物語る私たち
９月１２日（金）　１６：２０～　ユーロスペース

好き度：　★★★★☆　４／５点

『主観』　こそが　『真実』

「アウェイ・フロム・ハー」「テイク・ディス・ワルツ」というキッツイ素晴らしい映画を撮ってきた女優であり監督、サラ・ポーリーの最新作。評判も聞いてたし、なんてったってサラ・ポーリーなので期待しておりました！というのも僕は監督の前作であるテイク・ディス・ワルツがすっごく好きでただでさえ好きな倦怠期夫婦もののなかでも一番好きくらいの映画なのです。アウェイフロムハーもそうだしテイクディスワルツもそうだけど、いずれも夫婦の映画であり、しかもものすごく苦くキツイ。ある種サディスティックなほどの作家性をもってる監督ですよね。どうしてこういう映画を撮ってきたのか、その理由がこの『物語る私たち』を観ることでちょっと垣間見える、そんな映画のように思いました。

こわーい熟年夫婦映画です

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奥さんも奥さんだけどセスローゲンもセスローゲンだと思ったり…

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「サラはお父さんに似ていない」という家族間のお決まりジョーク、このジョークとサラ・ポーリーが対峙するという本作。自分の家族や母親の関係者に「母とのストーリーを最初から最後まで話して」と伝えてインタビューをとり、それをつなぎ合わせてできているのです。

この映画は一見、私の親の真相を追うというある種の謎解きドキュメンタリーに見えるし、実際そうでもあるんですが、ぶっちゃけ親がどうだったという事実はどうでもよくて、あるひとつの事実をいろいろな人が自分が見たり思ったという主観視点を語り、その主観こそがその人にとっての真実だよねっていう、人間の「記憶」というもののおもしろさ興味深さについての映画だったように思いました。家族云々の問題はメインではなく材料なんですよね。

お父さんのナレーションを演出するサラ・ポーリー。

おもしろかったのが、まぁ物語は進んで行って実の父が見つかるんですが、その実父もアーティストでその実父から「事実は相手によって異なるけど、真実はひとつであるからその手法はどうだろう」というアドバイスを受けるんですよね。たしかにそれはその通りだと思うんですよ。しかしですね、「だからこそ、おもしろいんじゃない！」という映画に最終的になっていて、ある意味実父への解答のようなそんな映画になっていましたね。

これ、松江監督が前言ってたことがその通りだなぁと思ったんですが、この映画自体がセルフドキュメンタリー映画というもの自体のおもしろさ、興味深さと直結してるのがおもしろいんですよね。セルフドキュメンタリーって作り手、語り手による視点で見せていき、それこそが作者にとっての真実なのだというつくりですよね。その人が見ている風景、見てきたことがその人にとっては真実だし、そっちの方が漠然とした事実よりも圧倒的に強度があってその魅力があふれている映画だと思いました。

そしてフェアなのは、終盤。監督自身も実父のアドバイスも含め、しっかりと葛藤、悩みを入れ込んでいるんですよね。この作品をどうしていくか、この事実・真実とどういうバランスでどう向き合うのか。と、この映画自体がまたサラ・ポーリー自身のセルフドキュメンタリーでもあったんだというおもしろさもありました。

挟み込まれる母の映像…

そして、なんといっても僕らが今まで見てたサラ・ポーリーの母だと思っていた人物、８ｍｍ映像でみてたこの映像はすべて作り物でサラが演出したものだったということですよね。サラの中にある母親の像を映像化したこの８ｍｍ映像、これ自体はウソでありフィクションなんだけどでも、その作り出した母の像はサラにとっては真実なんですよね。事実ではないけど真実なんですよね～。これこそ、『セルフ』ドキュメンタリーだし、セルフドキュメンタリーというものの批評的な部分も盛り込まれていて、末恐ろしいですな…。

演出だったんですね～この映像たちは

というわけで、「物語る私たち」、とてもおもしろかったです。構造上、インタビューのお話はちょっとだれるところもあるかもしれませんが、この映画けっこう画期的なドキュメンタリー映画だと思いました。やっぱりサラ・ポーリーはすごかった！

おわり

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スタッフ

監督

サラ・ポーリー

製作

アニタ・リー

製作総指揮

シルバ・バスマジン

脚本

サラ・ポーリー

撮影

イリス・ン

編集

マイク・マン

音楽

ジョナサン・ゴールドスミス

キャスト

マイケル・ポーリー

ハリー・ガルキン

スージー・バカン

ジョン・バカン

マーク・ポーリー

ジョアンナ・ポーリー

サラ・ポーリー

作品データ

原題 Stories We Tell

製作年 2012年

製作国カナダ

配給ユーロスペース

上映時間 108分

「物語る私たち」を観た。