。「一端寝て、また起きたら日記を書こう・・・・・」そう思って布団に潜り込んだ。しかし、その晩はそのまま目が醒める事は無かった。