自宅~美山YH
〇四月二十七日
午前三時
ゴールデンウィーク前、最終日だというのに遅く迄働かされたので、起床時刻をいつもより、一時間遅らせての出発となった。天気は上々、G/Wあたりの怪しい雲は全く無く、今日は快晴が期待出来そうである。
四時ジャスト、京葉穴川ICから高速に乗る。京都東ICを降りたのは、午後二時位だっただろうか。予想通り京都市内の交通量は多いものの、東京都心のように大型車が我が物顔で闊歩しているのとは訳が違い、以外とすんなりパスする事が出来た。
いい印象のない京都をさっさと素通りしてR162に入り北上。このころの気温は初夏を思わせる物で、30度に迫ろうかという暑さであった。
今回の最初の宿はYH。ここへ至る迄の道沿いの風景で気がついたのだが、去年琵琶湖湖畔の町、マキノ町の奥の『在原』という集落で見た家並みと同じ物が、今走っている沿道の両側に立ち並んでいるのである。一軒一軒が富山県白川郷の合掌造り瓦バージョンといった感じで、それぞれの家の軒の部分に立派などでかい家紋を掲げていた。
YHの直ぐ側まで来ているのだが、例によって今年もユースのガイドブックを家に置いてきてしまい、所在地も分からずウロウロする。地元の人に聞こうとも、人の姿は無く。暫く集落のメーンストリートを歩いている内に、大きな民宿の案内標識を発見へ事亡きを得た。
YHに着き、相方から荷物を下ろす。宿へ無事に到着したという安心感からか、強烈な疲労感が溢れてきた。
宿の中で必要な物とそうでないものとを分け、相方と荷物はペアレントさんの計らいでガレージならぬ納屋に入れさせてもらえる事となった。YHの構えは古めかしい萱拭きの農家風だが、内装は到ってモダン。部屋は三人一つで寝床はベッドであった。夕飯まで少々の時間があったが、風呂には入らずそのままベッドで眠ってしまった。
暫く時間がたって、ペアレントさんに起こされ意識朦朧のまま食堂へ。連休中ともあって、部屋は満室、故に夕食の時間は賑やかそのものではあったが、長距離移動後の疲労がとれておらず、眠気も相変わらず酷く、周りのホステラーとあまり話題が合わなかったので、自分の分を平らげた後はサッサと風呂に入り、またベッドに潜り込んだ。去年のようなライダーとチャリダーの宴会で盛り上がったマキノYHとはまるで違った、静かな初日の夜であった。
ゴールデンウィーク前、最終日だというのに遅く迄働かされたので、起床時刻をいつもより、一時間遅らせての出発となった。天気は上々、G/Wあたりの怪しい雲は全く無く、今日は快晴が期待出来そうである。
四時ジャスト、京葉穴川ICから高速に乗る。京都東ICを降りたのは、午後二時位だっただろうか。予想通り京都市内の交通量は多いものの、東京都心のように大型車が我が物顔で闊歩しているのとは訳が違い、以外とすんなりパスする事が出来た。
いい印象のない京都をさっさと素通りしてR162に入り北上。このころの気温は初夏を思わせる物で、30度に迫ろうかという暑さであった。
今回の最初の宿はYH。ここへ至る迄の道沿いの風景で気がついたのだが、去年琵琶湖湖畔の町、マキノ町の奥の『在原』という集落で見た家並みと同じ物が、今走っている沿道の両側に立ち並んでいるのである。一軒一軒が富山県白川郷の合掌造り瓦バージョンといった感じで、それぞれの家の軒の部分に立派などでかい家紋を掲げていた。
YHの直ぐ側まで来ているのだが、例によって今年もユースのガイドブックを家に置いてきてしまい、所在地も分からずウロウロする。地元の人に聞こうとも、人の姿は無く。暫く集落のメーンストリートを歩いている内に、大きな民宿の案内標識を発見へ事亡きを得た。
YHに着き、相方から荷物を下ろす。宿へ無事に到着したという安心感からか、強烈な疲労感が溢れてきた。
宿の中で必要な物とそうでないものとを分け、相方と荷物はペアレントさんの計らいでガレージならぬ納屋に入れさせてもらえる事となった。YHの構えは古めかしい萱拭きの農家風だが、内装は到ってモダン。部屋は三人一つで寝床はベッドであった。夕飯まで少々の時間があったが、風呂には入らずそのままベッドで眠ってしまった。
