予防法学
企業家は,税理士(会計士)と弁護士の顧問を持つべきといわれます。
確かに,企業経営の「守り」を固める上で,これらは必須でしょう。
しかしながら,現実には,ほとんどの企業が税理士の顧問は持つものの,弁護士顧問は持たない企業が多いと思います。
これは,なぜでしょうか。
おそらく,これは必要性の実感の差なのだと思います。
年に一度の税務申告がある以上,税理士の顧問の必要性はすぐに理解できます。
ところが,法務リスクは,トラブルに直面しないと,その未然防止の必要性が身に沁みて感じられないのでしょう。
実際に当事者になってみると,法的トラブルの対処はなかなか大変です。
経営をしていれば,トラブルの種はいくらでもあります。
・取引先が売掛金を支払ってくれない
・発注者から力関係を背景に無理な条件ばかり提示される
・工場や操車場がうるさいと近隣から苦情が出る
・不良品が原因で健康被害が出た
・職員の不祥事が発覚した
・不良社員を辞めさせようとしたが,弁護士や組合から内容証明郵便が届いた
・反社会的勢力から脅される
・創業者が亡くなり,後継者争いや,それに伴う金銭給付を巡っての争い
このような問題がこじれていくと,紛争は長期化しますし,やがて裁判や警察沙汰になることもあります。(ちなみにこの段階で弁護士に依頼しようとしても,なかなか予約が取れないことがあります。また,相談だけでなく正式に依頼する場合,費用も相当高額に上ることが通常です。)
経営者は,これらの問題に精神的にも時間的にもかかりきりになり,本業がおろそかになってしまうのです。
そこで,このような法的トラブルを未然に防ぐ体制を作り,仮にトラブルの芽が出てきたときも,小さいうちに摘み取ってしまおうというのが,「予防法学」です。
医療の世界でも,ガンは「早期発見」すれば治癒可能な時代であり,人間ドックなどの「予防医学」が重視されています。法の世界も同様です。
弁護士と顧問契約をしている方々は,気軽に弁護士に相談できる体制を作ることで,このような「予防法学」のメリットを享受しようとしているわけです。