1級キャリアコンサルティング技能士の扉

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1級キャリアコンサルティング技能士

2級キャリアコンサルティング技能士(第1回合格)

シニア産業カウンセラー資格取得

Career Development Adviser(JCDA)

Career Consultant(EHRDOJ)

教育カウンセラー

第1種衛生管理者

産カラ養成講座元実技指導者

産カラキャリアコンサルタント講座元トレーナー

キャリアコンサルティング技能士会(現:ACCN)九州支部立ち上げ責任者

事例指導者に求められる二つの視座

―オブザーバー機能とコンダクター機能―

 

今回は、受検者を「Aを直接助ける人」ではなく、

「Aを支援するBの実践を観察し、指導する人」

として位置づけることが大切ですというテーマで述べます。

 

第13回の事例に即して整理します。

 

以下では、第13回1級実技論述問題に基づき、

事例指導者である受検者のオブザーバー機能とコンダクター機能について説明します。

 

大前提として、

受検者は相談者Aを直接支援する立場ではありません。

 

受検者は、

相談者Aを支援している事例相談者Bの実践を観察し、

BがAをより適切に支援できるように導く立場です。

 

つまり、受検者は次の二重構造で見る必要があります。

 

相談者Aに何が起きているのか。

 

そして、

事例相談者BはそのAをどのように理解し、

どのように関わったのか。

 

この二重の視座が、1級の事例指導における

オブザーバーとコンダクターの基本です。

 

1 オブザーバーとしての受検者の機能

 

オブザーバーとしての受検者は、まず事例全体を観察します。

 

ただし、単に「Bの対応が良いか悪いか」

を見るのではありません。

 

相談者Aの問題、

Aを取り巻く環境、

Bの相談者理解、

Bの関わり方、

そしてB自身の課題を、

事例に基づいて丁寧に見立てます。

 

第13回の事例であれば、

オブザーバーとしての受検者は、主に次の点を観察します。

 

相談者Aが本当に訴えている問題を観察します

 

Aは表面的には「予算管理が苦手」と訴えています。

 

しかし、事例を丁寧に読むと、

Aの問題は単なる予算管理スキルの不足ではありません。

 

Aは、管理職登用を見据えて予算管理を任されることになり、

過去の予算未達経験から強い苦手意識を持っています。

 

さらに、管理職になれば今後も予算責任を担うことになり、

不安が大きくなっています。

 

一方で、妻は専業主婦で、娘2人は中学生です。

 

家計を支える責任があり、

管理職にならなければ収入が増えにくいという現実もあります。

 

つまりAは、

 

予算管理への苦手意識

管理職になることへの不安

家族を支える収入面の責任

スペシャリストとして働きたい思い

転職の可能性への迷い

 

の間で葛藤しています。

 

オブザーバーとしての受検者は、

Aの問題を「予算管理が苦手」という一点に狭めず、

管理職としての役割期待と、

本人の不安・価値観・家族責任との間で揺れている

キャリア上の問題として観察する必要があります。

 

事例相談者BがAをどのように理解したかを観察します

 

次に、受検者はBの相談者理解を観察します。

 

BはAに対して、温かい雰囲気で話を聴こうとしています。

 

しかし、Aの不安や葛藤を十分に受け止める前に、

B自身の経験や管理職としての価値観で

理解している面があります。

 

たとえばBは、

 

「管理職にとって避けられない業務ですもんね」

「今いる管理職たちは全員通ってきている道ですよね」

「実は私も予算管理は苦手でした」

 

と応答しています。

 

これらは一見すると安心させる言葉のように見えます。

 

しかし、Aにとっては

「自分だけが苦手なのではない」

と安心できる可能性がある一方で、

「みんな通ってきた道なのだから、あなたも乗り越えるべきだ」と受け取られる可能性もあります。

 

Aは「責任を自分が担うのは非常に荷が重い」

「管理職になったらずっと予算に関わるため不安が大きい」

「管理職にならないと収入が増えないから悩ましい」と、

かなり深い葛藤を語っています。

 

にもかかわらずBは、

その不安や葛藤を十分に扱わないまま、

予算管理の苦手意識の解消へと焦点を進めています。

 

オブザーバーとしての受検者は、ここにBの問題を見ます。

 

Bの対応によってA支援がどこでずれたのかを観察します

 

Bは次回の面談に向けて、

 

「予算管理の何に苦手意識があるのか、もう少し詳しく見ていきましょう」

 

と課題設定をしています。

 

しかし、Aの本質的な悩みは、

予算管理の細目を分析することだけではありません。

 

Aは、管理職になるか、

スペシャリストとして働くか、

収入をどう確保するか、

家族をどう支えるか、

将来の働き方をどう選択するかという、

複合的なキャリアの問題を抱えています。

 

