多くの企業で昇進試験として採用されるインバスケット試験ですが、「どう対策すればよいかわからない」「過去に失敗したことがある」と悩む人は少なくありません。インバスケットは明確な正解が存在しない試験のため、「一体どう書けばいいのか分からない」と感じる受験者も多いのです。漠然と自分はインバスケットが苦手だと感じていても、その原因は人それぞれ異なります。インバスケットの“壁”を乗り越えるには、自分がなぜ上手く解けないのか、その苦手の本質を具体的に把握することが第一歩です。本章では、インバスケットを苦手とする主な理由を解説します。
 

インバスケットの壁を超える! 苦手克服から昇進試験合格まで完全ガイド : 独学でもできる攻略3ステップと実践事例集

1. 自分が「出来ていない」ことに気づいていない

日頃の業務ではそれなりに仕事をこなせている人でも、いざ昇格試験のインバスケットに挑むと何度も不合格になってしまうケースが多々あります。インバスケット試験には一問一答のような唯一の正解がないため、自分の回答がどの程度評価できるものか客観的に把握する機会が乏しいことが一因です。自己採点が難しく、「この書き方で合っているのか?」と不安になりがちな試験なのです。
 

さらに、人によっては自身のプライドや経験への自負が邪魔をして、自分の弱点を認められないこともあります。「インバスケットができない最大の理由は単純に経験不足だ」が、多くの受験者はその原因に気づいていないと指摘されています。実際、能力が十分でない人ほど自分の能力を正しく認識できず過大評価してしまう心理傾向(ダニング=クルーガー効果)も知られています。こうした認知バイアスにより、「自分はできているはずだ」と思い込んでしまい、改善点に目を向けられなくなるのです。
 

まずは自分の現状を客観的に把握することが重要です。そこが正しくできていないと、対策を講じようにも的外れになってしまいます。本書ではいくつかの演習問題について、「望ましい回答」だけでなく「NG回答」の例も示します。自分の回答がどちらに近いのかを冷静に見極め、足りていない点に気づくことから始めましょう。

 

2. 求められる役割が理解できていない

組織において管理者(例:係長・課長)には果たすべき役割が存在し、インバスケット試験は昇格候補者がその役割を担う実践力を備えているかどうかを測るツールとして位置付けられています。インバスケットでは管理職として欠かせないスキル、たとえば優先順位付けや問題解決力、意思決定力、リーダーシップなどが求められ、短時間で的確な判断ができるかが評価されます。自分なりに「これが正しい」と思う対応策を答えても、それが期待される役割から見て適切でなければ合格できません。言い換えれば、インバスケットには模範回答が一字一句決まっているわけではなく、その問題で想定される能力を発揮できているかが採点のポイントになるのです。

 

では具体的にどんな能力が求められるのでしょうか。一般的なインバスケットでは、評価される主な能力として「問題発見力」「問題分析力」「創造力」「意思決定力」「洞察力」「計画組織力」「当事者意識」「ヒューマンスキル(対人能力)」「生産性」「優先順位設定力」の10項目が挙げられています。これらを整理すると、管理者に求められる能力は大きく次の3系統に分けられます。

  • 課題解決・意思決定系
  • 計画・管理・実行系
  • 対人関係・リーダーシップ系

インバスケット試験では、状況に応じてこれら全てをバランス良く発揮できることが理想となります。
 

こうした能力が問われる試験である以上、各能力を適切に発揮した回答を書くことが合格には必要です。たとえば「この問題は意思決定力とヒューマンスキルが発揮できているかを見る問題だ」と把握できれば、その両方の観点を盛り込んだ回答を書くことで得点につながります。極端な話、最終的な判断結果が多少的外れでも、正しいプロセスで考え論理的に記述されていれば得点できるのがインバスケット試験です。逆にどんなに結果自体がもっともらしく正しく見えても、そこに至る過程で発揮すべき能力や思考プロセスが示されていなければ高く評価されません。期待される役割を十分に理解し、その役割にふさわしい考え方・判断・指示ができているかどうかが合否を分けるのです。
 

3. 必要な能力の高め方が分からない

自分の現状では力不足であり、昇進後に求められる能力も何となくは分かっている——その段階まで来たら、あとは不足している能力を一つひとつ高め、それらを総合的に発揮できる状態にしていくことが課題です。しかし、インバスケットは暗記で乗り切れる試験ではありません。日頃の考え方のクセや行動パターンがそのまま表れる試験です。実際、インバスケットのグループ討議などでは参加者の普段の口癖や伝え方、行動のクセが如実に表れ、日常業務での人との関わり方まで見えてしまうといいます。つまりインバスケットで適切な回答を書くためには、普段から意識してその役割にふさわしい言動ができている状態になっておく必要があるのです。
 

ではどうすればその状態に到達できるのでしょうか。本書では理論を学び演習問題でトレーニングを積む方法を解説していますが、それと並行して実際の職場で日々の業務に当たる際にも常に「自分が管理者として期待される役割は何か?」「この状況で適切な対応は何だろうか?」と自問自答しながら実践してみることが有効です。最初は難しく感じ戸惑うかもしれませんが、継続的に繰り返し練習していくうちに、あるとき急にそれまでできなかったことができるようになる——誰しも自転車に乗れるようになったときのような学習のブレイクスルーを経験したことがあるでしょう。人間には繰り返しの練習で突然できるようになる能力があります。そして一度その壁を越えてしまえば、かつてできなかったことが不思議なくらい、自然に当たり前にできる状態へと移行します。


日常業務においてその境地に達してしまえば、以前は難解に感じたり時間不足に陥っていたインバスケット問題にも余裕を持って対処できるようになります。むしろ、「なぜもっと早くこのやり方に気づかなかったのだろう?」と思うほど短時間で的確な回答を書けるようになるのです。

 

4. まとめ

ここでは、インバスケットが上手く解けない「苦手意識」の原因について考察しました。ポイントは以下の3つです。

①自分の現状を正しく把握すること – 思い込みやプライドを排し、自身の強み・弱みを客観的に見つめる

②目指す状態(期待される役割)を理解すること – 管理者として求められる能力や視点を把握し、評価基準を知る

③そこへ到達するための行動を把握すること – 理論学習と日々の実践を通じて不足スキルを補い、習慣化する

今の自分と理想との間にあるギャップを認識し、埋めるための具体的な対策に取り組むことが大切です。以上を踏まえ、次章以降ではステップバイステップでこの壁を乗り越えるための実践的なトレーニング方法を紹介していきましょう。自分を変える第一歩を踏み出し、苦手だったインバスケットを「得意科目」へと変えていくのです。成功への道筋は必ず開けます。一緒に頑張っていきましょう!

 

 

インバスケットの壁を超える! 苦手克服から昇進試験合格まで完全ガイド : 独学でもできる攻略3ステップと実践事例集