現在(2025年4月)の世界情勢と第二次世界大戦前の国際情勢の比較

  • 政治的側面: 現在、民主主義陣営と権威主義陣営の対立構造が際立っています。ロシアや中国など強権的な国家が国際秩序の変更を求め、西側の民主主義国家と緊張を高めている状況は、1930年代にファシズム国家(ナチスドイツ、軍国日本、ファシストイタリア)と英仏米など民主国家が対峙した構図に似ています。実際、プーチン政権のウクライナ侵攻はナチスドイツの侵略手法と酷似しているとの指摘もあり​

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    、権威主義的指導者が台頭することで各地で侵略が連鎖しかねない点で共通しています​

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    。また、世界的な民主主義の後退傾向も懸念材料です。1930年代は大恐慌下で独裁政権が各国で台頭しましたが、現在も経済的不安や社会の分断を背景に各国で強権的リーダーやナショナリズムが支持を集め、民主主義が「衰退から大不況(democratic depression)」に陥る可能性すら指摘されています​

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  • 軍事的側面: 各地で実際の戦争や紛争が発生し、それらが連鎖的に世界大戦に発展するリスクが高まっています。ロシアのウクライナ侵攻は欧州最大規模の戦争となり、NATO諸国とロシアの間接的な対決の様相を呈しています。一方中東でも2023年に発生したイスラエルとハマス(パレスチナ)との戦争により地域が不安定化しました。さらに東アジアでは中国が台湾統一を念頭に軍事圧力を強め、北朝鮮も核・ミサイル開発で周辺国を威嚇しています。これは1930年代に日本の満州侵攻(1931年)やイタリアのエチオピア侵略(1935年)、スペイン内戦(1936年)など局地戦争が各地で起こり、放置すれば増長した侵略が次々と波及した状況と類似しています​

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    。当時、侵略を阻止できなかったことで枢軸国の野心を肥大化させ最終的に第二次世界大戦に至りましたが、現代でもウクライナでの紛争が他地域に“伝染”し中国や北朝鮮など他の権威主義国家の侵攻を誘発する「連鎖戦争(カスケーディング・コンフリクト)」の可能性が指摘されています​

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    。実際ロシアは中国・北朝鮮・イランから武器支援を受け、ウクライナはNATO支援を受けるという構図は、既に事実上「ロシア・中国・北朝鮮・イラン」対「ウクライナ・NATO」という陣営の対立になっており​

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    、これは第二次大戦直前の枢軸vs連合国の構図を彷彿とさせます。また各国の軍拡競争も共通点です。1930年代、ドイツや日本は再軍備を急速に進めましたが、現代も各国が国防費を拡大させています。例えば日本は安全保障環境の悪化を受け防衛費を2023年に前年比11%増と大幅に増額しました​

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    。このような軍拡競争は誤算による衝突リスクを高め、核兵器などより破壊的な兵器の存在も含め軍事緊張は1930年代以上に危険な様相を帯びています(核戦力を背景にした抑止が働く半面、一度戦火が拡大すれば被害は桁違いとなる点で現代は更なる不安要素があります)。
  • 経済的側面: 保護主義的な経済政策やブロック経済化の傾向も、現在と第二次大戦前で共通しています。近年、米国は「アメリカ第一」政策や産業保護のための関税措置、補助金政策(例:インフレ抑制法に基づく自国製品優遇)を打ち出し、カナダや欧州が反発するなど貿易摩擦が生じています。これは1930年代の世界恐慌期に各国が高関税政策(米国のスムート・ホーリー関税法など)で自国産業保護に走り、世界貿易が縮小して対立を深めた構図と似ています​

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    。実際、専門家は**「近年の関税戦争は1930年代型の保護主義を想起させ、世界貿易体制の分断を招く恐れがある」**と警告しています​

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    。また当時、ブロック経済化で枢軸国は資源確保のため植民地侵略を正当化しましたが、現代も経済制裁や輸出管理の応酬が地政学的対立を激化させています(例:対ロシア制裁や米中のハイテク分野の輸出規制)。国際経済機関の脆弱さも共通します。第二次大戦前は世界恐慌に対し有効な国際協調策が打てず各国の利己的対応が深刻化しましたが、現在もWTO(世界貿易機関)が貿易紛争の調停や新ルール作りで機能不全に陥りつつあり​

