「まだ?」
シートを起こすと、少し遠慮気味に尋ねてきた。
「眠ってたんじゃなかったの?」
「ううん。あなたからの言葉ずっと待ってたんだけど、シビレ切れちゃった。」
「何を?」
「またそうやって気を使ってる。いいのよ、はっきりきいてもらって。」
「だから何を?」
「答えは『イエス』よ。」
照れ隠しか視線を落とし、伸ばした足を交互に2,3度揺らした。そのさまがかわいらしくて、素直に口に出た。
「ありがとう。」
「だから何に?」
「え?つまり…その…」
「はい、分ってます。ちゃんと毎朝起きてご飯を作ってあげます。いえ、作らさせてください。でも、1回でちゃんと起きてね。でないと、せっかくの御飯が冷えちゃうから。」
視界を遮っていた霞が晴れたかのように、一緒に暮らすさまが見えてきた。多分頬も緩んでいたと思う。
車は既に九州自動車道へ入り、車の流れが多くなっている。私の好きなカーブを逆方向から右、左へと揺れ、間もなく国道へと降りるインターチェンジだ。そこから彼女の家までは10分とかからない。
「ねえ?」
「ん?」
「少し体が冷えたから、暖まって帰らない?それに…プリンも食べなきゃ。」
ゆっくりと左腕に手をからめ頭を預けてくる。
「賛成だね。僕も同じことを考えてた。」
「素直な言い方、好きよ。」
そう言うと、太腿に置いた手を少し進めた。
交差点を左折、彼女の家に背を向け小高い丘へと軽やかに登っていく。はやる心は、車にも伝わったようだ。
了