暫く時間がたって、ペアレントさんに起こされ意識朦朧のまま食堂へ。連休中ともあって、部屋は満室、故に夕食の時間は賑やかそのものではあったが、長距離移動後の疲労がとれておらず、眠気も相変わらず酷く、周りのホステラーとあまり話題が合わなかったので、自分の分を平らげた後はサッサと風呂に入り、またベッドに潜り込んだ。去年のようなライダーとチャリダーの宴会で盛り上がったマキノYHとはまるで違った、静かな初日の夜であった。
湯村温泉~北ハチ高原CA
〇四月二十八日
午前八時半
起床時、朝食をとらずに出発するカップルライダーのバイクの音に目が覚めた時は、叩きつける様な雨が降っていたが、自分の出発する頃になったら雨は殆ど止んでしまっていた。おまけに青空まで覗く。
今年はついているかも・・・
去年のような過密スケジュールで少々無理なツーリングとなった事を教訓に、今年はあまり面白くなさそうな所はスッパリと素通り、と決め、YHを後にする。明日は天候不順のために泣く泣く断念した『鉢伏山』登山を控えているので、本日は純粋な移動日である。
R9を西進。綾部・福知山・八鹿町・関宮町・村岡町と過ぎ、一気に湯村温泉に到着した。
これから、山の中に入るので、体の冷えから来る体調異変を考慮して、昼前に温泉に有り付くという魂胆だ。
起床時、朝食をとらずに出発するカップルライダーのバイクの音に目が覚めた時は、叩きつける様な雨が降っていたが、自分の出発する頃になったら雨は殆ど止んでしまっていた。おまけに青空まで覗く。
今年はついているかも・・・
去年のような過密スケジュールで少々無理なツーリングとなった事を教訓に、今年はあまり面白くなさそうな所はスッパリと素通り、と決め、YHを後にする。明日は天候不順のために泣く泣く断念した『鉢伏山』登山を控えているので、本日は純粋な移動日である。
R9を西進。綾部・福知山・八鹿町・関宮町・村岡町と過ぎ、一気に湯村温泉に到着した。
これから、山の中に入るので、体の冷えから来る体調異変を考慮して、昼前に温泉に有り付くという魂胆だ。

湯当たりするのでは?と思うほどの熱い湯船にじっくり浸かり、芯まで温まった所で表に出ると、一台のセダンが路肩に止まっているのが目に入った、そして、女の人が車のガラスをドンドンと叩いてしきりに中に向かって呼び掛けている。その光景をみて、自分はすぐに分かった、キーを差しっばなしにしてドアをロックしてしまったのだ。
仕事柄黙って見過ごすのも何なので「ロックしちゃいましたか?」と声を掛けた。「いえ、そうなんですけど・・・それが・・・」と指差された車の中を覗くと、なんとまあ助手席のチャイルドシートに子供が眠っているではないか!
女の人(車内の子供の母親)の話によると、今もう一人の連れ合いがタクシーで家までスペアキーを取りにいっているのだそうで、戻ってくる迄にまだ時間が掛かりそうなので、自分がチャレンジしてみる事にした。何故か、その子供の母親がもっていた小道具がロック解除用のSSTだったので、それを拝借し、運転席で二十分、助手席で二十分とあれこれと奮闘したが、全く手応えがない。やはり、車のメーカーが『ミツ○×』だからであろうか。
「あれこれやってみたんですけど、手応えが全然ないので自分には無理ですねえ。すんませんけど」と謝り、小道具を返そうとしたらその母親が「通りすがりの人にこんなに助けていただいて・・・これほんのお気持ちですから」、と渡されたのはアツアツの茄で卵。
袋に5~6個入っている。町の中心部にある『荒湯』で茄でられた正真正銘の温泉卵である。しかし、自分は相方を指差して、茄で卵を乗せるスペースがない事を話、遠慮させてもらった。後ろから何度もお礼を言われながら、向かいのレストランに入った。
一人旅をしている時、人間は自分に対しても他人に対しても優しくなれるものなのである、だから一人旅は「よい!」のだ。
その日、濃霧の中、シーズン前にて閉鎖中の『鉢伏山大笹キャンプ場』に到着したのは、午後三時。サイトの中は誰一人居らず、不気味なほど静まり返っている。しかし、祈るような気持ちで炊事場の水道の蛇口を捻ると、そこから切れる程に冷たい水が勢い良く出てきてくれた、しかも電灯まで点く。今夜の宿はこの広い炊事場で決定である。
