〈未来に繋ぐ想い〉
まわりから天才だと称される俺は、他人より記憶力がいい。
もちろん、それは勉強だけに限られたことではない。
覚える気がなくともたいていのものは一度見れば覚えるし、忘れないから問われればいつだって答えられる。
それでもハニに出逢うまでの俺は、他人にも物事に対しても執着が薄く、自分に必要な知識や思い出だけを記憶し、必要ないと思えば容赦なく記憶から削除していた。
だが、そんな俺にも消したくても消せない記憶が二つある。
一つは知らずに女装させられてた幼い自分。
不可抗力なんて言葉は、幼い子供には通じない。
それまで好意を寄せていた奴らが皆、一瞬にして手のひらを返し異様だと騒ぎ立てた。
俺は現実の厳しさと、人間関係とはいかに薄弱なものか、5歳にして理解させられた
異様さに気付かず、おだてられていい気になっていた自分にも腹が立つ
あんな過去を経験させられたせいで、こんなひねくれた人間になってしまった。
もう一つは、
幼稚な心で奪ってしまったハニの初kiss。
ハニからすれば大切な初kissを、あんな形で奪ってしまった事実は、今も俺の心にしこりを残してる。
ハニへの思いが深まるほど、後悔も深まり、
不可能だとはわかっているが、出来ることなら、あいつの記憶を塗り替えてやりたいと何度思ったかしれない。
そんな俺の願いが届いたのか、そのチャンスは、ある日突然やってきた。
{2ヶ月前}
『国家試験に受かったら、デートしてして欲しいの!丸1日、あたしのプラン通りに!』
国家試験まであと1ヶ月。
目標があれば頑張れるからとハニが持ちかけてきた «お願い»。
勉強が苦手なお前がずっと頑張る姿を見てきたから、どんな願いでも叶えてやろうと思っていたが、
お前の一生をかけた試験に合格するための目標が、そんなことでいいのか?
ほかにもっとねだるものがあるだろうに、お前の願いはいまだに俺とのデートなんて。
俺は、お前と過ごす時間を大切に出来ていなかったのか?
寂しい思いをさせていたのか?
お前への愛を十分伝えられていなかったのかと申し訳なく思う反面、今も変わらずお前にとっては俺と過ごす時間が一番であることが嬉しかった。
『受かったらな』
なんてそっけなく答えたものの、心の底では必ず受かるように祈っていた。おまえの努力が実るように、おまえと堂々と《デート》するために
{1ヶ月前 }
試験当日、帰ってきたお前は平静を装っていたが、声に元気がなく、今にも消えてしまいそうだった。
だから、てっきりだめだと思っていた。
なのに、
{合格発表の日}
『スンジョくん!合格したよ!あたし、看護師になれたの!あなたと一緒に働けるの♡!』
俺が帰るのを待てなかったのか、仕事を終え、病院をでるとハニが抱きついてきた。
勤務先に突然現れたことにも、
お前が一度で受かったことにも驚いたが、
この寒空の下、いったいどれだけ俺を待っていたのかと思うと、自分の体を大切にしないお前に腹が立った。
だが、そんなバカなお前が愛おしくて、冷えた体を抱きしめてやりたい衝動にかられた。
だが、ここは職場。さっきから通り過ぎる人達の視線がイタい。
お前を引き剥がしたものの、やっぱりお前の合格が俺も嬉しかった。
頑張ったお前を誉めてやりたくて、頭を軽く撫でてやった。
思いもしなかった俺の反応に、ハニは一層喜び、俺の腕に巻き付き、
『次の休みはデートしようね♡』
と嬉しそうに笑った。
ー休日ー
恋人同士のように待ち合わせがしたいと言ったハニ
よほど楽しみだったのか、いつもはどんなに目覚ましが鳴り響いても起きないお前が、俺が目を覚ました時にはもういなかった。
起き上がり、出掛ける支度をしていると、携帯に一通のメールが届いていた。ハニからのメール。
その中には待ち合わせ場所の住所と車でなくタクシーで来て欲しいと書かれていた。
家を出た俺は、タクシーをつかまえて、住所を告げる。
着いた場所は昔、ハニの大学合格記念にミュージカルを見た会場だった。
すでに到着していたハニは、あの日と同じ、赤いコートを着ていた。
「へへっ♡まだ似合うかな?」
そう言うお前は、あの頃とちっとも変わらない。
まるであの日に戻ったようだ。
ミュージカルを見終わると、
公園へ向かった。
ボートに乗るのかと思いきや、見てるだけでいいと言う。理由を聞いたら、
「カップルで乗ると別れちゃうんでしょ?」
と不満を漏らした。
もう結婚してるのに、いまだにジンクスを気にしてる、バカなハニ。
そんなお前が可愛くて仕方なかった。
「もう結婚してるだろ?」
そう教えると、
「あ!そうか。」
だって。…気付いてなかったのかよ
「…でもやっぱり乗らない。」
じゃあ、次来るときは、3人だな
2人でボートを眺めて、
レストランへ。
俺が選んだワインを飲んで、懐かしい思い出を語りながら楽しい時間を過ごした。
零時を過ぎ、酔っ払ったハニを連れて、帰ろうと店を出たが、ハニが俺を引き止めた。
「どうしても行きたい場所があるの。」
時間も時間だし、酔ってるお前を早く家に連れて帰りたかったが、仕方ない。今日はお前のプラン通りにする約束だからな。
タクシーをつかまえ、乗り込むと、運転手に行き先の書かれたメモを渡すハニ。
今日のデートは俺たちの思い出の場所をまわるものだった。今日回った場所以外で、ハニにとってどうしても行きたい場所とはどこなのか、俺は酔ったハニを介抱しながら、俺達が出逢ってからの記憶を思い返していた。
to be continue…