太平洋の奇跡 青野千恵子の戦争① | 太平洋戦争の傷痕 次世代への橋渡し

太平洋の奇跡 青野千恵子の戦争①

米軍上陸後、タポチョ山に向けて後退する日本軍
ジャングルの中で激しい攻防が繰り広げられていた

ガラパンで洋服屋をしていた青野吉蔵は家族を守るため悪戦苦闘を続けていた
11日の空襲から家族を連れ山へ逃げた
15日の米軍上陸後は、その進撃から逃げねばならなかった
自然の要塞である洞窟の中に妻と二人の娘と隠れていた
上の娘千恵子と下の娘光子である
千恵子は18歳で妻と一緒にガラパンの病院で看護婦をしていた
光子は10歳で、熱病にかかりこれ以上どこへも動かせない状態だった

吉蔵は死ぬしかないと決心していた
米軍は捕虜をつくりたがらない
捕虜にしたら婦女は陵辱し、男は拷問して楽しむためと、聞かされていた
武器はなく、二日間なにも食べていなかった

そこへ後退する日本軍が米軍を攻撃しながら洞窟へやってきた
中野勇吉軍曹と部下の二人だった
彼らは吉蔵らに奥で静かにしていろと言い機関銃を洞窟の入口に据えた

千恵子は熱でうなされる妹を抱きかかえ、母は膝まずいて祈った
恐怖に怯え、避けられそうもない死から救ってくれる願いは、ほとんど声になってなかった
千恵子はどうにもならないことへの怒りと挫折感から、何か自分が出来ることはないか、まわりを見回した
その時、九九式軽機関銃が連射された

とたんに一斉射撃が洞窟になだれ込んだ
それは怒り狂った蜂のように飛び跳ねる弾丸がびゅんびゅん風米軍上陸後、タポチョ山に向けて後退する日本軍
ジャングルの中で激しい攻防が繰り広げられていた

ガラパンで洋服屋をしていた青野吉蔵は家族を守るため悪戦苦闘を続けていた
11日の空襲から家族を連れ山へ逃げた
15日の米軍上陸後は、その進撃から逃げねばならなかった
自然の要塞である洞窟の中に妻と二人の娘と隠れていた
上の娘千恵子と下の娘光子である
千恵子は18歳で妻と一緒にガラパンの病院で看護婦をしていた
光子は10歳で、熱病にかかりこれ以上どこへも動かせない状態だった

吉蔵は死ぬしかないと決心していた
米軍は捕虜をつくりたがらない
捕虜にしたら婦女は陵辱し、男は拷問して楽しむためと、聞かされていた
武器はなく、二日間なにも食べていなかった

そこへ後退する日本軍が米軍を攻撃しながら洞窟へやってきた
中野勇吉軍曹と部下の二人だった
彼らは吉蔵らに奥で静かにしていろと言い機関銃を洞窟の入口に据えた

千恵子は熱でうなされる妹を抱きかかえ、母は膝まずいて祈った
恐怖に怯え、避けられそうもない死から救ってくれる願いは、ほとんど声になってなかった
千恵子はどうにもならないことへの怒りと挫折感から、何か自分が出来ることはないか、まわりを見回した
その時、九九式軽機関銃が連射された

とたんに一斉射撃が洞窟になだれ込んだ
それは怒り狂った蜂のように飛び跳ねる弾丸がびゅんびゅん風を切った
妹に銃弾が貫いた衝撃を感じた
悲痛な声を上げる母の声を聞いた
二人の兵士が機関銃の脇に横たわっていた
三番目の兵士が立ち上がって「畜生!」 と叫ぶと小銃を撃ちはじめた
その後は千恵子の上まで兵士を吹き飛ばした手榴弾が投げ込まれたが覚えてなかった

しばらくして米軍兵士が洞窟の中へ入り死体を調べた
光子と兵士の死体の下で千恵子だけが息をしていた
しかし、米軍には気づかれなかった

一時間ほどしてから意識を取り戻し、目を開けて悲鳴をあげた
すすり泣きながら死体を押しのけ洞窟から出ると、
百メートル先に米軍が野営しているのを見て地べたにへたり込んだ
しだいに記憶を取り戻した千恵子は、恐怖が怒りに変わり確かめるように洞窟の中を確認した
家族を殺したものに対する憎しみは、そこにあった九九式軽機関銃の銃口をアメリカ兵に向けさせた
そして注意深く引き金を引いた
なにもおこらなかった
もう一度、引いた
それから彼女の身体は機関銃のそばに崩れるように倒れ、声を殺したむせび泣きで震えた

こうして千恵子は家族の復讐を固く心に決めてジャングルで生きるのでした