私が23歳の夏。

お父ちゃんが急死した。




「退職したら家族で北海道に行ってみたい」


お父ちゃんの小さな夢だった。



警察官だったお父ちゃんには休みという休みが無かった。

どんなに忙しくても弱音を吐かず、警察官として一生懸命働いているお父ちゃんのことが私は大好きだった。


でも、ある日



「少し休みたいな」



私の記憶の中で、初めて聞いたお父ちゃんの弱音。

珍しいな、って。そのことにすごく違和感を感じたのを覚えている。


その年に、大好きだったお父ちゃんは永遠の眠りについた。



2009年8月5日


お父ちゃん「なぁ、母さん。明日の花火大会だけど、仕事が休みになったから久し振りに行ってみようか」


母「あら、お休みなの?珍しいね。楽しみにしてるね」



地元の花火大会。

今は年に1回になったが、当時は2日連続で花火が打ち上がっていた。

初日は友達や家族と行き、2日目は恋人と行くというのがこの町の定番だった。


その年の2日目。お父ちゃんと母は2人で花火大会へ行った。

花火会場で偶然姉と会ったらしく、姉が2人の写真を撮った。

その時の写真は今も残っている。

2人が仲良く並んで座り、後ろを振り返って微笑んでいる1枚だ。


私「いい年して何ラブラブな写真撮ってんだよ」って。

茶化してたけど、



これが2人の最後の写真となった。




2009年8月13日 


お父ちゃん「ひろ。これ。」


私「ん?」


出勤前のお父ちゃんが私に渡してきたのは、父子鷹について書かれた文書だった。


お父ちゃん「職場でもらったんだ。父子鷹って言ってな。父と子が共に優れているという言葉だ。お前へのメッセージも添えといたから読んでみて」


私「ん。まぁ後で読んどくわ。友達と遊んでくる」


お父ちゃん「遊びもいいけど、勉強もしっかりするんだぞ。行ってらっしゃい」



当時、私は警察官を目指していた。

だけど学生気分が抜けきれず友達と遊ぶ毎日だった。



その晩、
友達とご飯を食べている時に私の携帯が鳴った。

電話は母親からだった。



母「もしもし、ひろ!?お父ちゃんが職場で倒れたって!病院行くからすぐ帰ってきて!」



倒れた?

あのお父ちゃんが?


休みたいって言ってたし、やっぱり疲れがたまってたんだな。

バイト代出たし、今度何かご馳走でもしてやるか。

くらいに思い、母親を迎えに家に帰った。



家に着くと、

母親が困惑した表情をして。少し震えていた。


車で病院へ向かう途中、お父ちゃんが倒れた理由を母に聞いてみたが、母も動揺してそこまでは聞いていなかった。


母「晩御飯の支度してたら、台所の電気が突然消えたの。あれ?って思った時に病院から電話がかかってきたの。何もないよね。大丈夫だよね。」



病院に着き、受付でお父ちゃんの名前を伝えると救急外来へ通された。



お父ちゃんはどこにいるんだ?




医師「どいてください!急患です!!」




ストレッチャーに乗せられた患者を医師が運んでいる。

どうやらただ事ではない様子だ。患者の顔は見えなかったが、無性に胸騒ぎがした。





今の、お父ちゃんじゃないよね?





医師「○○さんのご家族の方ですか?」


私「はい。お父ちゃんはどこにいるんでしょうか?」


医師「こちらへお入りください」



こちらと言われた部屋の扉には、


「関係者以外立ち入り禁止」

と書かれていた。




部屋に入ると、先ほどのストレッチャーに乗せられた患者がいた。




悪い予感は的中した。




その患者は







お父ちゃんだった。



お父ちゃんは眠っているように目を閉じていた。



医師「MRIを撮ったのですが、脳の血管が破裂しています。クモ膜下出血です。出血の範囲が広く脳全体に血が溢れています。ここまでひどいと手術がすぐには出来ません。親族の方を呼んでください」



え?脳の血管が破裂?親族を呼べ?どういうこと?今朝まで普通にしてたよ?



先生間違えてるよ。もう1回撮り直してよ。




医師「遠方にいる方にはすぐにでも連絡を取ってください。明日まで持つか分かりません」



隣にいた母は大声を出し泣き崩れた。

私も大人になってから初めて人前で涙を流した。





どうしたらいいのか分からなかった。


どうしたらお父ちゃんが助かるのか分からなかった。


何もできない私は、お父ちゃんが助かることだけを祈るしかなかった。





神様




おれの脳みそ持ってっていいからお父ちゃん助けてください。










すぐに親族に電話をかけた。

お父ちゃんの親、兄弟

母方の親、兄弟


そして、私の兄弟。



この時の会話はほとんど覚えていない。



覚えているのは





兄「泣くな!!すぐ行くから泣かずに待ってろ!」


という兄の言葉だけ。



そうだ。

泣いていてもどうしようもない。

私が母を支えなきゃ。



兄は東京にいたので、すぐには来れなかった。

明日朝一の飛行機に乗って病院へくることになった。





次第に、みんなが病院へ到着した。


姉が、見たこともないぐちゃぐちゃな顔をして泣き崩れている。



みんな泣いている。




お父ちゃんが倒れたことが嘘なんじゃないかって


心のどこかで思っていたけど、その光景を見て現実なんだって思い知らされた。





叔父が医師に詰め寄った。


「なんで手術出来ないんだよ!?このままじゃ助からないだろ!?」



医師「出血が収まってからでないと手術は出来ません。今は、出血が止まるのを待ってから手術をするしかありません。ただ、、」





「うまくいっても植物状態です」












お父ちゃんに話したかったことたくさんあるんだよ。

恥ずかしくて言えなかったことたくさんあるんだよ。

警察官になったら、お父ちゃんに色々教えてほしかったんだよ。


家族で北海道いきたいって言ってたじゃん。




目覚ませよ。



母ちゃん泣いてんだよ。





続く。





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