○八月十七日
利尻山登山
午前四時 晴れ 沓形岬キャンプ場
テントから顔を出す、何となく暖かい。見ると利尻山が山頂まではっきり見えている。
すごい迫力だ。百名山の第一番目に恥じない山容は見事としか言いようがない。そして山裾には雲海がながれ・・・・・?雲海は早朝に標高の高いところからしか見えないはずだ
が、ここでは海の上すれすれを流れる雲が雲海となってみえ、あたかも岬のキャンプ場が山頂に瞬間移動してしまったかのような錯覚を与えるのだった。・・・そして、日の出はなだらかに描かれた稜線から。
その光景は、無料のキャンプ場にしてはあまりにも勿体ない程の眺めであった。今回はカメラ装備も充実しているので、恐らく人に見せても恥ずかしくない写真がとれたと思う、仕上がりが楽しみだ。
山頂へのアプローチは二箇所、ここ沓形と鴛泊。沓形からであれば数分で登山道に差し掛かることができる。しかし、自分としては下山のついてに利尻富士温泉に立ち寄りたいので多少時間はかかるが鴛泊まで相方に乗って移動し登山を開始することにした。
沓形から見えた雲海の下が鴛泊の町であった、雨は降っていないものの、強い温った冷たい風が見上げる山の上から吹き下ろしてくるのが感じられた。
登山道入りロの管理事務所にて登山届けを出しだのが午前六時半。帰りに死ぬほど飲むつもりでいるので、かの有名な「甘露泉水」は素通りする。誉蒼とした原生林は五合目迄で、視界は六合目からは北国の山らしい光景が展開する。山にぶつかっていた雲のなかを通過する、まるで大型冷凍庫の扉を開けたときのような風が吹いている、オーストラリアツーリングで買ってきたオージーハットが飛ばされそうになる。しかし、雲が一瞬でも途切れると真夏の太陽が照りつけ途端に気温が上昇する、典型的な高地の気象変化である。
さて、肝心の登山道の方はというと、ここまではそれなりにきついが、吹いてくる風が冷たいのでスタミナの消耗はあまり感じられない。だが、沓形ルートと合流する九合目あたりからは嘘のように傾斜がきつくなり、数十錨進んではゼエゼエを繰り返す。水も飲みたかったが全量一リットルしか持ってきていないので、無駄にはてきない、頂上までの残り数十分はまるで酔っぱらいの様にフラフラとよろけながら約三時間四十分かけてとうとう山頂に到着した。
夏休み中とあって、二十坪ほどの広さの山頂は四方をガスに囲まれて視界は効かなくなってはいたが、十五人程の人が休んでいた、険しい山だからだろう、家族連れはいない。
麗のYHから登ってきたという関西人のグループがやかましく騒ぎ立て、山頂の静けさはなかったが、時折ガスが晴れるとその景色は正に絶景かな・・・である。
去年の帰りのフェリーでの事。谷さんは礼文の他にも利尻に寄ったという。「利尻山を隔てて東と西で天気が変わるんです。運がよければ天気のいいときはずーっと晴れてますし、風もないですね。」と、話していたが今自分が目の当たりにしている光景は正にそれだ。
道内に雨をもたらした雲が周囲に遮蔽するもの一つ無い利尻山にぶつかり二手に別れている。自分がテントを張っている沓形付近は日が差しているのが上から見ても分かった。
溜まっていた洗濯物を千しておいて正解、してやったりである。
この感覚は頂上を究めた人にしか分からないし、また登山を続けてゆこうという気持ちにさせてくれるのである。
この山は日帰りで十分行き来できるのだが、中には本格的な装備を身につけ、七合目の避難小屋で夜を明かし、翌日日の出を山頂で迎えるという人もいたが。とてもそんな気持ちには賛同できなかった。何故なら小屋の周辺の地面は明らかに登山者のものである野糞地獄になっているからである。
野良犬だって用が済んだら土を掛けるのに、何故こいつらは穴の一つも据らずに置いていくのだろう?全く低能な人間が多いのにはほとほと呆れる。登山者失格以前の問題である。
頂上にて軽食をとり、その際に水を飲んだことで飲料水は底を付いた。どうやら羊蹄山と同じパターンになってしまった。(懲りない奴・・こうなったら休憩なしで一気に下るしかない。と考えたのも同じだった。(学習しない奴)山頂からダウンヒルレースなみのペース約二時間半程で先程の甘露泉水に到着。
無論、登山途中でチェックした眺望ポイントや高山植物の花はしっかり写真に収めてきた。
しかし膝がキツイ。羊蹄山の時も故障寸前だったが、今回も関節が外れそうだ。今年のオフシーズンになったら絶対に登山様ストックを買わねば・・と膝を摩りながら思った。
ヘロヘロになって下りきった所に湧き水かおるのは本当に有り難い。つくづく日本の山に恵まれている所だ、と実感しグランテトラになみなみと入った湧き水を一気に空けた。
最近オープンしたばかりだという利尻島初の温泉[利尻富士温泉」は立派な建物で、先客も多く居たが間取りが広いせいだろう、心なしか空いているように感じられる。
冷たい風に栖され、運動不足に音を上げた足を摩りながら湯船に入る。んー至福の時だ。
山から下りてすぐ温泉・・・・・なんて世界中を探してもこんな場所はそうそう無いだろう。しかし日本のなかにはこんなのが幾つもある。この時だけは日本人で良かったと思う。
さて・・・あとはテントに帰って飯食って寝るだけだ。