1. 製造業の危機的状況(2025年5月時点)
近年、日本の主要製造業では業績低迷に伴う大規模な人員削減や構造改革の動きが相次いでいます。特に2024年度から2025年初頭にかけて、以下のような事例が顕在化しました。
日産自動車:中国市場での販売不振やEV転換の遅れなどから収益が急激に悪化し、2024年度には巨額の最終赤字に転落しました。その結果、2024年末に約9,000人の人員削減を発表したのに続き、2025年5月には追加で1万人超の削減方針を打ち出し、合計で約2万人の大規模リストラに踏み切る事態となりました。グローバル生産の約20%削減も計画されるなど、抜本的な再建策が進められています。
パナソニックホールディングス:2025年3月期は増収・黒字を維持したものの、将来を見据えて早期の構造改革に着手しました。全従業員の約5%に相当する1万人規模の希望退職募集を発表し、固定費の大幅圧縮に乗り出しています。過去にも赤字期に大規模リストラを行っていますが、黒字決算下での人員削減は異例であり、「今メスを入れないと持続成長できない」と社長自ら高コスト体質への危機感を示しています。特に収益性の低い家電部門(調理家電やテレビ事業など)の縮小・撤退を含め、事業ポートフォリオの見直しが進められています。
ローム:半導体市況の悪化やEV向け需要の伸び悩みなどの影響で、京都に本拠を置くロームは2025年3月期に売上高4,484億円(前年比▲4.1%)まで減少し、営業損益は前期の黒字433億円から一転して400億円の赤字、純損益も539億円の黒字から500億円の赤字へと急落しました。最終赤字は2013年以来で過去2番目の規模という「これ以上ないほど悪い結果」と評される厳しい決算となり、経営陣は「痛みを伴う改革も必要」として収益改善策を検討しています。新社長の下でパワー半導体分野への大胆な投資と収益構造改革を同時に進め、2026年3月期には黒字回復を目指す方針です。
ワコールホールディングス:国内外の下着市場低迷や消費者ニーズの変化に直面し、2025年3月期は売上収益1,738億円(前年比▲7.1%)と減収となりました。前期に86億円の最終赤字へ陥っていた同社は、不採算事業からの撤退や店舗閉鎖を進める一方、“聖域なき資産売却”にも踏み切り、浅草橋ビルや旧工場跡地の売却益を計上しました。その結果、営業利益は33億円の黒字(前期は95億円の赤字)へとV字回復し、最終損益も69億円の黒字に転換しています。Eコマース強化やブランド再構築(主力ブランドのリブランディング)など、事業改革も並行して実施しつつ、徹底した効率化で収益改善を図っています。
ルネサスエレクトロニクス:コロナ禍以降の半導体特需が一巡し需給が緩和する中、2024年後半から受注が減少傾向となりました。同社は黒字を維持しているものの先行きに備えてコスト削減を進め、国内外で全従業員の約5%(1,000~1,500人規模)の人員削減と定期昇給凍結を決定しました。2024年末までに実施されたこの施策は、人件費を抑えて半導体不況に耐える狙いであり、新工場(山梨県甲斐市の甲府工場)の稼働延期など投資計画の見直しも行われています。ルネサスは2010年の発足以来繰り返しリストラを実施してきた経緯があり、今回も過去の大型買収による財務負担や国内工場の稼働率低下に対応するため、早期に固定費圧縮へ踏み切った形です。
2. 業績悪化に共通する構造的・市場的要因
上記のように業績不振に陥った企業には業種ごとの個別要因もありますが、共通して指摘できる構造的・市場的な課題が存在します。
グローバル市場環境の変化と需要減退:自動車や半導体、アパレルといった幅広い分野で、中国・米国を中心とする主要市場の景気減速や需要構造の変化が業績悪化の直接要因となりました。日産は中国市場の失速で販売台数が大きく落ち込み、ロームも中国や欧州でのEV関連需要の想定未達が収益悪化を招きました。ワコールも米国市場の急冷が響くなど、グローバル需要減退が各社の減収要因となっています。
技術革新への対応遅れ・競争激化:電気自動車(EV)、デジタル家電、半導体高度化など各業界で技術革新が進む中、日本企業は新潮流への適応の遅れから競争力低下に直面しています。日産はEVシフトで欧米中の競合に出遅れ、旧来の内燃車依存のビジネスモデルからの転換に苦戦しました。パナソニックはテレビ等のAV機器や白物家電で新興国メーカーとの価格競争が激化し、収益を圧迫されています。ロームやルネサスも半導体分野で海外メガサプライヤーとの競争や技術投資競争に晒され、付加価値向上と開発スピードの面で課題を抱えています。
