次男を車に乗せ、A先生の自宅兼道場を離れる。適当な駐車場に車を入れ、次男、祖父母、妻、私の5人で話し合った。
次男は
「〇〇高校に行ってオリンピックを目指したい」
と言う。かなり洗脳されているようだ。
私は次男に
「〇〇高校に行って、もし怪我や病気をして柔道を続けられなくなったらどうするんだ?おまえの人生そこで終了だぞ。本当にそんな賭けのような人生でいいのか?☆☆高校なら仮にそうなってもお父さんやお母さんが助けてあげることが出来る。お父さんはおまえに賭けのような人生を歩いて欲しくない!」
と訴えた。自然と涙が流れていた。妻も祖父母も同じように次男に訴えた。皆、泣いていた。
暫く考えていた次男が
「俺、やっぱり☆☆高校へ行く。俺の希望をA先生に伝える」
と言った。
私は
「推薦がダメなら一般入試でも良い。初心に帰って☆☆高校へ行こう」
と伝え、次男は
「うん」
と答えた。
そして、再びA先生の自宅兼道場へ向かった。
祖父母と妻を車に残し、次男と私はA先生のもとへ。
A先生はまたしても道場で待ち構えていた。
次男はA先生と向き合ったが相当、ビビッている。
「おまえの希望を言ってみろ」
と言われ、恐る恐る
「☆☆高校へ行きたいです」
と伝えた。
A先生の顔がみるみる険しくなる。
「なぜ、☆☆高校へ行きたいんだ?」
A先生も極力、感情を抑えた口調で次男に問う。
「もし、怪我や病気で柔道が出来なくなった時、お父さんやお母さんが近くにいないと不安だからです」
A先生はそんなことかというような表情で
「そんな心配は一切不要だ。俺は月に何回か東京へも指導に行っているのでその度におまえの状況を確認しに行く。その状況をお父さん、お母さんにも伝える。また、井上康生にもおまえの指導をしてくれるようにお願いしている。全て俺に任せておけ。お父さん、〇〇高校も良い条件で受け入れてくれると言っている。学費などは心配しなくても良い。もし何なら私が面倒を見ても良い」
と言ってきた。
「学費などは一切心配していません。どこの高校であろうと私が全て支払います。それとも私達から親権を奪おうとお考えですか」
「そんなことは言っていない。学費の心配をしているのかと思っただけだ」
「どうしても☆☆高校への進学を賛成していただけませんか」
「私が許可する高校以外はダメだ」
「推薦入学ではなく、一般試験ででもダメですか」
「あなた、息子さんがどんな成績か知ってるの?今から勉強して間に合うはずがない」
「それはやってみなければ分かりません。どうしても許可がいただけないなら、一般試験を受けて進学させます」
「出来るものならやってみるがいい。どうやってやるつもりだ?」
「すぐにでも先生の自宅から出て、妻とアパートに住まわせます。柔道の練習を続けながら塾に通わせ勉強させます」
次男に向かって
「おまえはそれで良いのか?」
(俯いたまま)
「はい」
と答える次男。
A先生はついに感情を露にする。
「おまえは俺の恩を忘れてそんなことを言うのか!許さんぞ!」
「A先生、息子でなく私に言ってください」
A先生、私の言葉にはっとし、再び感情を抑える。
「本当は〇〇高校に行きたいだろうに理解のない親のお蔭でおまえの希望を叶えられない。おまえは本当に可哀想だなあ。。。うちから出ていくなら、Y県で柔道を続けるのは難しい。X県に連れて帰ったほうが良い」
「!?!????それは破門ということですか?それは勘弁してください。中学卒業まであと半年です。」
「私の言うことが聞けないなら仕方ない。すぐに出ていく方が良い」
「それは勘弁してください」
「いやいや、おたくの理解がないのだから仕方ないでしょう。Y県に残ってどこで柔道続けるの?そんな所はどこにもないでしょう。私の言うことに従えないなら、すっきりとX県へ出ていく。それがお互いのためでしょう。」
お互い感情を抑えながら今度はこの内容のやり取りが繰り返される。次男はずっと俯いている。いつまでも埒が明かない。
「では、A先生のおっしゃる通りX県に戻って、一般試験で☆☆高校を受験する場合、A先生の力で息子が柔道を続けることが出来ないように圧力をかけることはやめてください」
「私にそんな力はない」
「約束していただけますか?」
「だから、そんな力はないと言っている」
「分かりました。これまでお世話になりました。本当にありがとうございました」
「ああ、すぐに出て行ってください」
A先生に深々と頭を下げ、私は次男の手を引き、道場を後にした。
すぐに出ていけと言われたため、車中に残る祖父母、妻に顛末を伝え、一緒に次男の下宿している部屋へ荷物を取りに行く。
途中、A先生が他の父兄に大声で
「あの親は子供の希望を叶えてやれないバカ親だ。あの子の将来が大なしだ。可哀想だ!」
と言っている声が聞こえる。おそらく、わざと聞こえるように大声で話しているのだろう。
次男は他の部員と話している。部員達は一様に心配そうな表情をしている。
思いのほか、次男の荷物が多く一度では運び出せない。
明日、また運び出す分を残し、次男を連れA先生の自宅兼道場を後にした。
想定外の顛末に次男も黙ったまま。私はこれからどうやってこの状況を好転させたら良いのかずっと考えて運転していた。
突然、足元が大きく崩れたような衝撃に思考が安定しない。
運転中、パニック状態だった。