AIと自動化の浸透は、企業の人員構成や雇用戦略にも直接影響を及ぼしています。特に2023年から2024年にかけて、米国の巨大テック企業(いわゆるGAFAM:Google、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、Microsoft)を中心に、大規模なレイオフ(人員削減)が相次ぎました。その背景には新型コロナ後の経済環境の変化もありますが、各社の発表や報道を見るとAI技術への注力と組織再編が一つのキーワードになっています。

 

例えばGoogleでは、2024年初頭に2度にわたるレイオフを実施し、広告部門などの社員を削減しました。公式にはAIによる代替とは明言されなかったものの、同時期にGoogleはカスタマーサポートや広告営業プロセスへのAI導入を加速しており、社内でも「業務の効率化」が強調されていました。これは結果的に、AIシステムが人間の業務を肩代わりする形での人員削減と見る向きもあります。 

 

他にもAIの導入によって直接職を失ったケースも世界各地で報告されています。インドのスタートアップ「Dukaan」では、2023年7月にカスタマーサポート担当の90%を自社開発のAIチャットボットで置き換え、コストを85%削減したとCEOが公言しました。スウェーデンの大手家具メーカーIKEAも、2023年にコールセンター業務を段階的にAIチャットボット(「Billie」)に移行すると発表し、電話応対スタッフの役割を縮小しています。中国の大手マーケティング企業「藍色光标(BlueFocus)」は、2023年4月に人間のコンテンツライターやデザイナーとの契約を打ち切り、生成AIによるクリエイティブ制作に全面的に切り替える決断をしました。同社はちょうどマイクロソフトのAzure OpenAIサービスのライセンスを取得し、中国版ChatGPTとも言える百度のERNIE Botとの提携を結んだ直後であり、人間をAIに代替する動きが現実化した例です。

 

米Salesforce社も2024年に全従業員の約1%にあたる700人を解雇しました。同社は前年にも10%の削減を行っていますが、報道によれば削減の直接的理由は公表されなかったものの、AIへの投資を優先するため採用予算を絞っていると指摘されています。オンライン語学学習サービスのDuolingoでは、2024年1月に契約スタッフの1割を終了(実質的な削減)し、その理由の一つとして「コンテンツ翻訳にAIを活用するため」と説明しました。実際、Duolingoは言語翻訳や解説生成に生成AIを組み込みつつあり、人手で行っていた業務の一部をAIに任せ始めています。さらに興味深い例として、文章盗用検知サービスで知られる「Turnitin」は、自社がまさにAIと関わるビジネスにもかかわらず、AIの効率向上によって将来的に最大20%の人員削減が可能とのビジョンを示しました。2023年末時点で15名の削減が実施されましたが、CEOは「18か月以内にさらに大きなリストラが起こりうる」と述べています。

 

一方で、AIを導入したがために一時的に失敗し、人員を戻したケースもあるようです。例えば米国のメディア企業BuzzFeedは、2023年初頭に記事生成へのAI活用計画を発表し一時株価が急騰しましたが、その後ニュース部門を閉鎖し約15%の人員削減を行いました。CEOのジョナ・ペレッティ氏は従業員宛てメモで「セールスのあらゆる側面にAI強化を導入する」と述べつつ組織のスリム化を図りました。しかし、コンテンツの品質や信頼性の維持には人間の力も不可欠であることが分かり、現在ではAIと人間ライターのハイブリッド戦略に舵を切っています。Dropbox社でも、AI製品の拡充に注力するために2023年4月に16%の人員削減(500人)を実施しました。このように多くの企業が「AI時代に生き残るための組織再編」を進めています。

 

 

 

これらの動きから浮かび上がるのは、企業規模を問わずAIによる自動化が現実に雇用へ影響を与えているという事実です。単純作業や定型応対はAIが代替し、人間にはより高度な業務を担当させるという形で、人員を削減しつつ生産性を維持・向上させる取り組みが広がっています。その一方で、AI開発やデータ分析など新たな分野に人材を再配置・採用する動きも顕著です。つまり「AIによって仕事が奪われる」だけでなく「AIを扱う仕事が増える」側面もあり、雇用のミスマッチ(不要になる職種と必要とされる職種のギャップ)が今後さらに問題となるでしょう。

 

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