高コスト構造と低い収益性:日本の製造業は従来から「終身雇用」や国内生産維持といった方針の下で人員や設備を抱える傾向が強く、固定費負担が重い企業が多いとされています。パナソニックが危機感を示したように、同業他社に比べて人件費・間接費が過大な体質は、需要減に際して利益を圧迫する大きな要因です。日産やルネサスが黒字転換前から先手のリストラに踏み切ったのも、高コスト構造を是正して経営の持続性を確保する狙いがあります。また、国内市場の人口減少や成熟によって国内販売だけでは規模の経済を維持しにくくなっており、余剰リソースが収益を蝕む構図も背景にあります。
事業ポートフォリオの硬直化:主力事業に依存したまま市場変化に対応できず、新規事業育成や事業の入れ替えが遅れたことも共通の課題です。パナソニックは長年の主力だった家電事業の低迷に対し、エナジー(電池)や車載事業へのシフトを進めつつも収益改善が追いつかず、不採算事業の整理を余儀なくされました。日産も特定地域(中国)への依存や販売金融への過度な頼みから脱却し、「稼ぐ力」の再構築が急務となりました。事業の新陳代謝が停滞すると外部環境の逆風に弱く、結果として業績悪化時の急激なリストラに追い込まれるリスクが高まります。
以上のような要因が重なり、多くの製造業企業が収益低迷と構造改革に直面しています。従来型のモノづくり中心の戦略では限界が見え始め、デジタル技術の活用やビジネスモデル変革によって新たな価値を創出する必要性が共有された課題となっています。
製造業2040 -変化の渦中で進むべき日本の針路-
3. 日立製作所「Lumada」の概要と提供価値
こうした中、日立製作所は他社に先駆けてデジタルトランスフォーメーション(DX)を支える独自プラットフォーム「Lumada」を2016年に立ち上げ、グループの成長戦略の中核に据えています。
Lumadaとは “Illuminate(照らす、解明する)” と “Data” を組み合わせた造語であり、その名の通り**「データに光を当てて新たな知見を導き出し、顧客の課題解決に活かす」ことをコンセプトとした先進的デジタルソリューション群の総称です。単に自社製品を販売するのではなく、あらゆる産業分野で顧客の持つデータを活用して価値を共創すること**を目指す点に特徴があります。
幅広い領域のDXソリューション:Lumadaは特定の製品やサービスを指すのではなく、日立グループ全体の技術・ノウハウを横串で束ねた包括的なDXプラットフォームです。製造業、エネルギー、交通、都市インフラ、ヘルスケア等あらゆる領域に適用可能なソリューション群であり、顧客の業種ごとの課題に応じてIoT、AI、ビッグデータ解析など先端技術を組み合わせたサービスを提供します。
例えば、鉄道分野ではLumadaを活用した海外でのチケットレス乗車システムの導入事例があり、社会インフラ分野では水道管の漏水検知システムにより老朽化設備の維持管理を高度化するといった成果を上げています。製造業の現場では、熟練作業者の動作データをAI解析して品質管理に活かす仕組みや、工場設備の予知保全ソリューションなどもLumadaの代表的事例です。これらのケースで共通するのは、センサーやITシステムから集まる膨大なデータを解析し、従来は人の勘や経験に頼っていた問題を科学的・自動的に解決へ導いている点です。
協創(共創)アプローチ:日立はLumadaを通じて顧客やパートナーとの「協創」を重視しています。2018年には東京・丸の内に共創拠点「Lumada Innovation Hub」を開設し、顧客企業と日立のデータサイエンティストやエンジニアが一体となって課題解決に取り組む場を提供しています。デザイン思考やアジャイル開発手法を取り入れ、短期間でプロトタイプを検証しながら新サービスを創出する取り組みが行われています。このように組織の壁を超えて知見を持ち寄ることで、顧客固有の課題に即したソリューションをスピーディーに生み出せる点がLumadaの強みです。
グローバル展開と実績:Lumada事業は日立の成長ドライバーとして海外展開も積極化しています。北米・欧州を中心に鉄道・エネルギー分野のプロジェクトや、IoTプラットフォームの提供などで実績を重ねており、2021年には米国のデジタル企業GlobalLogic社を約1兆円で買収してLumadaの開発体制を強化しました。
日立は2022~2024年度の中期経営計画で「Lumada事業の売上をほぼ倍増させる」目標を掲げ、アクセンチュアやシーメンスといった世界のDXプレイヤーに伍して450兆円規模といわれるDX市場で競争力を高める構えです。実際、Lumada関連事業の2024年度売上高は1兆円超と推定され、日立グループ全体の約10兆円の売上の柱の一つに成長しています。
