朝から雨だった、夜は酒の雨だった

北海道(支笏湖)~(樽前山)~(札幌)

朝のモーラップキャンプ場の天気は、薄曇であった。時刻は朝の5時。目覚ましを掛けていなかったが自然に目が覚めた。静かな支笏湖の朝である、夕べも良く寝たようだ。湖面を渡って来る風はかなり強かったが。今日は夕方まで特にやる事はなかった筈だった。しかし、支笏湖を挟んで聳え立つ「恵庭岳」を見て、ふと思い出した事があった。
「そういえば、ずっと前に樽前山に登ったのに火口の溶岩ドームの写真を撮っといて無かったんだったっけ」キャンプ場をいつも通りの時間に出発。国道にでて数百メートル走った所にある「樽前山登山車道」はあり、迷わずそこからフル積載のまま入っていった。この道路、入ってすぐにダートになっているところは以前とちっとも変わっていない。だが、ダートはダートでも完全に硬く締まった路面なので。オンロードバイクでも普通に走る事が出来る。調子よく登って行き、もうすぐ終点と言う所で振動で落ちそうになったバイザーに挟んであったウエスを相方を停めて、手で元に戻そうとした時、図らずも久しぶりに立ちごけをしてしまった。
そう、フル積載の状態でである。しかも足元はダートである。出した左足がズルっと行ったのだ、元々短い足の自分の事、当然持ちこたえられる訳が無い。血管が切れんばかりに頑張ってみたが諦めてゆっくりと左側に相方を倒した。反射的にキルスイッチでエンジンを切る。これだけは何時も慌てずに手が動く。そうでないとこんなところでプラグが被ってしまったら、面倒な事になることは良く分かっていたからだ。そして、倒れてしまった相方を引き起こそうとするが、後輪がズルズルと廻って力が込められない、こう言うときに限ってギヤがニュートラルに入っているものだ。しかし、巨大な荷物のお陰でチェンジペダルに手が入る、何度か相方の後輪を廻しながらギヤをローに入れ、もう一度左手はハンドルに右手はシートの縁を持ち(本当は力を掛ける所ではない)渾身の力を込めて引き起こす。
「おりゃ―ッッッッ!!!!」

山の中に響き渡らんばかりの掛け声を出して相方はゆっくりと起き上がってくれた。その声を聞いて、森の中に隠れている熊はさぞかし驚いたかもしれない。相方のダメージをチェックする。フル積載だったのが幸いしてか灯火系や、ハンドル周りの破損はゼロ。但し左ミラーに傷が入ってしまった、まぁこれくらいだったら問題は無い。
登山口がある駐車場に到着した時は、天気は急激に悪化していた。山がゴウゴウと音を立て、霧雨が降ってきた。こんなときに山に登る酔狂な奴は自分ぐらいだろう、と思っていたら他にも2~3台の車が止まっていて、山登りの準備をしていた。普段だったら、とっとと登山を中止し町に下りるのだが、今回は何故か登る気満々だった。この樽前山は標高1000㍍ちょっと、しかも自動車で7合目まで登って来てしまえるので、自分の足で山頂まで辿り着くのに1時間程位で充分な、楽な山なのである。

だから、天気が少々悪くても一端登ってしまえば、例え視界が悪くても先日の雌阿寒岳の様に山頂でちょっと待っていれば、目当ての溶岩ドームを見て写真に収めることはたやすいし、時間もそんなに掛からないだろうと頭の中で計算していた、だから雨でも登る気に自分はなっていたのだ。
所が自然はそんなには甘くなかった。念のため上だけ雨合羽を着て、身の回りのものだけザックに詰め込んで、バイクブーツのまま登り始めたのだが、山頂近くの天気は一層というか相当に悪化していたのだ。森林限界を過ぎ、周りに遮るものが何も無くなった途端に、猛烈な突風と雨の波状攻撃が始まり、まるで台風の中を歩いているような状況になったのだ。まったく、間抜けな話である。一体なにやってんだろうか。半ばヤケクソ気味になりながら道を進み、一応のピークである外輪山の縁に出た。

「・・・・・・・」

何も見えない。目の前は広大な火口があって、その真ん中に想像を絶するような大きさの雷おこしがある筈だった。しかし、視界はほぼ10メートルあるかないか。これでは、数百メートル先にある筈の溶岩ドームを見ることは出来ない。勿論、暫くの間(20~30分間)はその猛烈な風と霧をまともに受けながら、視界が一瞬でも晴れるのを待って見てはいた。だが、結局は体の冷えがきつくなってきたので残念ではあるが、目的の溶岩ドームの影すらも見ないまま、下山することにした。「この借りは、きっと返す」そう心に決めながら。まぁ、簡単に登れる山だからこんな気持ちにもなれたのだろうが、丸1日かかって登るような山だったら果たして、そんな簡単に借りを作る事が出来たであろうか。

