○八月十四日
午前四時五〇分 雨 小樽→天売島
自分が夏休みを迎える前に、既に渡道している友人が二人ばかり居る。
谷さんと苗村さんである、谷さんは去年の北海道ツーリングレポートで登場しているがその友人の苗村さんとは既に内地のツーリングで二度一緒した人である。
この人、一見は質の悪いチンピラかトラックの運ちゃん風で横山やすしに似ていて近寄りがたい雰囲気を漂わせているのだが、立派な現役のライダーで9Rニンジャを手足のように操り、峠を所狭しとかっ飛んでいる、そしていざ話をすると意外とあったかみがあって(スリスリ)人懐っこく (スリスリ)おもろい人なので、すっかり自分と意気投合してしまっている仲なのだ。
一方谷さんは単独で道東へと渡り、今日あたりは足寄の宿に泊まっているらしい。肝心の天気の方は良くないという。そして、苗村さんの方は急速の渡道となりバイクではなく愛車その二のランエボVで東北道をかっ飛び大間埼から渡道し今朝小樽からこのフェリーで新潟へ戻るつもりらしい、もちろんキャンセル待ちでだ。
二人とも日程はずれているものの、一週間十αほど道内に滞在していたが、天気が全面的回復する様子はなく、「去年と一緒だ!」と電話口で嘆いていた。
と:・・言うことで、毎年天気が思わしくない小樽に船は入港し、岸壁には黄色いランエボVが停まっているはず・・・なのだが、どこを見渡してもその姿がない。ターミナルビルの中にも本人の姿はない。前日の電話では「Tavitoさんが乗ってくる船に自分が乗って帰るつもりですから、お出迎えしますよ!!」と言っていたのだが、どうやらすっぽかされたようだ。相手の携帯も繋がらず留守電になってしまう。ビル前の駐車場でこ二〇分程待ってみたが、天売島のフェリーの時間も考え苗村氏の携帯に伝言を入れ、三回連続して晴れなしの小樽の街を後にした。
札幌・石狩・厚田・浜益・増毛、と早朝のR231をひたすら北上。鉛色の空と時折パラつく両、人けのない民家、一匹の野良犬。信号も殆ど無く20~30分位は地面に足を付くことはない。とても夏の北海道とは思えない光景が延々と続いている。左手に広がる海は日本海、しかし鏡のようにベタ凪で湖岸を走っているようだ。
留萌に差し掛かる辺りから空か明るくなってきた。去年と全く同じパターンだ。
そして、小平・苫前と来て、羽幌では晴れ。西よりの風が強く肌寒いが小樽から着たままだったカッパを身に付けているのは余りにも不自然な天気だった。
フェリーの大きさとしては中型の部類であるこの船にバイクごと島に渡るのは本日は自分だけのようで、車が二~三白人れば満車になってしまう車両甲板には大量の生活用品と食料が入っていると思われるダンボール箱と軽トラー白、そしてどでかい荷物を積まれウンザリしているような面構えの相方が一台がいるだけだった。
ところが、客室は超満員で通路も階段も人で埋まっている。まるで通勤ラッシュの連絡船のようだ。
一時間四〇分極で天売島に到着、ドッと吐き出された人々はまず港周辺の売店に群がりそして島内の民宿のだろうか何白かのマイクロバスに飲み込まれ散ってゆく。
まず島に上陸したらやる事は、この重たい荷物を下ろすこと。そしてキャンプ場探しである。天売島のなかで唯一あるキャンプ場は島の西側の黒埼海水浴場・・・・・・と今年発行のビッグラン北海道には記述してあった。しかし去年発行のツーリングマップルでは、その表示はない。だとすれば前者のほうを信用するのが自然である。
一周約十二キロの道をチンタラ走る。しかし、キャンプ場が有るべき場所に来ても看板らしいものはなく、そうこうしているうちに元の場所に戻ってしまった。もう一度走り出し、地図の上で示されている場所にてウロウロと歩き回る、左手は崖となっていて落差にして20~30メートル程の崖になっていて、崖の上から海を見下ろすと地元の子供であろうか浮き輪やらビーチボールで遊んでいる。
