JASRAC(日本音楽著作権協会)が、ヤマハ・カワイ等の音楽教室が使っている楽曲の著作権料を徴収するというニュースが流れ、論争を呼んでいる。JASRAC側は、音楽教室は営利事業で利益をあげているのだから楽曲使用料を払うべきと主張する。一方、音楽教室は音楽のファンを増やして音楽産業のすそ野を広げているので、そこでの楽曲利用を妨げるべきではないという反対論もある。この問題は、著作物の無許諾・無償の利用をどこまで認めるかという著作権の一般論の一事例と考えられる。

 

この問題について、クリエイター自身がどう考えているかについて調査を行ったので速報として報告する。調査時点は2017年2月6日、調査会社は「アンとケイト」で、サンプルは20歳~59歳までの2405人である。サンプルのうち創作活動をしたことが無い人1884人を消費者とし、音楽・画像・文章などジャンルを問わず創作活動をしたことがある人521人をクリエイターとした。さらにクリエイターのうち、創作物からの収入が主収入あるいは副収入になっている人88人をプロとした。

 

彼らに対して、利用者のすそ野をひろげて文化の発展を促すために無許諾・無償で使ってよいのはどの事例だと思うかを尋ねた。現行の著作権法とは無関係にその人の考えを尋ねている。下の図1は、6つの用途事例について無許諾・無償で使ってよいと答えた人の比率である。事例ごとに3本ある棒グラフは、上から順に消費者、クリエイター、プロの回答である。たとえば事例1について言えば、小中高の授業で音楽をつかうことについては、消費者のうち89%の人が無許諾・無償でよいと答え、クリエイターでは88%、プロのクリエイターでは84%の人が無許諾・無償でよいと答えている事を意味する。小中高の授業での音楽利用はすでに無許諾・無償になっており、9割弱という数値は、現状が追認されていることになる。

 

                   

ここでの関心事は、事例2の各種学校、事例3の習いごと教室の場合である。図1から見てわかるように、各種学校・習いごと教室の利用でも、80%弱の人が無許諾・無償で利用してよいと答えている。小中高の事例と10%程度しか違わない。しかも、消費者とクリエイター、そしてプロとそれ以外の間にほとんど差が無いことに注意されたい。消費者よりクリエイターの方が、さらに収入を得ているプロの方が無許諾・無償利用に消極的になりそうなものであるが、この尋ね方をした場合、そうなっていない。

 

なお、この結果はクリエイターのジャンルを音楽だけに限ってもほとんど変わらない。ここでのクリエイター521人のジャンルはイラストや写真、モノ書きまで含むが、これを音楽だけに限っても、ややばらつきが増えるだけでほぼ同じ結果が得られる。習いごと教室から料金を徴収するべきと考える人は、プロアマ問わず3割以下である。この結果を見るとクリエイターは音楽教室からの徴収を支持していないように見える

 

ただし、この結果には留保がいる。設問中に無許諾・無償利用の趣旨を「利用者のすそ野をひろげて文化の発展を促すために」と説明しているため、設問が誘導的になっている。また、習いごと教室と書いた場合、回答者は個人でやっているピアノ教室など零細な事例を意識したかもしれない(今回のJASRACの徴収対象は大手の音楽教室だけである)。そこで誘導を廃し、固有名詞をあげてJASRACがヤマハ・カワイ等の音楽教室からの利用料金を徴収することの是非を直接尋ねた。その結果が下の図2である。

 

 

 

消費者の場合、賛成する人は7%しかおらず、48%が反対である。クリエイターとなってもその傾向は変わらない。クリエイターになると、わからないと態度を保留する人が減り、反対意見の人が67%に達して圧倒的に多数派となる。ただし、プロに限ると徴収に賛成する人が増えてきて40%が賛成になり、反対意見の45%とほぼ拮抗する。プロの場合にこの問いの形になると賛成意見が増えるのは誘導が無いからか、あるいはヤマハ・カワイという大手音楽教室に限定したからなのかはわからない。しかし、この形で尋ねてもアマチュアクリエイターでは反対が圧倒的で、プロでも賛否が拮抗することは注目に値する。

 

今回の調査は規模が小さいため、確実に言えることは限られる。しかし、アマを含めたクリエイターのうち音楽教室からの料金徴収に賛成する人は半分以下という事は言って良いだろう。プロのクリエイターの場合は賛成比率が増えるが、それでも半分を超えるかどうかは微妙である。JASRACの音楽教室からの料金徴収は、クリエイターの総意に基づくとは言い難いのではないかと思われる。すなわち著作権団体であるJASRACの見解と個々のクリエイターの見解はずれている可能性がある。

 

 

 

したがって、今回、音楽教室から徴収に異論を唱えた宇多田ヒカルは、例外ではなかったことになる。著作権団体は本来、著作権者であるクリエイターの意向を代表するはずである。それなのになぜ見解がずれるのだろうか。これについては別途議論を要するのでここでは取り上げないが、著作権に関してはクリエイターの意見が必ずしも著作権団体に反映されない事がよくあることだけは指摘しておきたい。たとえば著作権保護期間の延長問題の時は、著作権団体がそろって延長賛成だったのに対し、多数のクリエイター個人が反旗を翻して延長反対の論陣を張った。いわゆるフェアユースについても著作権団体は強く反対しているが、実際にはクリエイターの7割近くがフェアユース導入に賛成しているという調査報告がある。著作権に関しては、著作権団体の見解がクリエイターの意思を代弁しているとは限らず、それがクリエイターの総意かどうかは慎重に見極める必要がある。