「ねぇ……、キスして。」


ふたりだけの部屋。

たしかに君はそう呟いた。

目の前で どんどん頬を紅潮させていく顔に

理性というものはぶっ飛んで、唇を合わせた。


「ちゅっ……んっ、ぁっ、……え?」

「……ごめん。」



優しく肩を押すと 涙目になった君が首を傾げた。



「……なんで?」

「…ごめん。」


君が わたしじゃない誰かを好きなことも知ってる。

私は 利用されてるんだよ。

目を閉じた 君の目裏には君の好きな人が浮かんでるの?

わたしは 君が好きなんだよ。

お願いだからさ、わたしを苦しめないで。


「……私っ……愛佳にしてほしい…」

「嘘つかないでよ……お願いだからさ……」


今にも零れそうなくらい溜まってしまった涙が

ユラユラゆれている。

私の心もユラユラゆれている。


「ねぇ……理佐?わたし、理佐が好きなんだ。」

「え?……ほんとうに?」

「冗談でこんなこと言うと思う?

いつも、ふざけてるわたしだけど、そんな嘘つかないよっ……っ。」


自分で言ってたら、虚しくなって

視界が歪む。耳もあつい。頬もあつい。

泣いてるってバレたくなくて、

視線を落とすと、わたしの手も理佐の手も震えている。


「ごめん……私、知らなくて…。」

「っ、謝らないで…。」


気づいたら好きになってたんだもん、

しょうがないじゃん。

誰だって好きになっちゃうよ。

完璧という名が相応しい君は、

わたしとは違う。


わたしとは違うから、







「理佐。わたしたち 友達に戻れるかなぁ…」


自分でも情けない声を出した気がする。

震えてて、声がこもっている。


「ごめんね。」


顔を見せずに 立ち上がって、

理佐に背を向けた。


頼りすぎて、ごめんね。

いつも 笑って、ごめんね。

私に付き合わせて、ごめんね。

ノート取らせちゃって、ごめんね。

勝手に嫉妬して怒ったりして、ごめんね。

それにさ……好きになっちゃって、ごめんね。



たくさんの意味を込めた、ごめんね。



すきなひとと、しあわせになってね。

理佐はわたしのすきなひと。

いや、わたしのともだち。




さよなら、わたしのすきなひと。