○大山町の事件から根本原理を振り返ってみる(前篇)
http://ameblo.jp/tatthu/entry-10380349078.html
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◆ラインナップ(予定)◆
1.大山町の事件から根本原理を振り返ってみる(前篇)
2.大山町の事件から根本原理を振り返ってみる(後篇)
(以上、今回まで)
3.現行規制の問題点と論点整理
4.「適用除外」制度を巡る議論-小泉改革と学説-
5.公取委「農協ガイドライン」と農協の反応
6.独禁法違反を減らすために(最終回)
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◆農協は独禁法違反に陥りやすい!?
実はこのような保護利益の立場からみて、農協は独禁法違反に陥りやすいのでは・・・との見解があります。
ポイントは農協が、
①事業者の利益向上を目的としている組織体で、
②独禁法上も「まとまる」ことが期待されている存在である。
という点です。
・まず①の点については、根拠法の条文規定を見比べてみるとよくわかります。
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「この法律は、農業者の協同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする。(農協法第1条)
「事業支配力の過度の集中を防止して(略)一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、(略)以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」(独禁法第1条)
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最後の「国民経済の・・・」という目的は良く似ていますが、それ以外の目的や達成手段が全く異なりますね。
素直に条文だけ見てしまえば、農協が追求すべきは『事業者の利益』であって、消費者の利益を追求する独禁法とは全く立場が異なります。もちろん現実はこう単純ではないですが、根本的な原理として農協は独禁法と異なる考え方で動きやすいということでしょう。当然違反事件も起こしやすくなります。
・次に②の点ですが、実は独禁法では農協をはじめとした協同組合組織は大変な特別扱いを受けています。
第22条の適用除外規定問題です。
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「この法律の規定は、次の各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。)の行為には、これを適用しない。」(独禁法第22条)
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あれ、農協に独禁法は適用されないんでしょうか(笑)
もちろんこれにはカラクリがあります。この点については重要な論点なので、次回以降詳しく検討しましょう。ここで問題にしたいのは、なぜこのような特別扱いをうけているのか、という点です。
協同組合というのは、本来は中小事業者や消費者が協力しあうことで大企業に対抗し、自分たちの利益を防衛し市場の競争を促進させることを目的としています。農協の場合は、個々の農業者がまとまることで大型商社やメーカーといった大企業に対抗し、あるいは搾取される可能性を排除しています。
独禁法に即した表現をすれば、『公正且つ自由な競争を促進』のために「協力し、まとまる」ことを使命づけられたのが協同組合であり、農協だと言えます。
だからこそ、『事業支配力の過度の集中を防止』と言う観点からは規制しない、というのが今の独禁法の農協に対する規制姿勢にです。
そもそも強い事業者に対抗するため「まとまる」ことが期待されているわけですから、対抗するべき何かがでてくると、「あーそれはやりすぎなんだよなあ」というところまで「まとまる」ことに執着してしまうことがたまにある。そんなたまの出来事が、独禁法違反事件として表出してしまいやすい、ということです。
(これが「たまの」出来事かどうかは議論のあるところなのですが、この点も次回以降で触れて行くことにします。)
◆さて、次からは各論検証にはいっていきましょう
以上、大分の事例を足がかりに、農協と独禁法の関係について基本原理の面から記述してみました。
しかし、具体的な制度上の問題についてはまだ触れられていません。
独禁法による農協規制のあり方については様々な議論がありますが、
自分なりに問題点を整理すると大きく分けて以下の3点です。
(A)告発ラインの整備・未整備
(B)「不公正な取引方法」を行いやすい農協の事業体制
(C)「カルテル」「私的独占」適用除外の正当性
次回、これらについてもう少し詳しく触れてみたいと思います。