道内最後の移動

ニセコ~函館

曇り朝のニセコは快晴であった。
夕べ辺りからラジオで台風の情報をやたらと流している。どうやら列島縦断の最悪のコースを辿るようだ。しかし、8月に台風がこんなコースを通るのは珍しい。何れにせよこちらは南下中の身、真っ向からぶつかるのは時間の問題だ。
とりあえず、用がなくなったニセコを出発する。太陽が熱い。ガソリンが既に山中でリザーブになっていたが、普通なら10キロ少々の道で倶知安に降りればGSは直ぐにある。しかし、本人は何を考えたか、倶知安にはもどらずニセコパノラマラインを西に走る事に決めた。相方のリザ-ブ走行キロは約50キロ。ニセコからパノラマライン終点の岩内間では25キロ。昨日、HPをアップするために倶知安の街中に降りたのでその時にガス補給をすればよかったのだが、クレジットカードをテントに忘れてきてしまい、ガス補給をあえてしなかった。明日エコランで岩内までもたせればGSがあるからと思って、そのままニセコの山に戻ってきてしまったのだ。(他に連れ合いのライダーが居たら、頭がイカレテルと思ったに違いない)だから、相方の残す所の走行距離は30キロ位。
キャンプ場を出発した後は、無理なアクセルワークをせず、ゆったりとワインディングを流した。ガソリンを持たせる意味もあったが、北海道最後の山景色をゆっくり眺めたかったからだ。いい気分で走っているうちに、眼下に岩内の町並みが見え始め、やがて勾配が緩くなってきた辺りで相方がぐずり始めた。おやおや?もうガス欠かい?まだいけるだろう?スロットルを開ける、しかしエンジンがついてこない。やがて、町に入るあたりでエンジンは止まった。
GSのある国道まではまだ数キロある。フル積載、押して行ける訳が無い。道路脇に停まって、相方を前後に揺さぶる。1分ほどユッサユッサとやったあとスターターを回す。「キュルルル・・・・ブオン!」エンジンが掛かった。「ほれみろ、まだ行けるじゃない」長旅で度胸がついたのか、街中でのエンジンストップだったからなのか、不思議と冷静だった。
その後の相方はぐずる事無く、国道R299に合流程なくしてGSを発見、なんなくガス補給、入る事14㍑。こいつのタンク総量は17㍑。3㍑も残っているのに、何故ぐずるのだろう?タンク形状の問題か?7年前道南ツーリングで辿った懐かしの日本海沿いのルートを南下。南の方にやや怪しい雲が広がっている、もう台風の先端が来ているのか。黒松内町から道道に曲がって、長万部町にて大幹線道路R5に合流。更に南下。

直ぐに二股ラジウム温泉の看板を見つけ、再び国道を離れる。7キロほど細い山道の奥に道南では有名な二股ラジウム温泉はあった。しかし、ここにも時代の流れが来ていた。温泉旅館のシンボルとも言えるドームの建物が全く無くなっていて、真新しい建物になっていたのだ。旅館の裏手にある石灰華の山は勿論残されてはいたが、ガイドブックの写真からも秘湯の雰囲気を充分に感じさせてくれたあのドームが無くなってしまったのは実におしかった。

料金は千円と日帰りにしては異常に高い。健康センター並みの値段だ。中に入って、風呂に浸かる。湯舟には湯の花がビッシリと付着していて温泉そのものは本物である事は分かった。その後露天風呂に移動、そこに居合わせた地元のジイサンと暫く話をした。聞くと、この建物は2年前に建て直しされたそうだ。それまでは、ドームの浴室で雰囲気満点だったのに、経営者が変わってから間もなく古ぼけたドームは取り壊され、混浴だった露天風呂も廊下を隔てて男女に分かれた。そして料金は当時500円から千円に跳ね上がった。・・・・・・なんだか、最近聞いたような話だな。経営者は風呂場か綺麗になれば、お客がもっと来ると思っているのだろうが、はっきり行って勘違いしているのではないか?と思う。特に自分みたいに怪しい雰囲気満点の湯治場的公衆浴場が好みの人種は、こう言うところには敢えて行かないものだ。そして、昔から通っている常連のお客さんも雰囲気が無くなったということで足が遠のく。そうなれば、温泉の評判も聞かなくなってしまう。
お客が減るのは目に見えている。経営者が気がついたときにはもう手遅れだろう。なんにも維持管理しないで、不潔なままの風呂場も考え物だが、はっきり言ってこういう改装工事は余計なお世話だと思う。しかもそれで浮き上がった借金の返済を料金の値上げで埋め合わせするなんて、非常識以外の何者でもない。サービス業なんて間違っても口にして貰いたくない。二股温泉、五色温泉は道南のお気に入りの温泉だったが、これによって自分

のリストから削除された。残念な事だ。
R5を淡々と南下。相変わらずつまらない道である。まるで、流れの遅い高速道路を走っているようだ。しんどくなってきたので、途中の大沼公園にて一服。そして、函館市内に到着。気温が高い。今朝着替えをしたばかりのTシャツが瞬く間にグショグショだ。洗濯物がまた増えてしまった。既に、市内に宿は抑えてあるのでチェックインする前にまずフェリー乗り場を下見。単車が結構居る。台風が来る前に本州に上陸してしまうのだろうが、いまから此処をでたら向こうは夜。どうするつもりなのだろうか。次に明日の朝土産物を買出しする、函館朝市の下見、こちらは夕方なので開いているお店は殆ど無い。おおよその雰囲気を見ただけに留めた。
ホテルにチェックイン。

相方を一階の普段は閉鎖しているエントランスに入れてもらった。ここは鍵が掛かるので、治安上は安心だ。ただし250円の駐車料金はしっかり取られたが。

その後、直ぐに洗濯物を抱えて、近所のコインランドリーへ、このホテルの中にはないらしい。立地条件は申し分ない(駅にも朝市にも歩いて5分の距離)のだか、建物はちょっとボロイしコインランドリーはないし、ホテルの中に大浴場もない。鹿児島のビジホが良すぎたのだろうか。洗濯が終わり、帰りがけにホテルの近所のラーメン屋で夕飯を済ませる。
TVのニュースで頻繁に台風の情報を流している。丁度和歌山の串本に上陸したらしい、画面には冠水した町の映像が映っていた。昔自分も相方と共にそこに行った事があったので、心配である。そして、最大の問題は明日だ。明日はこれまでの予定では、朝市に土産物を買出しに行き、それが済んだらホテルにもどりチェックアウトを済ませ、フェリー埠頭に向かって9時発の大間崎行きに乗る予定なのだが、台風の動きが非常に気になる。

まぁ、駄目だったら駄目で作戦を変更するしかない。何れにせよ、本州に単車ごと渡る交通手段は船しかないのだから。その時になったらその時に考えれば良い。その点は、休暇が限られている社会人でない無職人の特権だろう。だから、それほど不安ではない。取り合えず、今夜寝て明日起きてどうするかはそれからだ。