今回の依頼。

 

◆ラッキー様 「ラッキーになれる部屋」

 

必須家具3点。

(手前のは『救急箱』)

 

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家の外。

 

裏の畑でポチが鳴く。

「ここ掘れワンワン」

 

正直爺さんが「年寄りに肉体労働は無理」と大仰な機械で掘ったなら

大判小判がざっくざく。

 

しかし、色々あってポチは死んでしまった。

正直爺さんが悲しみながらその灰を枯れ木に撒くと、なんと枯れ木に花が咲いた。

たまたま通りかかった大名がこれを見て大層喜び、正直爺さんに褒美をとらせたということである。

 

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早飴 「失礼します、先生…」

 

ラッキー師 『早飴さんだね。お待ちしておりました。さあ、用件をお聞きしましょうか』

「はい…。先生は、死んでしまった人を生き返らせることができると聞いたのですが…

ペットの犬も生き返らせていただくことは可能でしょうか」

『ふむ…』

「ポチが死んでしまい、とても悲しいです」

『生き返らせることはできるが、あまりお勧めはできないね。

お茶を入れてくるから、その間にこの部屋を色々見て考えるといい』

「ありがとうございます」

 

「ここは、人を蘇生しているところかしら…」

『そう。人間を生き返らせるのは、この私でも結構時間がかかるんだ。

生前の写真をお借りしているが、やはり完全に同じというのは難しい』

 

「こちらにはお人形がありますね」

『うむ。死者の蘇生だけが仕事ではないのでな。

生きている者が、自分の姿を変えてほしいと頼みに来ることもある。

早飴さんの周りにもいないかな? フランス人形になりたいという娘さんが』

 

「(そういえば、同じ塾のリカちゃんがそう言ってたような…。でも最近会ってないなぁ)

すると、ここにある人形はサンプルみたいなものでしょうか。

でも、お爺さんの人形もありますね」

『そりゃ、皆が皆 美男美女に憧れているわけじゃないからなぁ。

例えば、誰かに追われていて、逃げるために自分の顔を変えたいとかな。

……さ、お茶が入りましたよ』

 

『冷めないうちにどうぞ。これはな、中国の崑崙茶というお茶じゃ』

「い、頂きます。…熱ッ」

崑崙茶が一滴、傍らに置いたポチの骨壺に落ちた。

次の瞬間、骨壺から煙が上がり……

 

「あ! ポチが…!」

ポチが生き返った。ワンワンと、生きていた頃と同じ声で鳴いている。

ポチと再会できた喜びより、驚きの方が勝っていた。

骨壺の中を見ると、何も入っていなかった。

 

ポチは、少女の人形が気になったらしい。動かず、低いうなり声を発していた。

 

『無事に蘇生して良かったのぅ。…さぁさ、崑崙茶をもっとおあがりなさい。崑崙茶というのはね…』

言われるまま、私は崑崙茶を飲み続けた。しかし、飲んでも飲んでも崑崙茶は一向に減らない。まるで、ティーカップの底から湧き上がってくるかのようであった。

 

一度お茶を飲む手を止め、ティーカップの中を覗き込んだ。

そこには、先ほどどこかで見た少女の顔が映っていた。

 

やがて、少女の顔が歪んだ……。

 

『…それはもう何ともかんともいえない秘めやかな高貴な芳香が、歯の根を一本一本にめぐりめぐって、ほのかにほのかに呼吸されて来る。

そのうちにあらゆる妄想や、雑念が水晶のように凝り沈み、神気が青空のように澄み渡って、いつ知らず聖賢の心境に瞑合し、恍然として是非を忘れるという…』

 

《おい!お嬢ちゃん、起きろ!》

《早飴ちゃん!》

「……え?」

 

三つ編みの少女がお茶を飲んでいる。

あれは、私??

 

《早飴ちゃん、私よ!リカよ、分かる!?》

フランス人形が、少しだけこっちを向いた気がした。

「リカちゃん!? そんな、なんで…」

《フランス人形になりたいって言ったから。

私がバカだったわ…。フランス人形みたいな綺麗な女の子になりたかったのに、人形そのものになるなんて》

 

《皆、災難だな》

今度は隣にいるクルミ割り人形から声が聞こえてきた。

「ええと、貴方は…」

《あそこに蘇生中の人がいるだろう。あの写真付きの》

 

《あれは、俺の女房だ。

殺された妻を蘇生してほしいって頼んだら、俺がこうなっちまった》

 

「こ、殺されたの!?」

《犯人はわかっているがね。

あんたの友達の横にいる、あの爺さんの人形だ》

 

《……。つい、カッとなって殺しちまった。

警察に追われ、姿を変えるためにここに来たら、人形にされちまったんだ》

「皆、元々は生きた人間だったの…?」

私は、あの少女の人形になってしまったのか!?

 

では、あの娘は…

 

 

 

 

 

 

 

崑崙茶の件の元→青空文庫 夢野久作

 

 

 

 

 


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