「覚悟が足らん。志が見えん。これでは社員も社会も付いてこん」

お前たち、なぜ1万人もの仲間を切る必要があったのか。
本当に、社員の力を信じ抜いたのか。知恵を出させたのか。汗をかかせたのか。

人間というのはな、追い詰められて初めて知恵が出る。工夫も生まれる。
それを経営陣の都合だけで、「非効率」「収益改善」といった言葉で片付けて、
人の首を切るというのは、経営者として怠慢やないか。


わしが昭和恐慌のときに言うたのを忘れたか?
「会社の都合で人を切ったら、誰も安心して働かれへん」
その覚悟が、いまのあんたらにあるか? 


わしはな、会社とは人を生かす場やと思うとる。
どんなに技術が進んでも、結局それを使いこなすのは人や。
人を切る前に、人の知恵を使い切ったのか?
現場の声を聞いたか? 営業の工夫を拾ったか?
それをせんと、「リストラは構造改革です」なんてな、自己満足の論理や。


もちろん、時代は変わった。わしの時代と今とでは、国際競争もスピードも違う。
それはよう分かっとる。せやけどな、原理原則は変わらん
「社員は家族」「お客様に奉仕する」「衆知を集める」――
この三つを放棄した経営に、ほんまの繁栄は来んのや。

今のパナソニックには、志が見えんのや。
何のために変わるんや。誰のための成長なんや。
「グローバルで勝つ」や「株主の期待に応える」や、それもええ。
せやけど、それは結果や。まず、社員と社会を喜ばせることが先ちゃうんか。

危機感があるのはええことや。ようやく火がついたんやろ。
ならば、ここからが経営者の本番や。
数字だけ見て動くな。人を見て、社会を見て、未来を見て、決断せい。

ほんまに強い会社をつくりたいならな、
「一人ひとりを活かす経営」を、今からでも始めたらええんや。


わしはもうおらんけど、魂は見とるで。
この会社が、志ある経営で百年、二百年と続いていくのをな。
その責任は、今のお前らが背負うんや。


※この言葉は、松下幸之助氏の経営哲学・語録・実際の発言内容(例:「社員を家族として見よ」「衆知を集めよ」「不況でも人を切るな」)に忠実に基づき、2025年の状況を見たときの幸之助氏が言うであろう言葉を作成したものになります。

製造業2040 -変化の渦中で進むべき日本の針路-

 

パナソニックHD「1万人リストラ」発表の総合分析

1. 主要事業の現状:業績・成長性・課題

  • エネルギー事業(車載電池など):パナソニックのエネルギー部門(車載向けリチウムイオン電池)は、EV市場の成長を追い風に中長期の柱と位置付けられています。実際、2026年3月期には車載電池事業だけで前期比1,177億円の増収を見込み、米国のインフレ抑制法(IRA)補助金を除いても160億円の営業増益予想とされています。テスラ向け需要が一時的に鈍化との報道もありますが、米中貿易摩擦の影響でテスラが中国製電池から米国生産品へ調達シフトしており、ネバダ工場はフル生産に近い稼働率を維持しています。成長性は極めて高い一方、巨額の設備投資負担や特定顧客(テスラ等)への依存、国内工場の収益低迷など課題も抱えます。また、新興勢力との競争(CATLやLGエナジーなど)も激化しており、技術開発と顧客拡大(例:テスラ以外のEVメーカーへの供給)が持続的成長の鍵です。

  • 家電(くらし)事業:テレビ、冷蔵庫などの白物家電や住宅設備を含む「くらし事業」は、パナソニック創業以来の伝統的分野です。直近の2024年3月期は売上高約3兆4,944億円と前年並みで、北米の業務用冷凍・冷蔵機器や電設資材は堅調な一方、海外家電や欧州のヒートポンプ暖房機が不振でした。営業利益は1,216億円と増益でしたが、成長性は鈍化しています。国内外での競争激化(国内市場の縮小や中国・韓国メーカーとの競争)、事業ポートフォリオの成熟化により、大きな投資や成長が見込みづらい領域となっています。そのため経営陣は2025年2月、「パナソニック株式会社」(家電事業主体の社内カンパニー)を発展的に解消し、組織再編による固定費削減と収益改善を図ると発表しましたnetdenjd.com。ブランド力や高品質への信頼は依然強みですが、イノベーションによる付加価値創出と収益性向上が課題です。