夕方は断続的に強い雨が降ったり止んだりしていたが、相方を隣の炊事場に止めておけるので、ストーブの燃料を抜くのも到って快適にできる、しかも真ん中に勉強机程のテーブルが備えつけてあるので、ここにエンソライトマットとシュラフを敷けば、即席寝床になる。地べたに寝るのと違い、野犬に顔を齧られる心配も無い。
明るい、広々としたサイト(?)で夕食を終えた頃になると、雨は完全に上がり、星空が見えてきた。
もう、ここは立派な山奥である。プラネタリウムよりも密度の濃い夜空に、いま巷の俄か天文マニアを騒がせている『へール・ボップ彗星』がぼんやりと見ることが出来た。
ラジオの天気予報は「晴れ」としか言わなかった。でもそれだけで充分だ。
鉢伏山登山
〇四月二十九日
午前五時
定刻、賑やかな小鳥の囎りで目が覚める。
冷え込みが厳しく、なかなかシュラフから出られない。しかし、首から上を出して辺りを見渡すと、雨を呼ぶような雲はなく、昨日の夕方には見えなかった蓬か向こうの山々がその稜線をはっきりと浮かび上がらせていた。途端に体じゅうの血が勢い良く流れ出すのがわかった。白い息を吐きながら、一晩中夜の冷え込みから体を守ってくれたシュラフから飛び出し、まずトイレヘ。
シュラフを炊事場の梁に吊るし、朝食のチキンラーメンが温まるまでの間、登山の為の用意をする。『鉢伏山』なんぞハイキング気分で登れてしまう山なのだろうが、たとえ千㍍少々の山でも、山は山である。それなりの準傭をするようにしている。
食事をしている間に、蓬か向こうの山間からオレンジ色の見事な太陽が昇ってきた。その無音ながらも美しい光景に暫し箸が止まる。
G/Wのツーリングは、紀伊半島に始まってからというもの山の中を中心にして走る、というルートだったので、キャンプ場も川原とか谷問とか、林の中とかが殆どの為、日の出・日の入りを自分の目で見たことがなかった。
つまりは、こんなにはっきりと一人っきりの山中で、御来光が拝めたのは、西日本ツーリングの歴史上、初めてなのである。
定刻、賑やかな小鳥の囎りで目が覚める。
冷え込みが厳しく、なかなかシュラフから出られない。しかし、首から上を出して辺りを見渡すと、雨を呼ぶような雲はなく、昨日の夕方には見えなかった蓬か向こうの山々がその稜線をはっきりと浮かび上がらせていた。途端に体じゅうの血が勢い良く流れ出すのがわかった。白い息を吐きながら、一晩中夜の冷え込みから体を守ってくれたシュラフから飛び出し、まずトイレヘ。
シュラフを炊事場の梁に吊るし、朝食のチキンラーメンが温まるまでの間、登山の為の用意をする。『鉢伏山』なんぞハイキング気分で登れてしまう山なのだろうが、たとえ千㍍少々の山でも、山は山である。それなりの準傭をするようにしている。
食事をしている間に、蓬か向こうの山間からオレンジ色の見事な太陽が昇ってきた。その無音ながらも美しい光景に暫し箸が止まる。
G/Wのツーリングは、紀伊半島に始まってからというもの山の中を中心にして走る、というルートだったので、キャンプ場も川原とか谷問とか、林の中とかが殆どの為、日の出・日の入りを自分の目で見たことがなかった。
つまりは、こんなにはっきりと一人っきりの山中で、御来光が拝めたのは、西日本ツーリングの歴史上、初めてなのである。

相方は屋根の有るところに止めておいたのが良かったのか、夜露に濡れる事無くエンジンは一発始動だった。連休ギリギリに仕上がったヘッドO/Hも甲斐あって、煙ひとつ吐かない。なにもかもうまくいっている、いい感じだ。
長距離トラックがポツポツとしか走っていないR9を南下し、関富町から右に折れて、ハチ高原へと繋がる県道を西へ走る。何故そんな遠回りをするのかというと、まずこの道は去年走ったことがある、もう一つは大笹キャンプ場から稜線に出て、『鉢伏山』に直結する林道がすぐに発見できなかったからだ。
見覚えのある道で一気に標高を稼ぎ、去年1㍍はあった残雪に囲まれて、恐怖の一夜を明かしたあのキャンプ場を横目に通り過ぎ、広々としたスキー場の駐車場の片隅に相方を停め、山を見やる。
よく見える。あんなに低い山だったけか?青空の下にくっきりとその山容を現した『鉢伏山』は、目の前にポーンと置かれたように、其処に居た。
