人生は列車に似ていると思った。
「人生のレール」なんてよく表現をされるし、きっと同じように考える人は沢山居るんだろう。
僕は初めて今日、ガタゴトと電車に揺られ、見える景色を眺めながら、ふと、人生は列車そのものだなと思った。

人は皆産まれたその瞬間から列車に乗っている。
生まれたての頃、大抵の人は父か母が車掌として家族で小さなワンマン列車に乗っている。家族だけで進む小さな列車。時間と共にガタゴトゆっくり進んでいく。
少し大きくなって小学生くらいになると、近くの列車と連結して他の人と出会うようになる。僕はその車両の同じ年頃の子ども達と友達になったりする。一年経てば別の車両に移ったりして、友達と離れたり、また新たな友達が出来たりを繰り返す。中学生になると更に列車が繋がり新しい出会いが始まる。車両の中では友達と遊んでいるやつ、勉強してるやつ、寝てるやつ、一人ぼっちのやつ、色々いる。同じ列車に乗り同じ時間を生きているが、過ごし方は様々だ。ませてるやつは車両の間でこっそり異性と手を繋いでいるやつもいる。そして高校生からは列車を乗り換える。行きたい方向へ、まだ行き先なんて分かっちゃいないけど、乗りたい列車に乗る。行き先がもう決まってるやつもいる。分からないからそれまでに出来た友達と一緒の列車を選ぶやつもいる。僕は乗れる列車に何となく乗った。自分で選んだ列車だが、それまでの過ごし方とあまり変わりはなかった。新しい友達も出来たし、好きな子だっていた。振られて他の子と付き合ったりもした。一番爽やかな景色と風が吹いていた時期だった。車内を吹き抜ける風は気持ちが良かった。あっという間にまた乗り換えの駅に着いてしまった。この頃には気づけば電車は殆ど自分で運転が出来るのに、その自覚は当時は無かった。乗客の一人として行き先を選んでいる気持ちでいた。
初めのワンマン列車からずいぶん遠くまで列車で走ってきた。次の列車では今まで以上に沢山の人に出会った。新しい出会いの連続。次々と列車に人が乗り込んできた。ごった返しの車内で出会った硬い友情やかけがえの無い素晴らしい恋もあった。お酒も飲めるようになり、皆でわいわいがやがやと列車は進む。楽しい旅こそあっという間で、皆次の目的地に向かって舵を握る時が来た。といっても中間目的地。まだ終点はずっと先でどんな所かは分からない。でも終点までに寄りたいざっくりとした道のりは見えてきた気がする。僕は前の列車で出会った素晴らしい女性と共に進む道を選んだ。二人だけの小さなワンマン列車が発進した。今まで出会った皆も家族も、僕らのワンマン列車の出発を祝ってくれた。ゆっくりと長閑な景色を見ながらガタゴトと列車はまっすぐに進んだ。暑い日も寒い日も雨の日も風の日も、心地よく列車は揺れていた。ある日、途中止まった駅で偶然懐かしい人に再開した。昔同じ車両に乗っていた女の子だった。彼女が此方に声を掛けてくれた。懐かしかった。あの時乗っていた列車の窓から見た景色や、その子との時間、その時吹いていた風、鮮明に思い出した。足元で列車のレールがガチャンと歪な音を立てた気がした。その時はあまり時間が無かったので懐かしい挨拶も程々に列車は再び走り始めた。二人のワンマン列車は相変わらず心地よくガタゴトと揺れていた。僕は無意識に窓の外を眺めていた。車内には何となく湿った風が吹いていた。いつの間にかワンマン列車は順調に進んでいるようで環状線のようにぐるぐると同じ所を回わっていた。まるで何かを探しているようにも見えた。僕は同じ所を回っていることに心の底の底では気が付いていた。どんよりとした窓の外を眺めながら、彼女はどんな列車に乗っているだろうか。今までどんな道を通って来たんだろう。これから何処へ向かうのか。いやきっと彼女も今この環状線の何処かを迷子のように走っているんだ。ここを走っていればまた会えるだろう。そんな事ばかりを考えていた。前に向かって走らせなきゃいけない事は分かっていた。最愛の人を乗せて僕は何処に向かって走っているんだと自虐の気持ちも強かった。が、どうしたって自分の意志でその歪なレールは元に戻ることはなかった。歪な環状線も随分長い間走っていた。2年は経っただろうか。いつまで走っても彼女の列車が見えて来ない。同じ所を回っているんだ。同じ速度で走っても見つける事は出来ない。そう思った僕は列車の速度をあげた。彼女の列車を探しに行った。速度をあげたらようやく彼女の列車を見つける事が出来た。そこで彼女と沢山話をした。彼女の列車も見してもらったし、走った道のりも聞いた。彼女の列車は立派なものだった。勝手だが僕は彼女の列車を頼りないものと当然のように想像していた。当時の彼女自身がそういうイメージだった。そして一番驚いたのが、彼女の列車を見つけた場所だった。話を聞くに彼女は環状線なんて走っていなかった。ひょっとすると2年前はそうだったかも知れないが、そんな所はとっくに抜け出していたのだ。ずーっと環状線を走っていたのは僕だけだった。勝手に想像で創り上げた彼女の頼りない列車を、僕らだけが彷徨う環状線の中で、見つけてやろうと。僕ら二人でなら歪な環状線の抜け道が分かるかも知れないと。でも幻影を追い求め彷徨っていたのは僕だけだった。彼女が自力で抜け出したのかも知れないし、そもそも彼女は鼻から環状線を走っていなかったかも知れない。彼女の今の列車が走る様を見て、それに気付くことが出来た。僕は拍子抜けた気持ちだった。なんだ僕だけだったのか、なんて馬鹿なんだ僕は、と。そう思った時、足元でガチャンと音がした。それは気持ちの良い音だった。僕らの列車はまたゆっくりと走り出した。ガタゴトと揺れる音は少し懐かしくも感じる。僕は窓の外を見た。曇天から晴れ間が差し込んでいる。歪な環状線がゆっくりと遠ざかって行くのが見えた。