約束の一打席 第5話『夏空に舞い上がる打球...』 | 黄昏の黄色い帽子に一番星……☆

約束の一打席 第5話『夏空に舞い上がる打球...』



第5話 『夏空に舞い上がる打球...』


場内アナウンスが、私達の耳に、

心に響く…

“選手の交代をお知らせいたします。9番、辻君に代わりまして、代打佐伯君 背番号13”

(リンドバーグ音譜『every little thing every precious thing』より)

♪~
震えるつま先 高なる鼓動
何度も何度も胸に手をあててみた

見えないハードルにつまづいた時
あなたの気持ちが少しでもわかりたくて

スタジアムに響き渡る歓声を
吸い込んであなたはゆっくり立ち上がる

every little thing あなたがずっと
追いかけた夢を一緒に見たい
every precious thing 奇跡のゴール
信じて今大地を踏み出した…~♪

--------

自らが縫い付けた背番号13番を見た、佐伯君のお母さんは、その瞬間から涙目になっている。
両手を胸の前で握りしめ、.....

この試合の初ヒットを打たれた山口投手のもとにベンチから伝令が走り、内野手がマウンドに集まる。

打席の横で、2回、3回と素振りをする佐伯君。
観客席からの距離では聞こえるはずのない、
空気を切り裂くバットスイング音が、、、、
私には聞こえるようだ。


・・・・幼い頃、、、、


“浩ちゃーん、ホームラン打ってぇー”
“よっしゃぁ”
プラスチックのバットで、ゴムボールを打ち
大きな当たりを打ってくれた、、、
・・・・

幼い頃の記憶が蘇る。
今こそ打って欲しい。

主審のプレイはかかり、運命の一打席・・・

初球、ストライクを見逃す。

この日初めてのピンチで見せる、山口投手の全力投球
スコアボードの球速は、この日最速の147km!
スタンドから何とも言えないどよめきが起こる。

二球目、フルスイング!
打球はバックネットへのファール
球速はまたしても147km!


「代打じゃ、あのボールは打てそうな気がせんちゃー」
目の前の麦わら帽子のじいちゃんから、そんな声が聞こえる。

隣りのお母さんは、見てられないのか、とうとう、下を向いてしまった。
何かに、何かに、祈るように・・・・・。

もしも、この世のどこかに神様がいるなら、
今こそ、彼に力を・・・・・。

スタンドに一陣の夏の風が強く吹き抜けた。

カウントはツーナッシング、追い込まれた

三球目.....
フルスイング.......
球場に快音が響き、打球は高々と、レフトの方向に舞い上がった

『いけーーーーっ!』

願いを込めた運命の打球が、
高々と、
高々と、
レフトスタンドに向け、
夏空に舞い上がった・・・




第6話 『勝負』に続く......



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