  • 自動車関連事業(車載機器など):自動車向けインフォテインメントや電子部品を手掛ける事業では、近年の車両電動化・コネクテッド化の潮流を受けつつも収益面で苦戦してきました。2024年3月期のオートモーティブ部門売上高は1兆4,919億円(前年比+15%)と回復しましたが、営業利益は428億円に留まり、人件費や部材コスト高の圧迫を辛うじて吸収した水準です。この低収益体質に対し、パナソニックHDは2024年3月、車載機器子会社「パナソニック オートモーティブシステムズ(PAS)」の全株式を米投資ファンドのアポログループに譲渡し、同ファンドとの提携による事業再建を図る決断を下しました(パナソニックは新会社の20%株式を保有し戦略関係は維持)。この事業売却は、自動車分野が社内では十分成長を牽引できず、外部資本の力を借りて立て直す必要に迫られた現状を物語っています。今後は電動化時代に向け、強みである車載電池とのシナジーやADAS(先進運転支援)分野での技術革新が求められますが、競合との開発競争に打ち勝つ体制構築が急務と言えます。

  • ソリューション(B2B)事業:近年パナソニックが最重点領域と位置付けるのが、ソリューション事業です。社内カンパニー「コネクト」が担うIoT・ICTソリューションや現場プロセス革新、そして買収子会社のブルーヨンダー(AIを活用したサプライチェーン管理ソフト)などが含まれます。2024年3月期のコネクト部門売上高は1兆2,028億円(前年比+7%)と順調に拡大し、航空機向けアビオニクスや現場ソリューションが堅調でした。営業利益も404億円と増益基調にあります。しかしながら、プロセスオートメーション(工場設備)の低迷や、ブルーヨンダー事業での戦略投資費用増加もあり、利益率は高くありません。成長性は高いものの、ソフトウェア人材の育成・確保や、買収した海外企業との統合によるシナジー創出が課題です。経営改革では「ソリューション領域の強化」が掲げられており、今後は顧客起点のサービス提供やDX支援など、単なる機器提供に留まらない総合力で収益柱に育てることが期待されます。

  • 半導体事業:かつて松下電器は半導体分野でも国内トップクラスの地位を占め、自社製品に搭載するICから民生用LSIまで幅広く展開していました。しかし競争激化と巨額投資負担に対応しきれず事業縮小を重ね、2019年には主要な半導体事業を台湾企業(ヌヴォトン社)に譲渡しています。現在パナソニック本体で半導体を製造・販売する事業はほぼ残存しておらず、報告セグメント上も半導体は「インダストリー部門」の中でごく一部という位置付けです。2024年3月期は前述の譲渡に伴う商流変更も響き、インダストリー部門の売上高は前年比9%減、営業利益も311億円(前期比▲47%)と落ち込みました。成長産業の半導体から事実上撤退したことは、将来の事業機会損失との表裏一体ですが、他社からの調達や協業で補完する戦略です。とはいえ創業者が築いた電子技術の伝統を思えば、半導体を自前で持たない現状は寂しく、社内外から「再参入」を望む声も皆無ではありません。現経営陣には、センサーなど特定分野での技術開発や出資を通じ、社内に半導体技術を活かす道も模索することが求められています。

2. 大規模リストラに至った経緯と原因

パナソニックHDが黒字継続中にもかかわらず1万人規模の人員削減に踏み切った背景には、複合的な要因があります。第一に業績上の伸び悩みです。楠見雄規CEO自ら「当社の収益性と成長性は同業他社と比べ見劣りする」と認めており、現状の延長線では長期持続的成長が難しいとの強い危機感がありました。事実、2024年3月期の連結純利益は約4,440億円と前年比67%増でしたが、これは工場閉鎖に伴う一時利益など特殊要因に支えられており、本業の収益力ではグローバル競合(例えば中国・韓国勢や新興IT企業)に後れを取っています。また、売上高も前期比+1.4%の8兆4,964億円で頭打ち傾向にあり、特に家電や産業部品など従来型事業の成長停滞が全体の足かせとなっていました。

第二に事業戦略上の構造転換です。パナソニックはここ数年、「選択と集中」による事業ポートフォリオ再編を進めてきました。その一環で、不採算・低成長事業の整理と重点事業へのリソース集中が求められ、人員配置の最適化が避けられない課題となっていました。2024年には車載機器事業を投資ファンドに託し(前述)、2021年には米ブルーヨンダー社を約7,000億円で買収、2023年にはさらに米One Network社を約839百万ドルで買収するなど、大型投資による未来事業の育成に舵を切っています。その投資回収を確実にするためにも、旧来事業の固定費圧縮と組織のスリム化によりキャッシュを捻出する必要がありました。2025年2月の経営改革発表では、「グループ全体最適での業務・リソース集約」「ソリューション事業強化」「固定費削減のための早期退職募集」といった踏み込んだ施策が示されています。今回の1万人削減は、まさにこの構造改革を具体化し目標を達成するための断行だと位置付けられます。