以上のように、Lumadaは「データ利活用による社会課題解決」を旗印に、日立の幅広い事業領域と技術を融合したプラットフォームとして機能しています。これにより顧客企業は自社だけでは成し得ないDXを推進でき、日立にとっても単発のモノ売りに留まらない継続的なサービス収益を得るビジネスモデル転換が実現されています。
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4. 三菱電機「Serendie」の概要と提供価値
三菱電機もまた、デジタル基盤「Serendie(セレンディ)」を2024年5月に発表し、自社の経営ビジョンに据えました。Serendieとは「Serendipity(思いがけない発見・幸運)」と「Digital Engineering」を掛け合わせた名称で、**「多様なデータと偶然の出会いから新たな価値を共創するためのデジタル基盤」**と定義されています。
家庭から宇宙に至るまであらゆる領域で活用される同社の製品・システムからデータを集約し、それらを社内外の知見と組み合わせることで、事業横断型の新サービスを創出することを目指しています。
事業横断的なデータ活用と価値共創:三菱電機は重電(発電設備・鉄道システム)から家電、宇宙衛星まで幅広い製品ラインアップを持ちますが、Serendieはそれらの事業間の壁を越えてデータを融合し、新ビジネスを生み出すことを狙いとしています。
例えば、鉄道事業向けには車両・変電所・駅のエネルギーデータや運行データを一元分析して列車運行の省エネ最適化を支援するサービスを展開し始めています。従来は個別に最適化されていた運転計画や設備投資を、データ分析によって全体最適化し、鉄道会社のカーボンニュートラル実現に貢献する取り組みです。さらにこの鉄道分野で蓄積したデータを活用し、沿線地域のエネルギー管理や他産業への応用も検討されています。
加えて、ライフソリューション(家電・空調)領域では、家庭内外のセンサーデータや家電の稼働データをネットワーク経由で集め、ユーザーに新たな付加価値サービスを提供する試みがなされています。たとえばエアコンや家電をIoTで連携させ、快適性と省エネを両立する「コトづくり」(モノではなく体験価値の創出)を推進するといったシナリオです。
Serendieの名称が示す通り、異なる分野のデータや技術を組み合わせる中で予期せぬ相乗効果(セレンディピティ)を発見し、新サービス開発につなげることが大きなテーマとなっています。
コミュニティ型の開発と共創拠点:Serendieでは社内外の専門人材が集うコミュニティづくりが重視されています。データサイエンスやAI、ロボティクス等の多彩なスキルを持つ人材を社内外から結集し、プロジェクト毎にチーム編成してサービス開発を行う枠組みが用意されています。
また横浜市みなとみらいに開設した共創拠点「Serendie Street Yokohama」では、顧客や産学官のパートナーとスクラム開発やアイデア創発のワークショップを開催し、リアルな協創の場として活用しています。このようにオープンイノベーションの色彩が強いのもSerendieの特徴です。三菱電機単独で完結させるのではなく、自治体や大学、スタートアップ企業とも連携し、多様な知を取り込むことで新たなソリューション創出を加速させようとしています。
重点領域とソリューション例:Serendieが特に重点を置くのは、同社の経営目標でもある**「循環型デジタルエンジニアリング企業」**への変革と、サステナビリティ課題の解決です。具体的には、
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カーボンニュートラル(脱炭素)
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サーキュラーエコノミー(循環経済)
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安全・安心
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インクルージョン(社会包摂)
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ウェルビーイング
の5分野を経営の重点課題と定め、Serendieをこれらに資するサービス創出の基盤と位置付けています。
