宇津木事務所 (C)1989-2004 Nintendo


「探偵」と名乗ると、人探しや浮気調査をされていると思われがちだが、実際のところ、その手の案件に直接手を染めた経験は殆どない。業務のプロセス上、人を探すこともあるのだが、それは本題ではなく、むしろ取材や事実確認のためである。

勿論、尾行や張り込みと呼ばれる行為も少なからず発生する。テレビの推理ドラマ等で描写される探偵「のようなもの」は、存在しないと思われているのだが、僕らの生業はむしろ、その推理ドラマのような探偵なのだ。フフフ・・・。

確かに日本の場合の探偵業は、浮気や身元調査等の個人を対象とする案件が主な業務ということだが、ウチの事務所は個人案件をめったに受けない。クライアントの大半は企業であり、主業務は保険会社からの事案である。状況分析~推理~立証~報告というプロセスの中で、推理ドラマのような展開が繰り広げられることもある。もっとも、テレビのように殺人や傷害などの物騒な犯罪に出くわすケエスは稀であり、保険金詐欺が中心なのだ。

ただ、クライアントの中には個人の資産家もいて、些か複雑な世界に巻き込まれたりもするんだ。

昨年6月に日本でも探偵業法が施行され、一応届け出制になった。この法律の定める“探偵業”とは、「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務を行う営業をいう。ただし、専ら報道機関の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く」となっている。

ウチの事務所も業務上公安委員会に届け出を提出し、探偵業届出証明書を発行してもらった。元々この稼業はアメリカ在住中に始めたものだ。米国の場合、探偵業は古くからライセンス制になっており、ビジネスモデルも確立されている。つまり、国家資格者であり、それなりのステイタスもある。

先日、あるパーティの席で同業者に出くわした。同業といっても、彼は日本スタイルの探偵業の方なのだが。彼にパーティへの参加の趣旨を尋ねたら、仕事だという。

何でも、彼の所属する事務所では数年前から「別れさせ屋」なるサービスを展開しているとことだ。その一環で、その席にも参加していると話していた。

「別れさせ屋」とは、依頼を受けて交際相手を自然と別れさせるという工作を司るサービスだ。テレビドラマで一時期脚光を浴びたらしいが、何せ仕込みが面倒な上に、協会が自主規制をかけてきているらしく、やり難いことこの上ないと愚痴られてしまった。

しばらく談笑した後、「じゃあ、またいつかどこかで」と彼は言い残して、目的の女性に接近していった。


僕はその背中に乾杯の目礼を送り、会場を後にした。



追伸:

探偵といえば、「ファミコン探偵倶楽部」。あゆみちゃんのような助手がほしいなぁ・・・