第三に市場環境の変化と危機感です。松下幸之助氏が創業した20世紀中葉とは打って変わり、21世紀のエレクトロニクス業界はグローバル競争と技術革新のスピードが格段に上がりました。テレビや家電は新興国企業が台頭し、国内市場も成熟・縮小しています。半導体やEV電池など成長分野でも海外勢との競争が熾烈です。加えて近年はコロナ禍やウクライナ危機によるサプライチェーン混乱、インフレ圧力など不透明要因が多く、機動的で効率的な経営体質への転換が急務でした。パナソニックHDは2023年度から国際会計基準に移行し、グローバル資本市場での評価も意識した経営に舵を切っています。株主から見れば、人員過剰や低効率部門を抱えたままでは将来の利益成長は望めず、中長期ビジョン(2027年3月期に調整後営業利益6,000億円超という目標)の達成も疑問視されかねません。こうした市場・株主の目線も、経営陣にコスト構造改革を決断させた一因でしょう。

最後に経営判断・覚悟の問題があります。2001年(社名が松下電器産業だった時代)にも約1万3,000人の早期退職を実施した前例がありますが、当時は最終赤字という経営危機下での苦渋の策でした。しかし今回は黒字を維持している中で将来を見据えての予防的リストラであり、経営陣にとっても「雇用に手を付けるのは忸怩たる思い」との発言がある通り非常な決断だったことが窺えます。楠見CEOは自ら報酬40%返上を表明し責任を示しました。つまり、将来への先行投資と構造改革による企業体質強化という大義のために、経営トップが覚悟を持って断を下した――これが直接の原因と言えます。その背景には、「今ここで手を打たねば10年後、20年後に会社が持続成長できない」という強い危機意識が横たわっており、創業百年を超えた大企業が自らの変革を迫られた構図です。

3. 創業者・松下幸之助の経営理念と現経営との乖離

松下幸之助氏(パナソニック創業者)は、「経営の神様」と称されるほど独自の経営哲学を持ち、日本企業の礎を築きました。その根幹には次のような理念があります。

  • 人間尊重・社員は家族:松下氏は「社員は会社の宝であり家族である」という信念を貫きました。昭和恐慌で経営が苦しい1930年代にも部下から人員削減を進言されましたが、「将来、会社を大きくしようと思うてる。だから一人たりとも解雇したらあかん。会社の都合で首を切ったりしては働く者が不安になるやろ」と語り、いかなる不況下でもリストラは断固行わない決意を示しています。この家族主義的な従業員重視は、「人は企業の最大資産」という人間尊重の精神に根差し、終身雇用制の日本的経営の手本ともなりました。

  • 顧客第一・社会貢献:創業者は「会社は社会の公器である」と位置づけ、利益追求よりもまずお客様や社会への貢献を重視しました。彼の有名な言葉に「売る前のお世辞より売った後の奉仕」というものがありますが、まさに顧客に対する誠実なサービスを最優先し、それが結果的に企業の繁栄をもたらすという信念でした。松下電器がどんなに大企業になっても、一人ひとりの社員がお客様を大事にする心を忘れれば会社は崩壊すると戒め、顧客満足なくして成長なしと説きました。「共存共栄」の精神で、顧客・従業員・取引先すべてが繁栄することを理想に掲げたのです。

  • 衆知を集めた全員経営:松下氏はトップダウンではなくボトムアップ型の経営を好み、「衆知を集めて全員参加の経営をせよ」と説きました。現場からアイデアを吸い上げる提案制度や、経営方針の社内共有など、社員の知恵を結集する経営によって困難を乗り越えることを重視しました。また「人をつくり人を活かす」ことを経営者の使命と考え、社員の育成と能力発揮の場づくりに情熱を注ぎました。従業員を単なるコストでなく将来への投資と見做し、人材育成こそ企業の社会的責任だと考えたのです。

以上の創業者理念と今回の経営判断を照らし合わせると、乖離は明白です。松下幸之助氏が「一人もクビにしてはならない」と断言したのに対し、現経営陣は1万人もの削減に踏み切りました。社員を家族とまで言い切った創業者精神からすれば、たとえ合理化の名目とはいえ大量リストラは企業倫理に反する「禁じ手」です。また、創業者ならまず従業員の知恵と努力を総結集して生産性向上や新事業創出に挑んだはずです。現経営は「労働生産性が低い部分にメスを入れる」と述べていますが、それは裏を返せば経営側が衆知を集めて生産性向上を達成できなかった無策の表明でもあります。さらに言えば、創業者の信条である「お客様第一」「共存共栄」の精神とも乖離があります。今回のリストラで一時的に収益は改善するでしょうが、社員士気の低下や技術力流出によって将来の商品・サービス競争力が落ちれば、結局はお客様にも背を向ける結果になりかねません。松下幸之助の理念は短期の株主利益よりも「人と社会」を重んじるものでしたが、現在の経営判断には残念ながら数字優先・人間軽視の印象が拭えず、創業者精神との隔たりが浮き彫りです。

