はちどり/あの時、あの教室。 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。




はちどり


あの時、あの教室。
監督:キム・ボラさん
出演:パク・ジフさん、他


評判を聞いていた「はちどり」がこちらにもやっとまわってきたので、映画館に観に行ってきました。めちゃくちゃよかった…!


穏やかで静かなタッチで、90年代の韓国で育った1人の少女を描く本作。繊細な描写の積み重ねや確かな演出力で、ものすごく豊かな映画になっておりました。

言葉にはできないけどなんか窮屈で、なんか生きづらい気がする…みたいな少女目線から見た微妙な日常の違和感みたいなものを言葉での説明なく微細な演技と演出で可視化してるのがすごいなと思いました。特に「家族」という身も蓋もなく逃げようのないシステムの描きこみは素晴らしかったです。個人的に泣けたのが、実家で経営している餅屋の仕事を家族みんなで手伝うシーンで。私も実家が同じように会社経営しているのでいろいろ思い出したし、この家族の設定を家族経営の餅屋にしたことによるなんかよるべない感じというか、なんか絶妙にままならない感が出てて絶妙でした。この設定があったからか、めちゃくちゃ感情移入したなぁ。


友人関係とかこの年齢の時の付き合う付き合わないとかの恋愛描写も良かったんですが、やっぱり何より良かったのは塾の先生。ほんとにあの先生は素晴らしい佇まいだったなぁ。窓際でタバコをふかすファーストコンタクトから、彼女はこれまで出会ってきた大人とは何かが違うと思わせる説得力があって。あたたかい烏龍茶とあの素敵な茶具、あの塾の空間のただならぬ安心感はなんなんだ。

この先生と主人公の関係を見てて思ったのは、誰かとの何気ない出会いが決定的に誰かの人生の支えになることってあるよねってことで。特にティーンにとって、こういう「理解してくれる大人の存在」の大事さってめちゃくちゃデカいよなと思いました。私は誰かにとってのヨンジ先生になれているかな?と思ったりしました。

様々なままならなさを抱えながら、彼女のもとに届くまっさらなスケッチブック。あれこそ、ここからどんな色にもなれる、羽ばたける、というこの映画における唯一の希望でありものすごくポジティブな何かだったなと思います。実際に、この監督自身が、この映画を完成させてるということが、ものすごい希望であって、その辺も含めて「冬の小鳥」を思い出したりしましたね。どっちも鳥だし。


てなわけで「はちどり」とても良かったです。
こういう映画こそ映画館で見た価値があったなと思いました。