先生の真ん前なのに、私の席は恵まれてるとクラスメイトの女子は言う。

隣の席が、イケメンな瀬戸君だからだろう。
イケメンなだけでなく、文武両道で非の打ち所がない。
話してて嫌味もなくてモテるのもわかる。

先生の方を見るだけで、瀬戸君は視野に入ってくる。
隣とプリントの答え合わせしろって先生に言われて、瀬戸君とプリント渡し合うだけでも、ちょっとドキッとするくらいカッコいい。

でもね。
私には、この席は残念。

だって、全然永井くんが見えないから。

永井君の席は私の斜め後ろ。
全く視野に入らない。
プリントを後ろに配るときに、私は無理にそっちを向く。
タイミング悪くて、永井君も後ろに配っててやっぱり顔が見れないときがある。
そのとき、永井君の首のホクロが私の目に飛び込んでくる。
私は永井君の首のホクロはセクシーだと思うんだけど、これは秘密。
まあ、だいたいのクラスの女子は永井くんのことは眼中にない。
たまーに、教科書の読み上げのときに
「永井ってイケボだったんだ」
って言われるくらい。
普段はめっちゃ無口。

でもね!
私は知ってるんだ。
永井くんは話しかけたら、結構話してくれるんだよ!

私が永井くんと話すようになったのは、永井くんが図書委員の当番やってたときのことだった。

私は新聞委員なんだけど、うちの学校の古くて大きくて、ちょっと薄暗い図書館が好きで、新聞委員として記事書くときも図書館を使うことが多かった。
図書委員の仕事をサボる人が多い中、永井くんは他の人よりも早く来て、丁寧に作業して帰っていく。
司書の先生が、永井くんはきっちり仕事してくれるから助かるわあと言ってるのも耳にした。

そんなことを何回か目撃して。
その日、私は閉館間際に貸出のために永井くんが座るカウンターに行った。
永井くんがピッって本のバーコードを読み取って
「泉さん、ライター志望なの?」
って言った。
もっさりしてる見かけによらず、永井君の声が軽やかで綺麗で、ヒョエって思った。

私は
「え?」
って言ってすぐに
借りようとしてた本が、心に残るニュース、みたいなのだからか!ってすぐ気づいた。

「そういうわけじゃないけど。」
って言ったものの、あながち嘘でもないかな…。

ふうん、と言うような頷き方で永井くんは私に本を、手渡した。

カウンターの中にはさっきまで永井くんが読んでたらしい冊子があった。
「それって同人誌?」
単色刷りで表紙がイラストみたいだったから、てっきりそう思った。

「詰将棋だよ。」

永井くんが見せてくれた。
書名は『詰将棋ラビリンス』
ページはバサバサになってた。
開けると図式みたいなのがたくさん。数字と漢字。

「将棋ね!新聞にもよく載ってる。」

「新聞に載ってるのは観戦記と棋譜かな。これ、詰将棋はパズルみたいなものなんだ。」

「将棋のパズルか!知ってる!土曜版とか夕刊に載ってるね。」
って私が言うと、永井くんは私の顔を見てすごく嬉しそうにニッコリ笑った。

「そっか。泉さん、ココでよく新聞読んでるから知ってるんだね」

あ、私がよく全国紙の新聞読んでるの知ってるんだ。だからもしかしてライター志望って思ったのかな??
図書館には数社の新聞が置いてある。

「あれは、新聞の連載小説読んでるんだよ」

「そっかー。小説好きなんだね。
小説家志望?」

「うん。」
うん、だって。
答えてから私は自分が素直に答えてることにビックリした。

クラスの子にだって言ったことない。
それはただの夢でしかない。

急に恥ずかしくなって、私は、永井くんに聞いた。
「永井くんは将棋好きなんだね?その本、スゴイ読み込んでるね」

「これね、風呂場持ち込むとすぐこんなんなっちゃって」

「お風呂?すごいね!そんなに好きなんだ!?趣味にハマる方なんだね」

「マア趣味っていうか…」
永井くんは困ったような顔をした。

なんか、マズいこと言っちゃったかな?ってそのときは思ったんだ。

(多分続く)