○ 八月十二日 渡島半島を更に南下

午前五時 大成町キャンプ場~大沼キャンプ場
服朧とした頭のまま、からからに乾いてくれた洗濯物を取り込み出発。行動をおこした
のも朝食をとったのも早いので出発もこのキャンプ場一番であった。天気は曇りだが気温は高く、雨が降りそうな気配はなかった。単調な風景の続くソーランラインを走り、民謡で有名な江差町を通過、他に立ち寄りたくなる所もなく当初の予定だった松前のキャンプ場は昼前に辿り着いてしまったのでそのまま通過、北海道最南端の白神岬から去年自分が北海道行きを決心した下北半島を拝んだのち、函館までの途中にある木古内温泉(きこない)にてひとっ風呂浴びる。

その点四国や近畿と違って温泉には困らないので多いに助かる所である。
久根別(くねべつ)にて食料買い出しを済ませ、道南では有数の観光地である大沼にステアリングを向けた。
上陸してからはどちらかというと閑散としたキャンプ場で過ごしてきた自分にとってここ大沼はキャンパー銀座と呼べるほどの賑わいであった。大沼の玄関口である駅は軽井沢なみの人出であり、沼を巡る周遊道路は昼間から暴走族が走っているし、まあ広大な北海道のイメージはここには微塵も感じることは出来なかった。キャンプ場は沼の各所にあり幾つか下見をした結果、一番サイトが広そうにみえた東大沼キャンプ場に今日・明日の宿を構える事にした。

サイトにはこの早い時間から沢山のキャンパーで埋め尽くされており、自分らは人工密度の低い離れた静かな場所にテントを立てた。サイト内は車両の乗り込みは禁止されており三百な離れた駐車場にバイクを置かなけれぼならないという不便極まりない作りになっている。つまり、バイクが心配で側に停めておきたければうるさくても入口近くの薄暗い林の中にテントを立てなければならないという訳だ。その林の中には既に先客のライダーがいてサイトは塵の散らかっているところや、先日の大雨で出来た水溜まりのあるところしかなく二日も連泊するには余りにも条件が悪すぎた。かといって、路肩に車両を停めておくと公園を管理しているガードマンのおっさんがやってきて「○○ナンバー1234の車の持ちぬす(持ち主)の人、駐車場に移勤すて(して)下さい!」とスピーカーで怒鳴るのでそうもいかない。彼らの言い分はこの周遊道路は道幅も広い方ではなく歩道はサイクリングコースになっていて、バイクを停めておいたら子供が接触して事故を起こしたという事が過去にあったので徹底的に排除するのだそうでこれは仕方ないと思った。
だが、ころんでもただでは起きない自分の事、ここは作戦を練って昼間相方に乗らない時はどうしようもないので駐車場の出しやすい所に置いておくが、夜になったらそこから出して自分のテントに一番近い藪の中にかくしておく事にした。
とにかく相方の名は『ZI」。いつ悪戯されても持っていかれてもおかしくないからである。
荷物を上げ下ろしする時のみ路肩に停め、とりあえず相方を駐車場に入れた。その周りをみまわすと訪れているラィダーが明らかに内地とは違った雰囲気を持っている者達ばかりだという事に気がついた。『ZI』や『KI』ばかりの旧車集団でそのライダーほどいつもこいつもゾディアックみたいな看板を背負っているし、一歩間違えれば自由業のオッサンと見間違うばかりのオフローダー軍団、頭の先から足までロックミュージシャンというカップルやら早くも出来上がって焚き火の周りを踊っている奴がいたり、それ以外にも内地ではお目にかかる事の無かった人種が色々と集まっていた。
人間は一杯いたが比較的静かな夜がやってきた、七時近くまでがなっていたオッサンどもの声が聞こえなくなったのを確認したのち、洗い終えた食器を抱えて相方の元へ。「お、『ZI』だ」という声が聞こえる横を押して駐車場を出、ノーヘルのままテントの方向に走り、昼間目星をつけておいた藪に相方を突っ込む。これでOK、テントから顔を出せば見える位置に相方のテールレンズが闇の中に光っているのを確認して眠りについた。 |