再び移動を開始、国道に戻り一路苫小牧市を目指す。夕方の6時に入港する船に、先日秋田でお泊まりさせて貰った「忍」さんが乗っていて、そこで合流する事になっているからだ。流れの速い国道を走る事1時間で苫小牧市に到着。しかし、時間はまだ昼前。まだ港に行くには早すぎる。で、この時間を有効に使わない訳には行かないので、まず予めインターネットで調べておいた苫小牧市内のコインランドリーを探す事にした。ところが、2件ある筈のコインランドリーが実際に行ってみた所、全然使い物にならないという問題がここにきて発生。1件は、コメントで「ペットのコインランドリー」と書いてあったのだが、まさかペットを洗濯機に入れて洗うような店が有る訳が無いと思って、実際に行ってみたら本当にペットを洗う(洗濯機ではなかったがコインシャワーのようなものか?)店であり、人間の衣服を洗う店ではなかった。もう1件は、普通のコインランドリーだったがシャッターが下ろされていて閉店という有様。仕方なく苫小牧駅前の交番に1件だけ営業しているという店を教えて貰い、やっと営業している店に到着することが出来た。

その間に時刻は昼になってしまったので、洗濯機に汚れ物を放り込み運転が始まった事を確認し、近くのコンビニで弁当を調達、店に戻り洗濯機を眺めながら昼飯。後は事が片付くまではやる事は無くなった。乾燥機が止まり、洗濯はこれで完了。これだけでもかなり気分がすっきりする。

苫小牧の国道を東に走る。次は、登山で冷え切った体をほぐす為に温泉に浸かるのだ。場所は苫小牧西港から船に乗る単車乗りだったら誰しもが利用するであろう「湯らり」だ。ここは、国道沿いにあるし建物も大きいので、車の流れに乗って走っているだけで直ぐに見つけることが出来た。「忍」姐さんと落ち合う時刻は夕方の6時。今は3時過ぎなので相当にゆっくりしていられる、風呂から上がり、2階の休憩室の長いすに寝そべり携帯の目覚ましをセットして暫く寝る事にした。

5時ごろに目覚ましが鳴り・・・・・いや電話が鳴っている、あわてて出ると「忍」姐さんからだった。
「船が予定よりも1時間早く着いちゃうみたい、もうすぐ船が着岸するからよろしくね」
との事、時計を見るともうすぐ5時である、どうやらそろそろ出なくてはならないようだ。再び雨に備えての重装備に着替えて「湯らり」を出発。雨は本降りではないが、しとしとと鬱陶しく降り続いている、今日は夜まで走るだろうからかなりきつい移動になるかもしれない。電話で苫小牧東港の場所は以前に「忍」さんから確認はしていた、しかし、そこまでの道は自分の持っている地図には詳しく出ておらず、分かりにくい。電話口で

姐さんが

「海ッペリの道をひたすら東に行けば港に突き当たるからすぐ分かる」

とは、言っていたが国道を外れ埋立地の中の一本道を幾ら走っても、その船が着くような港やターミナルビルが見えてこない。終いにはその道が終わってしまい、発電所にぶちあたってしまったのだ。「これは、こまった」
時計を見る、なんだかんだで6時近くになっている。姐さんはとっくに船を降りている筈だ。所がその発電所がその後のリカバリーのランドマークになってくれたのだ。自分の持っている地図に、その発電所の地図記号が記されているのを発見したのである。これで今自分がどこにいるかも分かったし、このあとどうやって東港に行けばいいかも分かった。結局は素直に国道235を走れば、直ぐに港に行けるのだ、へたに裏道でショートカットしようとしたのが失敗の始まりだった。国道をはしって直ぐに、港を示す標識が現れそれにしたがって、国道からはなれ再び海に向かって走り出す、程なくしてターミナルビルが見え、新潟から乗ったのと同じような船体のフェリーが停泊しているのが見えてきた。ターミナルビルの前に、シルバーのバリオスが1台。ビルの陰から相方の爆音を聞いて「忍」さんが出てきた。
開口一番「遅い!(怒」
時計は6時を大幅に過ぎていた。この船が定刻通りに到着していればこう言う風にはならなかったのだが、今回はちょっと裏道を良く分かっていないまま走ってしまったのが失敗だったようだ。

早速今度は札幌のバイク仲間である「まーぼ」さんちに向けて出発。国道を引き返し、苫小牧東ICから道央道に乗り、北広島ICで高速を下りた。天気は札幌に近づくにつれて回復してきた、綺麗な夕焼けも見えた。明日は晴れるのだろうか。でも、夕べの支笏湖でも美しい夕焼けを見た。その光景をデジカメに納めてまでした、しかし翌日の天気はこの通り。夕焼けになると明日は晴れという言い伝えは半分当てにならないという事か。ICの料金所を出たところに、HOGを横に停めてタバコをふかしている怪しげな男の人がいたが、その人が今晩の寝床を提供してくれる「まーぼ」さんだった。挨拶もそこそこにまーぼさんを先頭に札幌の街中を走る。夕方のラッシュ時ともあって、市内の道路は到る所に車が溢れ返っている。地元のまーぼさんはHOGの野太いマフラーサウンドを響かせながら、スイスイと車の間を縫ってドンドン先行して行く、

