いつもと変わらぬ週末
その日も、本当にいつもと変わらない土曜日でした。
次男をスイミングスクールに連れていき、帰宅後はみんなで昼食。
そして近くの公園へ出かけて…。特に何ごともなく時間が過ぎていく。少し寒かったため、早めの18時頃に入浴。
晩御飯の鶏鍋を作って座卓で食事。食べ終わったのはいつもより少し遅めの20時半。
その後、録画していた『ナスカの地上絵』特集をみんなで見て、22時には寝る予定だったのですが…
21時15分、異変は突然に
突然、喉の奥に強い違和感が起こりました。
バーンと一気に来たのではなく、ドラムロールのように少しづつ、でも急速に強まっていく。
そのうち胸の中心、鎖骨から下に6cm程度、左右両側3cmほどの部分に、胸焼けした時のような痛みが。
「…またきた。」
少し焦りながらも平静を装い、座卓に腕を置きやや前傾に。
治るのを待ちましたが、症状は悪化するばかり。
前傾の姿勢が辛くなり、壁に寄りかかるように態勢を変えても痛みや苦しさは変わらない。
そのうち額に冷たい汗が浮かび、喉の違和感は声も出せないほど酷く。
妻に伝えたい、でも声が出ない
「このままではやばい。」
妻に状況を伝えたくてもテレビに夢中。
声が出ない。
何とか手を振り、「あー」「あー」と声を絞り出す。
ようやく気づいた妻は、怪訝そうな表情で「どうしたの?」と一言。
体が重く、座っていられない
「…ちょっとしんどいから、ほら、救急車呼ぶ前に相談する電話…調べてください。」
「え?どうしたの?辛いの?」と言いながらスマホを取り出す妻。
息子たちは相変わらずナスカの地上絵に夢中。
体感的には1分ほどだっただろうか。額の冷や汗は脂汗に変わり、ボタボタと流れ始め、手の指先が冷たく痺れ始めた。
目の両端がチカチカし、立ちくらみから貧血に至るような感覚に襲われる。このままでは本当にまずい。
「やっぱり救急車…」と伝えたところで、体が重くなり、座っていられず横に。
動揺する家族
「え?え?どうしたの?本当に具合悪いの?」
と少しづつ状況を理解してくれて、焦り出す妻。
そして、ようやく異変に気づく息子たち…。
「えー!お父さんどうしたの〜?ねえ、具合悪いの?」
心配して寄ってくる兄弟。
安心させようと笑顔を作るのですが、上手くいかない。
そのうち呼吸もしづらくなり、深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
天井をボーッと見ながら喉を抑えられているような圧迫感と両胸の痛みに耐える。
チカチカする視界。傍で妻が救急センターの方に状況を伝えている…。
次男が私の体を揺すり、「どうしたの〜っ?」と心配してくれるのですが、
ごめん。今はそっとしておいて…(笑)
と、意外と冷静な私。
…どのくらい経過したかわかりませんが、体感では本当にすぐ玄関のチャイムが鳴り、妻が応対。
その頃には目を開けていられずギュッと閉じたままだったので、うろ覚えですが救急隊というより消防隊の方が2名。
次男の反応w
突然の来客にテンションが上がる次男。LaQで作ったロボットを見せびらかす。
「あぁ、本当に人見知りしないなぁ、ウチの次男は。」と笑えてくる。
状況を伝える妻。消防隊の方が私に近寄り、「お名前は?言えますか?」と質問。辿々しく答える私。
次に「どこが痛いですか?」と質問されたのですが声を出すのが辛く、指で胸を指す。
すると血圧を測り始めて、ペンライトで目を照らされる。
そのうち、遠くから救急車のサイレンが聞こえ、近くで音が止まる。
妻のスマホが鳴る。しかし気づかない妻。
「スマホ鳴ってるよーっ。多分、あの救急車の人じゃない?」と思うのですが…
慌てている妻には聞こえていない様子。
そうこうしていると、どうやってわかったのか救急隊の方、おそらく2名?が合流。
テンションMAXの次男を長男が制し、少し離れた場所から心配そうに見ている。
その間、色々と体を触られたり質問されたりしたのは覚えているのですが…具体的な内容は忘れてしまいました。
ただ、「体温36度」という声だけは覚えています。
まさかの生理現象との戦い
「じゃあ病院行きますねー」と言われ、おそらく担架に乗せられた私。
それと同時に排泄をもよおす私。しかも大きい方。
「ちょっとトイレ…大きい方、行きたいです。」
と伝える私に、救急隊の方が強めに「我慢してくださーい!」と。
でもやっぱり漏らすのはちょっと…恥ずかしいですよと思い
「いや、すぐ終わりますから…」と伝えるのですが、却下される。
妻がテンパったのかw
「大丈夫!私も出産の時に出たから!」
といきなりカミングアウト。
口元が緩む。
その時、「便失禁」という言葉が聞こえ、「あ、もしかして気絶しそうになってる?」
と自分の置かれている状況に気づく。
「せーのっ!」と持ち上げられて移動。辛いのに少しワクワクしている私。
初めての救急搬送
救急車には、長男が1歳の頃、熱痙攣を起こした時に乗車した事がありましたが、
自分が救急搬送されるのは初めて。
不謹慎ながらも好奇心が勝ってしまう。
妻が長男に「おばあちゃん呼んだから、次男くんよろしくね!いい子にしててね!」と話している。
もう21時過ぎ…。
祖母の家は早寝だから、おそらく寝ている。迷惑をかけてしまった。
実母とはいえ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
救急車に運ばれ、妻が乗車。
本当にすぐ出発。ものすごく揺れて、本当にすぐ病院に到着しました。
実際にどのくらいの時間が経ったのかはわからないですが、体感では5分かかっていませんでした。
急いでくれた救急車のドライバーさん。本当に感謝。
病院へ到着ーそして死の宣告
ストレッチャーで運ばれ、グルグルと流れる天井。
白い壁と、少しグレーがかった白色の大きな機械が印象的な広い空間へ運ばれる。
そこで妻は退出。
「頑張ってねー!大丈夫だから!」
笑顔で手を振る妻。
私も精一杯、笑って手を上げる。本当に、本当に感謝でいっぱいの気持ちになる。
「いつも本当にありがとう。いつも本当にごめんなさい。」
救急隊員の方々が看護師の方と短い情報交換を終えて退室する気配がしたので
「ありがとうございました」
と精一杯の声を出して見送る。
頷いてくれたような気がして、その仕草にも感謝の気持ちが込み上げる。
入れ替わるように、青い手術衣を着た若い医師が私に告げる。
「こんばんは。あなたは急性心筋梗塞の疑いがあります。正直に言いますが、死んでしまうかもしれません。助けるために全力を尽くします。頑張りましょう!」
…そんな感じに言われたように思う。
急性心筋梗塞という言葉と、死ぬというフレーズ。
そして全力を尽くすという、頼もしくカッコ良い言葉。
それがとても印象的に残っています。
…でも何か、他人事のような。
リアルさに欠けるというか、『死』というものが間近に迫っている状況が信じられない感覚。
大怪我をしているわけでも、激痛で気がおかしくなるほどでもない。
それなのに…死ぬかもしれない?そうなの?
そんなチグハグな感覚。
そして…手術が始まりました。