ここが海水浴場なのであろうか?砂浜もなく大岩が入り組んだ海岸線で、海水浴と言うよりは磯遊びの為の場所である。
通り掛かった地元の中学生に間くと、この場所は確かにキャンプ場だったが今年からキャンプは禁止になったのだという。その理由はマムシの被害が頻発したからだそうだ。
なるほど、周りを見渡すとくどいくらいに「マムシに注意」の看板が林立している。
ロケーションが抜群の所だっただけに残念だが、理由が理由だけに無理にテントを張る事はやめた。その代わりに島の反対側にある港町を見下ろせる丘「愛鳥公園」がテントを張るには好都合な場所だったので今夜の宿はそこに変更となった。
「愛鳥公園」はレンタサイクルで島を一周してきた観先客が一服するのに利用する為か、時間もまだまだ日中とあって訪れる人が後を絶たない。こんな時にテントを建てれば顰蹙を買うばかりでなく、イタズラされる可能性もあるので、公園内にある東家にバッグ類をまとめて置き、自分もカメラ片手に島内観先に出掛けた。
この島の目玉は「赤岩」と呼ばれる海鳥の大繁殖地だ。そこへは、島一周道路から遊歩道をあるいて五分の所にあった。首都圏で売られているガイドブックには殆ど紹介されていない観光ポイントだったのでそれ程期待していなかったが、とんでもない。その光景はあの「襟裳岬」にも匹敵する目も眩むような断崖絶壁、そこにヨーロッパ中世に建てられた教会の尖塔を思わせる赤岩が海のなかから突き出ている。
その周りを気流にのって沢山の海鳥達が舞っている。展望台の後ろには二階建て程の高さの灯台があるが、その周りの地面は「ウトウ」という海鳥遠が作った巣穴で蜂の巣のようになっている、自分が訪れたときは全くの無人・・・無為だったが、これが子育ての時期(六~七月上旬)の日没後は海での狩りから帰ってくる親鳥達で大騒ぎになるとの事だそうだ。
という事で、海高速の帰巣シーンは無理との判断を下し、気に入ったところでパチパチと写真を取り、島を一時間程かけて一周した。島の殆どが切り立った絶壁によって囲まれているので外敵に襲われることが少ないのだろう、島の何処へ行ってもウミネコ等の鳥の姿を見ることができた、島じゅうが鳥の住処になっている。そしてその姿は人をも恐れずのびのびとしていた。島内を巡る道路は再び港町に戻った。ここだけは人の数が多い。そして、二年越しの夢であったウニ丼を港町の食堂にて頂いた(二五〇〇円也)。
その昧は今年の冬、スキー合宿で訪れた小樽の寿司屋のウニの握りと同じ、クセが全く無くうまみ最高!三年前に道内で初めてイクラ丼を初めて食したときに恵ったことが頭の中を過った。どうしてこんなに旨いものがある事に早く気づけなかったのだろう・・と。
タ食は北東から吹いてくる強烈な風との戦いであった。ここ高台の公園は周りに遮るものが何もなく海鳥がホバリングするのにはもってこいだが、自分のテントは台風の只中にあるかのような状態でひしゃげ、ポールがギシギシと音を立てている。
飲料水は公園内に付き物の水道がなかったので、街まで降りてターミナルビルの真ん前にある水飲み場から失敬してきた。こんな状態に慣れっこな自分は、この風を利用して洗濯物を乾かしたり、食器を洗ってはロープら吊るして乾かしたりするのだから、ちっとも不自然には感じていない。ただ寒いのと、ストーブの炎が安定してくれないので、食材の加熱に少々の工夫が必要となっただけだ。
しかし寒い!
この寒さは去年訪れた大山の麓のキャンプ場「鏡ケ成キャンプ場」で味わったのと双璧だ。ゴーゴーという風の音とバタバタというフライシートの音でラジオもまともに聞こえない。だがとても静かである。こんな所でキャンプしているのは自分一人。推にも咎められることはない、言うことはなし。
夜が更け、明かりを消せば見えるのは街の灯と星だけだ。