 

製造業2040 -変化の渦中で進むべき日本の針路-

4. リストラが内部・外部に与える影響の評価

今回の1万人リストラは、パナソニック内部と外部の双方に大きな影響を及ぼすと考えられます。

(内部への影響)
社員士気への打撃は避けられません。長年勤め上げた社員にとって、創業以来大切にされてきた終身雇用の信頼が崩れ、「いつ自分も整理要員になるか」という不安が広がります。実際、経営トップ自身「忸怩たる思い」を口にするほどの苦渋の決断でありnetdenjd.com、残留社員の動揺も大きいでしょう。優秀な人材ほど将来性を懸念し他社へ流出する可能性もあり、人的資産の毀損が懸念されます。また技術継承の面でも、早期退職に応募するベテラン技術者が増えればノウハウの断絶が起こり得ます。パナソニックの強みであったモノづくり力・現場力が削がれ、新製品開発力の低下や品質面のリスクも孕みます。加えて、従業員を「家族」としてきた企業文化が揺らぐことで社員のエンゲージメント(愛社精神)は低下し、生産性向上どころかモラール低下による効率悪化を招く可能性も指摘できます。とはいえ一方で、生き残った社員にとっては組織の引き締めにより業務が明確化・効率化し、危機感を共有することで結束を高める契機とする期待もあります。現経営陣が真に創業者の言う「人を活かす」マネジメントを発揮できるか否かで、内部への影響が好転するか悪化するかが決まるでしょう。

(外部への影響)
株主・投資家の視点では、1万人規模の構造改革は概ねポジティブに受け止められています。発表翌日の株価は前日比でほぼ横ばいでしたが、これは業績見通し下方修正(純利益前年比▲15%)というネガティブ要因と、人件費削減による将来収益改善期待が綱引きした結果と考えられます。市場は短期的な痛みより中長期の収益力強化を評価しており、実際リストラと並行して示された2027年3月期営業利益6,000億円超の目標netdenjd.comには一定の信頼を寄せているようです。ただし、市場からは「なぜ今の好業績期にリストラが必要なのか」との疑問も呈されており、経営陣の手腕に対する厳しい目も向けられています。もし計画倒れに終われば経営責任が一層問われるため、現経営陣には公約遂行への強いプレッシャーがかかるでしょう。

取引先や顧客への影響も無視できません。大量人員削減によって一部事業の縮小・撤退が行われれば、部品供給を受けていたサプライヤーや製品を販売していた流通業者にも影響が及びます。特に赤字事業の終息・拠点統廃合が予告されているためnetdenjd.com、地方工場閉鎖などが現実化すれば地域経済や雇用にも打撃となります。社会的影響という観点では、日本を代表する企業による1万人削減は世間に衝撃を与えました。政府や業界からは雇用維持努力を求める声が出る可能性もあります。幸之助翁以来の「社員は家族」文化を知る世代からは「パナソニックも変質した」と残念がる声が聞かれ、企業イメージの低下につながる懸念もあります。逆に、グローバル標準のドライな経営判断を下せる企業と映れば海外投資家には評価が上がるかもしれませんが、日本社会に根付く企業観からすればネガティブな見方が強いでしょう。

総じて、今回のリストラは諸刃の剣です。コスト競争力向上と事業構造の転換には寄与する反面、人心の離反や技術流出という副作用をもたらす危険があります。創業者の教えに照らせば、人を切る前にやるべきことが他にあったのではないかとの指摘も免れません。パナソニックはいま歴史的な転換点に立っています。この荒療治を糧に真に生まれ変われるか、それとも単なる延命策に終わるのか――社内外の厳しい目が注がれる中、創業者であれば忸怩たる思いとともに現在の経営のふがいなさに「喝」を入れる場面かもしれません。そして同時に、「人を大切にせよ」「お客様を大事にせよ」という原点をもう一度噛み締めるよう求めたに違いありません。創業者の魂に立ち返りつつ改革を成し遂げてこそ、パナソニックは次の百年に向けて持続的成長の道を歩めるのではないでしょうか。

 

参考資料: