これは、僕がまだ小さかった頃の話だ。

 あるとき、幼い僕は、父と母に連れられて、動物園に行った。たしか県外だ。動物園中を歩いて、僕は疲れて、お腹がペコペコになった。

 そんなときだった。一軒の屋台が、僕の目に飛び込んで来たのは。そこに並べられていた食品サンプルは、茶色くて、丸っぽい。唐揚げだ!

 僕は母にねだって、それを買って貰った。でも、どういうわけか、父と母はそれを持って、どこかへ歩き出した。"早く食べなきゃ冷えちゃうのに。"そんなことを思いながら、僕はわけも分からずついていく。

 熊のところで止まった。父が紙コップをそう、その"からあげ"は紙コップに入れられていたを僕に差し出した。僕は喜び勇んでそれを一つ、素手で掴み、口の中に放り込んだ。その瞬間、父と母の目が、文字通り点になった。それに気づかない僕は、それを思い切り噛み砕こうとした。

 ガリッ

固い。とても噛み砕けない。父が言った。

"それは食いもんじゃない。クマの餌や。"

 僕は、半泣きになりながらそれを吐き出し、クマに向かって放り投げた。クマは直ぐ様それに気づき、それを食べ始めた。

 

 つまり僕はクマと間接キスをしてしまったわけで、それも幼い頃だったということは……

 そう、僕はクマに初めてを奪われ……うっ、考えないようにしよう。