今回の依頼。

 

◆ブーケ様 「アイドル事務所にあこがれて」

 

必須家具3点。

 

外観はこんな感じ。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「ほら見て、ニワトリの玩具を買ってきたよ!」

 

――こんな会話をした記憶がある。

 

「このニワトリさんはね、卵を産むんだよ。

こっちの大きくて白い方がミュージシャンの卵の けけちゃん。

小さいけど金の卵が、アイドルの卵の私なんだよ」

 

『あははっ。コレ、ダルマじゃないか』

 

「あ、本当だ! こっち向きにすると顔が見えるね」

 

――そんなことで笑いあっていた あの頃…。

 

彼は若い時に傷害事件を起こしてしまい、少年院からバッグ一つで出てきた。

彼の両親は世間体を気にし、彼に少額のお金を渡すと「親子の縁を切る」と言ったらしい。

彼はなけなしの金で古びたギターを買い、歌を歌いながら放浪した。

 

私はアイドルを目指して田舎から出てきた。

右も左もわからずウロウロしていた時に、都会の掃きだめみたいな一角で歌う彼を見た。

 

私たちが恋に落ちるまで、時間はかからなかった。

 

貧しかったが、とても幸福な暮らしだった。

同じ空間に私がいて、彼がいる…。お金ができたら、当然結婚するものだと思っていた。

 

やがて、彼も私も少しずつ売れていった。

 

売れだした彼は、「遠方でライブがある」と言って何日も家に帰ってこないことが多くなった。

寂しかったが、彼の夢が順調に叶っていることを喜ぶことにした。

 

最後に家で会話したのは、いつだったっけ…。

 

彼が唐突にこう言いだした時だったか。

『僕の場所は、どこにあるんだろう…』

私はすぐに返事をした。

「そんなの、ここに決まってるじゃない!」

 

「けけちゃんがいて、」

 

「私がいる、この家だよ!」

『……。そうか』

彼は素っ気ない返事をした。

そして、またライブがあるからと家を出て行った。

それから何週間も帰ってこない。

こんなに長い間帰ってこないのは初めてだ。電話も通じない。

彼に何かあったのではないかと、不安で堪らなかった。

 

そんなある日、書店の雑誌に彼の名前が載っているのを偶然見つけた。

「……!! どういう事なの!?」

 

彼が複数の女性と親密な関係を持っているという記事だ。

私のことは書かれていなかったが、女性の中には既婚者もいると大々的に書かれていた。

「こんなのウソよ! 信じないわ…」

 

しかし、相変わらず彼と連絡がとれない。枕を濡らす日々が続いた。

 

ある日の深夜、彼は何の連絡もなしに帰ってきた。

「……! 帰ってき…」

『シッ! 声が大きい…』

 

彼は大きな荷物を隠すように持ち、コソコソと中に入ってきた。

 

『いきなりで悪いが、これを預かってほしい』

 

その大きな荷物は、ベビーベッドだった。

スヤスヤと眠る可愛い赤ん坊が入ったベビーベッドだった。

「……こ、」

思わず愚問が飛び出した。

「この子、誰の子なの!?」

 

『俺の子だよ』

 

私はその場に崩れ落ち、泣いた。

 

明け方、赤ん坊の泣き声で目が覚めた。

泣きながら、いつの間にか眠っていたらしい。

 

部屋に彼は居なかったが、たくさんのプレゼントが置かれていた。

すべて赤ん坊のために用意された品だった。これは何月くらいに使用してくださいとか、彼の文字で几帳面に書かれたメモが貼ってある。

 

『迷惑をかけて申し訳ない。

この金は養育費として使ってくれ。

何かあったらこちらから連絡するから、そちらからの連絡はしないでほしい』

そんなメモが残されていた。

 

けけちゃん。

電話ってのは、受信専用じゃないんだよ。

何でこっちからは連絡できないの…?

 

赤ちゃんが泣いている。

ミルクをあげなきゃ。

 

私は小さなライブステージで細々と歌い続けた。

彼は、小さなライブステージでは…あの部屋や私のような女では満足できなかったのだろう。

 

彼…とたけけは、「さよなら」という曲を出した後、芸能界から泡のように消えていった。

 

彼の赤ん坊…娘も大きくなってきた。

娘は、もちろん私には似ていない。

父親であるはずの とたけけにも似ていない。

彼が関係を持ったとされる女たちのいずれにも似ていない。

 

もしかして、とたけけの子ではないのではないか…?

彼は、関係があった女の一人に騙されたのではないか?

「この子はあなたの子よ」と…。

 

しかし、そんな事はどうでもいい。

這い這いを覚えた途端、とたけけが置いていったギターに興味を示し、

言葉を覚えるより先にギターを覚えた娘。

 

いま私に当たっているスポットライトが、観客が、カメラが、彼女の方を向く日も近いだろう。

 

ブーケ 「その天才ギター少女が このアタイ、ブーケ!

…てな設定で売っていこうと思うんだ~。 よろしくね!」

早飴 「ブーケさん!重すぎますぅ! …って、ライブで『設定』ってバラしちゃダメでしょうが」

ブーケ 「そうだね! 失敗しっぱい。

でもさ、とたけけ先生に『先生の隠し子かもしれないアイドル』で売っていいですか?って聞いたら、『いいよ(・ω・)b!』って即答してくれてさ。

とたけけ先生は良い犬だね~。

 

…じゃ、次の曲はとたけけ先生の曲を歌いまーす!

リクエストある人~?」

 

観客 「『ぼくのばしょ』!」

ブーケ 「お! ブーケ先生のお話にでてきたタイトルだね!

ちゃんとお話聞いてて偉いエラい。

じゃあ次は『ぼくのばしょ』! チェキ!」

観客 「イエーーイ!」

 

あ、事務所作ってない∑(゚Д゚)

 

 

 

 

 


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