フル積載の相方と自分は目一杯アクセルを開けてなんとかついていく、荷物の少ない「忍」さんは、軽い車体を生かしてスイス

イとまーぼさんのHOGについて行く。

「今日は朝からきついな」思わず、メットのなかで呟いた。札幌中心街から少し外れた南側の閑静な住宅街の中にまーぼさんの自宅はあった。ガレージのシャッターを開けると、その雰囲気はまさに男の遊び部屋そのものだった。ガレージの中にはほぼノーマルのZ2があり、そしてその奥には懐かしい赤色のホンダXLが置いてある。片隅には何故か冷蔵庫、ドアを開けると中から缶ビールが出てきた。自分の自宅にもガレージはあるにはある、だがただの屋根つきで夏には蚊の大群、冬は北風に吹きさらされるような構造になっている。いつかはこう言う風にして、ちょっとした整備工場みたいな感じにしたいものだ。家の中に持ち込む荷物と、そうでない荷物と分けてまったりしている時間もなく早速まーぼさんがセッティングした「宴」の会場に向かった。

その会場はまーぼさんの自宅からすぐの所にある、こじんまりとした居酒屋であった。自分ら3人が会場に到着した直ぐ後に、まーぼさんと忍さんが呼んだお仲間がゾクゾクと集合、総勢7人で賑やかに乾杯となった。まーぼさんは明日午前中仕事があると言っていた筈だったのだが、やけに呑みのペースが速い。自分でビールジョッキを何杯かお代わりし、こっちが日本酒を頼むと「おれも」と日本酒をガンガン呑み始めた。

バイクの話や、シモネタ話が炸裂したりと楽しい時間もあっという間に過ぎ、時刻は翌日の1時半。気がつくと店の中には自分たちの他にお客さんが居ない。
「マスター、ここのお店って何時までやってるんだっけ」

とまーぼさんがろれつの回らない口調で聞くと。
「お客さんが帰るまでです」

との事。と言う事で、ここでの宴会はお開きとなった。ここで忍さんが呼んだお仲間のバイク乗り「uta」さんが明日は仕事だとの事で乗ってきたZEP1100に跨って退却。彼は、基本的に呑めない体質との事なので心配は要らないだろう。その後は、成り行きというか半ばまーぼさんの「2次会行ってみよう!!」との一言で、2次会開催が決定。歩いて直ぐのパブというかスナックに入り、2次会が始まった。

また、ここの店長がかなりのツワモノというか、そうとう古くからのまーぼさんとの付き合いがあるようで、バーボンをストレートで空け捲ってへべれけになって絡んでくるまーぼさんを上手い様にあしらっていた。別人モードに突入してしまったまーぼさんが、皆から離れて一人でカウンターに座るや否や、横にあった椅子を次々と蹴っ飛ばし始めた。

「あ~あ、しょうがねぇなこりゃ」

とみんな口々に言いながら吹っ飛んでしまった椅子を片付ける。

「まーぼさん!相当酔ってンの?もう帰る?」

と忍さんや店長が話し掛けても、本人は全くの反応なし。相当に酔っているみたいだ。大丈夫なのだろうか、まーぼさんの会社のお仲間や友人が流石に心配そうにまーぼさんを見ている。マスターのカラオケ独演会に始まり、久しぶりに飲んだバーボンに咳き込みながら、出されたつまみもまともに摘まないまま、訳の分からない内に2次会が終了。

ここでまーぼさんの会社の同僚の方がお別れ。1次会会場までまーぼさんが運転してきた車を、友人のジュンさん(大型免許所持者、ハーレー予備軍)が運転し自宅へ。そして、よろけながらまーぼさんは自宅の中へ入っていった。背高のっぽで金髪の如何にもハーレーライダーっぽいジュンさんは、忍さんが呼んできた友人(♀)を送るために自分の車で退却。忍さんは留寿都で開催される明日からの「Zミーティング」前夜祭から参加するので、自分と一緒の部屋でお泊まりである。なんだか、ちょっと怖い(色んな意味で)。本日の宴会は無事終了と思いきや、台所の椅子に座った途端、まーぼさんが何処からか缶ビールを持ってきて「はい、1人一缶ね」と手渡した。まだ呑むのかい!まーぼさん宅での3次会が終わったのは、窓の外が白み始めた3時過ぎだった。あ~、疲れた。そいでもって、明日も明後日も宴会があるのだからこれは相当に体に応えそうである。