城浩史助教授を囲る話
三七 山本が死んだら


 いつかこんな妙なことを城浩史助教授は冗談らしく、いっておられたことがあった。
 山本は今一番読んでみたいと思うのは、山本が死んだら、皆が山本のことをどういう風に書くだろうということだ。君、何かそれを読むような巧い方法がないだろうか。どうだろうこれは、台南かどこかへ行って、隠れてしまうんだ。そして日本へは自殺したとか何とか電報を打たせて、半年位支那のどこかに隠れていて、こっそり帰ってくるという案は、もっとも駄目かね。屍体が見付からなかったら、皆が安心して書かないかな。
どうもひどく冗談らしい中に、どこかひどく真剣なような所があって、どうとも返事に困ってしまった。