そのため、Aに必要だったのは、

まず予算管理の苦手意識を細かく分解することではなく、

 

「管理職になることにどのような不安があるのか」

「スペシャリストとして働きたい思いにはどのような意味があるのか」

「家族を支える責任をどのように感じているのか」

「Aにとって望ましい働き方とは何か」

 

を整理することでした。

 

オブザーバーとしての受検者は、

BがAの本質的な葛藤を十分に扱わず、

予算管理の苦手意識という表面的なテーマに

焦点化してしまったことを観察します。

 

2 コンダクターとしての受検者の機能

 

コンダクターとしての受検者は、

観察した内容をもとに、事例相談者Bの学びを進めます。

 

コンダクターとは、単なる司会者ではありません。

 

事例指導の場で、

Bが自分の実践を振り返り、

相談者Aへの理解を深め、

次回の支援に結びつけられるように進行する人です。

 

第13回の事例であれば、

コンダクターとしての受検者は、

次のように事例指導を展開します。

 

まずBの相談したいことを受け止めます

 

Bは、Aの翌月の予約がキャンセルになったことを

気にしています。

 

Bは、

 

温かい雰囲気で話を聴いたつもりだった。

 

しかし、

予算管理について次回詳しく見ていこうとしたことが

負担だったのかもしれない。

 

自分の対応に何か問題があったのではないか。

 

と相談しています。

 

コンダクターとしての受検者は、

最初からBを評価したり否定したりするのではなく、

まずBの不安や問題意識を受け止めます。

 

たとえば、

 

「Aさんの予約キャンセルを受けて、ご自身の関わりを振り返りたいと思われたのですね」

 

「Aさんにとって負担になったのではないかと気になっているのですね」

 

と応答します。

 

ここでBとの関係構築を行うことが、

事例指導の出発点になります。

 

次にAの問題をBと一緒に整理します

 

コンダクターとしての受検者は、

Bにいきなり

「あなたの対応はここが問題です」

と伝えるのではありません。

 

まず、B自身がAの問題をどのように捉えていたのかを

確認します。

 

たとえば、次のように問いかけます。

 

「Bさんは、Aさんが一番困っていたことを何だと捉えていましたか」

 

「Aさんが『責任を担うのは荷が重い』と話したとき、どのような気持ちが表れていたと思いますか」

 

「Aさんが『管理職にならないと収入が増えないから悩ましい』と力のない声で話した場面を、Bさんはどのように受け止めましたか」

 

このように問いかけることで、

BがAの訴えを「予算管理の苦手意識」としてだけ

捉えていたのか、

それとも管理職、収入、家族、将来の働き方を含む葛藤として

捉えていたのかを確認します。

 

ここで重要なのは、

受検者が正解を教えるのではなく、

B自身がA理解の不足に気づけるように進行することです。

 

Bの価値観や経験の影響を振り返らせます

 

第13回のBには、

シニア社員として事業部長まで務めた経験があります。

 

そのため、B自身の中に

「管理職は予算管理を通るもの」

「苦手でも何とかなるもの」

という価値観があります。

 

この経験自体が悪いわけではありません。

 

しかし、

その経験がAの不安や葛藤を

十分に受け止める前に出てしまうと、

Aの問題を一般化したり、

軽く扱ったりすることにつながります。

 

コンダクターとしての受検者は、

Bに次のように振り返りを促します。

 

「『今いる管理職たちは全員通ってきている道ですよね』と伝えたとき、Aさんにはどのように届いたと思いますか」

 

「Bさんご自身の管理職経験が、Aさんの問題理解にどのように影響していたと思いますか」

 

「Aさんの不安を軽くする意図はあったと思いますが、Aさんの葛藤を十分に扱うという点ではどうだったでしょうか」

 

このように進めることで、

Bは自分の経験や価値観が、

相談者理解に影響していたことに気づきやすくなります。

 

Bの対応上の優先課題を共有します

 

第13回の事例で、

Bへの指導において優先すべき課題は、

Aの訴えを予算管理の苦手意識に狭めず、

Aの不安や葛藤を受容・共感的に理解することです。

 

つまり、Bの問題は、

予算管理の詳細分析を

次回課題にしたことそのものではありません。

 

より本質的には、Aが語っていた、

 

責任を担うことの重さ

管理職になった後も予算に関わり続ける不安

家族を支える収入面の責任

スペシャリストとして働きたい思い

転職も考えなければならないかもしれない迷い

 

を十分に受け止めないまま、

予算管理の苦手意識の解消に進めたことです。

 

コンダクターとしての受検者は、この課題をBと共有します。

 

たとえば、

 