前述の鉄道の省エネや家電の省エネサービスはカーボンニュートラルに直結する例ですし、製造現場における労働安全向上や、防災・減災分野でのデータ活用も検討テーマに含まれています。さらに、工場やビル設備のライフサイクルデータを分析して長寿命化やリサイクルを促進するような循環経済型ソリューションの開発にもSerendieを活かす計画です。
要するに、三菱電機の幅広いプロダクトから得られるリアルデータと、社外の知見・技術を融合させて、持続可能な社会の実現に貢献する新ビジネスを次々と創出するプラットフォーム――これがSerendieの提供価値だといえます。
5. LumadaとSerendieの比較分析
日立のLumadaと三菱電機のSerendieはいずれも、自社の強みである幅広い事業領域と先端デジタル技術を掛け合わせて新たな価値を生み出すというビジョンにおいて共通しています。両社とも「協創(コラボレーション)」「データ活用」「サービス化」というキーワードを掲げ、従来の製造業の枠組みにとらわれない経営革新を図っています。
しかし、そのアプローチや重点分野には明確な違いも見られます。
先行度と事業成熟度の違い:Lumadaは日立が2010年代後半から推進してきた「Social Innovation事業」の延長線上にあり、既に数年の実績を持つ成熟ブランドです。国内外での導入事例も多く、特に鉄道・エネルギー・産業分野ではLumadaによる具体的な成果が可視化されています。一方、Serendieは2024年発表の新基盤であり、これから本格的な事例を創出していく段階にあります。三菱電機も「デジタル×エンジニアリング企業への変革」を掲げ、まずは社内のデジタル改革を進める段階にあります。
重点課題・テーマ設定の違い:Lumadaは「社会イノベーションによる課題解決」と広く謳っており、顧客企業ごとの経営課題(生産性向上、設備保全、都市インフラの効率化など)に応じた柔軟なソリューションを提供しています。一方、Serendieは初期からカーボンニュートラルや循環経済、ウェルビーイングなどサステナビリティ5分野を明確に定めており、環境・社会課題の解決に重きを置いた戦略的テーマ設計が特徴です。
組織文化・連携手法の違い:日立は近年、外部企業の積極的な買収(例:GlobalLogicやABBの送配電部門)によってデジタル人材・技術を獲得し、トップダウンの「ワン日立」体制で全社を横断する形でLumadaを推進しています。これに対し、三菱電機は事業部ごとの独立性が高く、Serendieではボトムアップ型の共創コミュニティによって社内外の連携を進めるスタイルを採用しています。オープンイノベーションを通じた組織横断的な連携が特徴です。
国際展開のスタンス:Lumadaは発足当初からグローバル市場への展開を強く意識しており、欧米やアジアでのプロジェクト実績や提携拡大が進んでいます。一方のSerendieは現在のところ国内でのモデル構築を優先しており、今後の海外展開はこれからという位置づけです。
以上のように、LumadaとSerendieは同じ「デジタル基盤」でありながら、その成熟度・組織アプローチ・重点領域・国際展開戦略において対照的な特徴を持ちます。ただし、両社が共通して志向しているのは、製造業がデジタル技術と協創によってサービス化し、持続可能なビジネスモデルに変革していくことであり、これは日本の製造業全体の方向性を象徴する潮流でもあります。
6. 製造業各社がデジタル基盤に注力する背景と戦略的意図
日立製作所や三菱電機がデジタル基盤(LumadaやSerendie)にこれほど注力する背景には、以下のような戦略的な意図があります。
1. モノ売りからコト売り・サービス収益への転換:従来の製造業では、製品を販売して終わるというビジネスモデルが主流でしたが、グローバル競争の激化と製品単価の下落により、安定した収益の確保が困難になっています。そのため、製品に付随するデータやサービスを活用して顧客の課題を継続的に解決する「コト売り」モデルへの移行が急務となっています。Lumadaはコンサルティングやデータ基盤の提供によって長期的な収益を確保し、Serendieもエネルギー管理や設備最適化など、サービスとしての機能提供にシフトしつつあります。
2. 自社事業のシナジー最大化:複数の事業領域を持つ総合電機メーカーにとって、縦割り構造の打破とデータの統合利用は大きな成長の源泉です。日立はOT(制御・運用技術)とIT(情報技術)の融合をLumadaで進めることで、例えば電力と都市インフラの連携によるスマートグリッド事業などを創出しています。三菱電機も、鉄道×エネルギー、家電×快適空間といった分野横断型の新価値創出をSerendieで狙っており、社内の分断を乗り越えるための基盤として活用しています。
