「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかいました根っからの江戸っ子。姓名の儀は車寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します。」第一作『男はつらいよ』より
ご存知『男はつらいよ』の主人公寅さんの名口上。本作は、主人公車寅次郎が日本全国津々浦々をフラフラしたあと葛飾柴又の実家に戻って、トラブルを起こしフラグを自主回収するドタバタ活劇シリーズです。国民栄誉賞俳優渥美清が演じる寅さんは今で言う正真正銘のニート。たまにテキ屋みたいなこともやっているけど、フリーターが関の山。見てくれも二枚目とは言い難く、良く言って味のある顔。それにもかかわらず、作中では昭和の大女優吉永小百合や浅丘ルリ子演じるマドンナたちと毎度毎度プラトニックな恋愛を繰り広げるのです。ルックスだけだと多分、巨匠赤塚不二夫に言わせれば男ドブスの渥美清さん。しかしながらどういうわけか女性にモテるのです。義理人情に熱い男なのは明白ですが、それ以外に良い男の要素はこれと言って見当たらないのです。
「あーそうか、旅をしているから良い男に見えるのか」
と気づくと同時に僕はいてもたってもいられず、親に頭を下げしばらくフーテンになろうと決めたのです。
「私、生まれも育ちも大和国。秋篠川で産湯をつかいました根っからの関西人。」現在大学四年生。就職先が見つからず、さりとりなんとかなるだろうと楽観的に考えていた頃に出会ったのがこの寅さんだったのです。
とにかく「良い男になりたい」
その一点のみを人生の目標にしてまいりました、というのは嘘ですが、常にこれが頭の中にあったのは紛うことなき事実です。
ところがどっこい、そのテーマに反し情けない人生を過ごしてたのもまた事実。それは大学に入ってからさらに加速し、酒と麻雀とタバコに明け暮れる惰性の日々を送ってまいりました。
いよいよ卒業まで一年を控え学生生活でやり残したことは何かを考えたとき、何もかもの経験が不足しているような気がしてなりませんでした。経験をするには「旅」やろ、という短絡的思考から途上国を巡るバックパッカーになることを決意したのです。
有効期限切れのパスポートを確認すると、海外に行ったのは小学四年の家族旅行以来のことでした。英語のレベルはTOEICだと300点くらい。まともに会話もできやしません。
でも、これを成功させたら良い男へと華麗に変貌を遂げられるのではないか、そんな淡い希望的観測を胸に最初の目的地ベトナムへと若者は旅立つのです。
いろんなものを見たり見なかったり、いろんなことを経験したりしなかったり、何かを感じたり感じなかったり、これといった高尚な目的も特にはないので得られるものがあるかもわかりません。
希望を言えば筋肉を強化し、体脂肪率を10%以下にしたい。あとは孤独に耐えうる強靭な精神力を養いたい。語学力も強化したいです。人見知りも正したい、となりたい自分は意外にたくさんいます。
全部、日本でもできそうな気がしますが、旅をすると言ってしまった以上新たな環境、知らない場所でしか得られないものがあると期待してフラフラしたいと思います。
宮崎駿監督も『千と千尋の神隠し』のインタビューで言ってたけど、日本の現代アニメに蔓延る成長神話である必要はないと思います。いずれの目標が達成できなくても、何かしらの感性を少しでも養えれば儲けもんだと思うのです。
っていうのは全部建前で「旅」したい、なんかかっこいいからっていうなんとなくのふわふわした理由で、自分探しの旅するOLよろしく、たまにトラブルに遭遇しては「こりゃあとで武勇伝になるわ」としたり顔で小さな事件くらいはラッキーだと思える、しばしば見かける日本人若年バックパッカーの仲間入りを果たすべく、僕はおよそ10年ぶりに国際線の便に搭乗するのでした。これがフラグにならなければいいけど…。
続く