アプローチするルートは、森林らしきものがなく、殆どが草原といった状態なので、どこからでもたやすくとりつく事が出来る。それもそうだ、ここは冬の間、スキー場として関西有数のレジャーランドとなるのだから。
三十分程して頂上へと直接つながる稜線に出たところで一服する。日本海から吹き上げてくる風は、まだ冬の色が残っていて、煙草が無くなるまでに耳や鼻がちぎれそうになった。
縦走路と呼べるような大袈裟なものではないが、そのルートを歩く事一時間弱。体力も気力もまだまだ余裕の有るうちに山頂に到達してしまった。日帰りで登る山としては、今迄の中では最も楽で、鼻唄交じりに頂上を極めてしまった。しかし、そこからの眺めは抜群で、南に見える『氷ノ山』が勇壮な姿を見せている。本当はあの山に登ろうかとも考えたが、遠くから見ても残雪が多く残っているのが分かるので、止めておいて正解だったかもしれない。
でも、自分がいま立っているこの山も真冬時には魔の山に姿を変え、急変する天候と日本海からの激しい季節風に真面に晒される為、多くの冬山登山者の命を奪っている。その女性的な山容からはとても想像できないが・・・・・・

山頂から見える駐車場に停めた相方を眺めながら、下山を始める。擦れ違う人も居ないのは、山開き前だからだろう、故にのんびり一人きりで山歩きを楽しむ事が出来た。この程度の険しさなら、オネーチャンを連れていっても、ブーたれる事はないだろう。
二度目の湯村温泉、湯船に浸かってまたも顔がにやけてしまった。
大笹キャンプ場に戻ってきた。連休中だから、もう誰か一人くらいキャンパーが来ていてもおかしくないだろう、と思っていたが・・・誰も居ない。もしこのまま丸二日間、誰とも会うことなく終わるとなれば、これまた我がツーリング史上初めての事になる(北海道の森の中とかオーストラリアの砂漠の真ん中だったら当たり前だが)、なんだか不思議とウキウキしてきた。人と会う事でウキウキする者はあれど、人に会わないでウキウキするのは自分だけか?
昼下がりの午後、夕食の下準備を済ませ、テーブルの上に横になってウトウトしていたら、トイレに行きたくなったので、崖の上にある管理棟まで歩き、鍵のかかっていないドアを開け、中に入ろうとしたとき、すぐ横の林道を音もなく一台の軽自動車がキャンプ場へと降りていくのが見えた。「まずい!管理人に見つかったか?」建物の外に出て、近くの茂みに身を隠し、下を覗き込む。車は料金表の看板の前で暫く止まったあと、キャンプファイヤー場の中をグルリとゆっくり一周し、また出口でジッとしている。「・・・・?」何か様子がおかしい。車から人が降りてこない。不法にキャンプ場を使用している人間をとっ捕まえるならば、相方やシュラフが広げてあるところに車を停めるか、降りて待ち構えるはずだ。そんなこんなしている内にトイレの方がやばくなってきたので、茂みの奥の方で済ませ、再び車の見える所まで戻ると車がいない。耳を澄ますと、かすかに車が砂利の上を走る音が聞こえる。崖をダッシュして降り、車が出ていった方向を見る。
どうやら見逃してくれたようだ。ホッと一息ついて相方を何気なく見た時、ウインドバイザーに妙な物が挟んであるのだ目に留まった。それは小冊子で表紙には
『神の光の会』
と書いてあった。どうやら管理人よりももっとまずい相手に見つかったかもしれない。
しかし、だからといってこの広げた道具や食料を今更片づけて移動する気カもないし、また来たら誘拐されるか、毒ガスでもすわされるかわからんが、もうどうでもいいやと思い、そのまま昼寝に興じた。
夕食もおわり、眠くなってきたのシュラフに潜り込む、但しランタンの明かりは点けっぱなしにしておく事にした。その夜は狸どもが山中を走り回る音に散々安眠を妨げられ、生きた心地がしなかった。
しかし、だからといってこの広げた道具や食料を今更片づけて移動する気カもないし、また来たら誘拐されるか、毒ガスでもすわされるかわからんが、もうどうでもいいやと思い、そのまま昼寝に興じた。
夕食もおわり、眠くなってきたのシュラフに潜り込む、但しランタンの明かりは点けっぱなしにしておく事にした。その夜は狸どもが山中を走り回る音に散々安眠を妨げられ、生きた心地がしなかった。