3. 競争力の源泉の再定義:従来の「高品質なモノをつくる力」だけでは、GAFAをはじめとするデジタルプレイヤーや海外メーカーとの競争に勝てないという危機感が強まっています。そこで、デジタル基盤を活用して自社を「課題解決企業」へと進化させることが新たな競争軸となります。日立は「全社員がデータサイエンスを活かして課題を解決する文化」を浸透させ、三菱電機も「デジタルとサステナビリティの融合を果たすエンジニアリング企業」へと変革する構想を明示しています。
4. 社会課題解決と企業価値の両立:気候変動、少子高齢化、災害対応、地域格差など、社会が抱える課題に応える企業こそが、将来の持続可能な成長を実現するとされています。LumadaやSerendieはいずれも、脱炭素・安全・インクルージョンといった社会的テーマに根ざしたソリューションを多数展開しており、企業のESG対応やSDGs貢献としての意味合いも強まっています。これは投資家や行政との関係構築にも寄与する、多面的な戦略投資として位置づけられています。
このように、デジタル基盤への注力は単なるテクノロジー投資ではなく、事業構造改革・価値創出・社会的責任の統合戦略として、製造業にとって極めて本質的かつ長期的な転換点であるといえます。
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7. 業績悪化に直面する製造業への提言:デジタル×経営革新の推進
日本の製造業が直面する構造的課題に対して、日立製作所のLumadaや三菱電機のSerendieに見られるようなデジタル基盤戦略は多くの示唆を提供しています。業績悪化に苦しむ企業こそ、単なるコスト削減ではなく、戦略的な経営革新に踏み出す必要があります。以下に、今後の製造業各社が進むべき方向性を提言します。
1. デジタルトランスフォーメーション(DX)を経営の中核に据える DXはもはや情報システム部門の話ではなく、経営そのものの再設計に直結します。経営トップが明確なビジョンを示し、自社版LumadaやSerendieのような中核となるデジタル戦略を掲げ、組織横断的に推進することが重要です。製造プロセスのスマート化、製品のIoT化、サービス事業の内製化などを通じて、経営そのものを変革する覚悟が求められます。
2. 顧客起点での価値再構築 プロダクトアウトの発想から脱却し、顧客の置かれた環境・ニーズ・課題を起点に価値を定義する視点が不可欠です。LumadaやSerendieのように、「課題を可視化し、それに基づいて最適なソリューションを提供する」ビジネスモデルへの転換が必要です。単なるモノ売りではなく、体験・成果を提供することが新たな競争優位を生み出します。
3. 外部との連携によるオープンイノベーションの強化 自社だけですべてを賄おうとする発想から脱却し、スタートアップや大学、自治体、顧客企業との連携を積極的に活用すべきです。三菱電機のSerendieが示すように、多様な視点とスキルを融合させる場(共創拠点)を整備し、スピード感を持ってサービス開発を進める体制が鍵となります。
4. 組織文化・人材育成の変革 変革の最大の壁は組織文化です。現場から経営層に至るまで、データを起点に行動し、変化を受け入れ、提案し続ける風土を醸成する必要があります。人材の再教育・スキル再定義・評価制度の見直しを通じて、「デジタル×現場力」を融合できる人材を社内で育て上げることが不可欠です。
5. デジタル投資を単なるコストではなく未来への成長戦略として位置づける 短期的な利益確保のためにIT投資や研究開発費を削るような発想は、自らの競争力を削ぐ結果になりかねません。デジタル基盤への投資は、長期的な競争優位性・企業価値・社会的信頼の創出に直結します。経営者はこれを「守り」ではなく「攻めの投資」と再定義する必要があります。
以上のように、製造業各社は、構造改革とDXを一体化させた経営革新を進めることが不可欠です。日立や三菱電機の取り組みはあくまで一例であり、それぞれの企業が自社の強みと環境に応じた独自の変革ストーリーを描くことが求められます。変化を恐れず、未来を創るための投資と実行を重ねる企業だけが、次の成長の波に乗ることができるのです。
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