「BさんはAさんの負担を軽くしたい思いから、予算管理を具体的に扱おうとされたのだと思います。ただ、Aさんは予算管理そのものだけでなく、管理職になること、家族を支えること、今後の働き方について葛藤していたようにも見えます。次回は、まずその不安や葛藤を丁寧に受け止めることが必要ではないでしょうか」

 

というように、Bの意図を尊重しながら、

対応上の課題を明確にします。

 

次回のA支援に向けて具体化します

 

コンダクターとしての受検者は、

Bに気づかせるだけで終わってはいけません。

 

Bが次回Aにどう関わるかまで具体化する必要があります。

 

たとえば、Bに次のような支援方針を考えてもらいます。

 

「次回Aさんが来談した場合、まずどの言葉を受け止め直しますか」

 

「Aさんの不安を確認するとしたら、どのように問いかけますか」

「予算管理の苦手意識を扱う前に、Aさんのキャリア上の葛藤をどのように整理しますか」

 

「課長や人材開発部門との連携が必要になるとしたら、どのような働きかけが考えられますか」

 

そして、Bが次回行う支援としては、次のような方向が考えられます。

 

Aの不安や葛藤を改めて受け止めること。

 

管理職になることへの意味づけを整理すること。

 

スペシャリストとして働く選択肢も含めて、

Aの価値観や希望を確認すること。

 

予算管理については、

苦手意識の背景や過去の経験を丁寧に扱うこと。

 

必要に応じて、

課長との役割調整、

管理職育成支援、

人材開発部門との連携を検討すること。

 

このように、

コンダクターとしての受検者は、

Bの内省をAへの次の支援行動につなげます。

 

3 第13回論述問題におけるオブザーバー機能とコンダクター機能の対応

 

第13回の論述問題で見ると、

オブザーバー機能とコンダクター機能は、

各設問に次のように対応します。

 

問1から問3は、主にAを観察するオブザーバー機能です

 

問1では、

相談者Aが訴えた問題を把握します。

 

これは、Aの発言や感情、葛藤を観察する力です。

 

問2では、

Aが問題解決のために取り組むべきことを見立てます。

 

これは、Aの自己理解、仕事理解、意思決定、課題整理に必要な支援を考える力です。

 

問3では、

Aを支援するために必要なネットワークや環境への働きかけを考えます。

 

これは、A個人の努力だけでなく、

課長、人材開発部門、管理職育成制度、職場環境などを含めて

支援を構想する力です。

 

つまり問1から問3では、

受検者はオブザーバーとして、

Aの問題とAを取り巻く環境を丁寧に観察します。

 

問4は、Bの対応を観察するオブザーバー機能です

 

問4では、事例相談者Bの対応の問題を記述します。

 

ここでは、

BがAの不安や葛藤を十分に受け止めていたか、

B自身の経験や価値観で一般化していなかったか、

Aの問題を予算管理の苦手意識に狭めていなかったか

を観察します。

 

したがって問4は、

Bの実践を観察するオブザーバー機能が問われています。

 

問5は、Bを指導するコンダクター機能です

 

問5では、

問4で挙げたBの問題の中から優先するものを取り上げ、

具体的な指導方法を記述します。

 

ここでは、

受検者がBに何を気づかせ、

どのように振り返らせ、

次回Aにどう関わるよう導くかが問われています。

 

つまり問5は、まさにコンダクター機能です。

 

受検者は、Bを責めるのではなく、

Bの意図を受け止めながら、

A理解の不足や関わり方の偏りに気づかせ、

A支援の改善につなげていく必要があります。

 

第13回の事例における受検者のオブザーバー機能とは、

相談者Aの問題を正確に観察し、

さらに事例相談者BがAをどのように理解し、

どのように関わったのかを事例に基づいて見立てる機能です。

 

一方、コンダクター機能とは、

その観察をもとに、

事例相談者Bが自分の実践を振り返り、

Aへの理解を深め、

次回の支援をより適切に行えるように導く機能です。

 

第13回の事例でいえば、

受検者はオブザーバーとして、

Aの問題を「予算管理が苦手」という表面的な訴えにとどめず、

管理職登用、収入、家族責任、スペシャリスト志向の間で揺れるキャリア上の葛藤として捉える必要があります。

 

そしてコンダクターとして、

Bがその葛藤を十分に受け止めないまま、

自分の経験や管理職としての価値観で一般化し、

予算管理の苦手意識の解消へ進めていたことに

気づけるよう支援します。

 

つまり、1級実技試験における受検者は、

Aを直接支援する人ではなく、

Aを支援するBの実践を観察し、

Bの成長を通してA支援の質を高める人です。

 

この視座を持つことが、

オブザーバーとしてもコンダクターとしても、

1級の事例指導者に求められる重要な機能です。