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    、多国間の経済協調体制が揺らいでいます。加えて、世界的インフレやパンデミック後の景気低迷など不安定な経済状況は、1930年代の大恐慌ほどではないものの各国の内向き志向を強め、国際協調より自国優先の風潮を助長しています。
  • 地政学的側面: 国際秩序の動揺とパワーバランスの変化も当時と現在で共通するテーマです。第一次大戦後に設立された国際連盟は、加盟国の利害対立や米国の不参加もあって侵略を阻止できず、ナチス・ドイツや日本の挑戦を食い止められませんでした。同様に、第二次大戦後の国際秩序を支えた国際連合も現在深刻な機能不全に陥っています。安保理常任理事国であるロシア自らが侵略を行っても拒否権で制裁決議を封じる状況に国連は無力で、必要な改革も進まず、「国際連盟の崩壊のような事態に至るのでは」との懸念すら出ています​

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    。また当時は伝統的強国だった英国やフランスが経済力の低下や内向き政策で指導力を失い、その間隙を突いてドイツ・日本が台頭しましたが、現在も冷戦後唯一の超大国だった米国の相対的地位低下と、中国をはじめとする新興国の台頭が顕著です。歴史家ニール・ファーガソンは「現在の米国は1930年代の大英帝国のように力が衰え、台頭する挑戦者(中国)に直面している」と評しています​

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    。実際、中国とロシアが「無制限の友情」を謳う戦略的連携を深め、そこに北朝鮮やイランといった反米志向の国家が加わる構図は、かつての日独伊三国同盟(枢軸国)を想起させます​

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    。対する米国も伝統的同盟国の欧州や日本・豪州、さらにはインド太平洋地域の友好国との連携を強化し、新たな安全保障枠組み(クアッドやAUKUSなど)を模索しています。こうしたブロック化と多極化が進む中、国際秩序は不安定化し、各国が自国陣営の結束強化に動く様子は、第二次大戦前夜に世界が陣営に分かれていった状況と重なります。違いとしては、当時孤立主義だった米国が現在は同盟網の中心にいる点や、核兵器による抑止力が働く点が挙げられますが、全体として「力による現状変更」を巡る地政学リスクは1930年代以来の高水準と言えます。

以上のように、政治(体制・イデオロギー対立)、軍事(局地戦争と侵略の連鎖)、経済(保護主義とブロック化)、地政学(パワーシフトと国際機構の機能不全)といった観点で、2025年現在の世界情勢は第二次世界大戦前の不安定な国際情勢と多くの類似点を持っています。それでは、今後数年間でどのようなシナリオが考えられるのか、次章で代表的なシナリオを3つ取り上げます。

今後数年間に想定される代表的なシナリオ

以下では、現在の国際情勢を踏まえ、今後起こりうる代表的な3つのシナリオについて整理します。それぞれ「シナリオの概要」「主要国の立ち位置と動き」「想定される経緯(進展段階)」「最終的な結末の推定」「日本の立ち位置と影響」の順に述べます。

シナリオ1:地域紛争の連鎖による世界大戦

1. シナリオの概要: 最悪のケースとして、各地の紛争が連鎖的に拡大し、米中露をはじめ主要国が直接衝突する第三次世界大戦に至るシナリオです。ウクライナでの戦火が周辺NATO諸国に飛び火し、さらには中国が台湾への武力侵攻に踏み切って米国と軍事衝突、加えて中東や朝鮮半島でも戦火が発生するなど、複数の戦争が同時並行で起こって最終的に一つの大戦争に収束してしまう可能性があります。専門家の中にも「今後10年で多方面・複数の大国が関与する世界大戦が起こる」と予測する声があり、ある調査では約40%の識者が2035年までに世界大戦が起こりうると回答しています​

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。まさに1930年代の局地戦争の連鎖が第二次大戦に繋がった歴史が繰り返されるような状況です。

2. 各国の立ち位置と動き: このシナリオでは主要国が二大陣営に分かれて全面対決します。ロシア・中国を中心とした陣営(北朝鮮やイランなど反米的な国も含む)と、米国を中心とする西側陣営(NATO加盟国や日本・韓国・オーストラリアなど同盟・友好国)がそれぞれ連携し、第二次大戦時の枢軸国と連合国に似た構図となります​

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。具体的には、ロシアはウクライナだけでなく東欧のNATO加盟国(バルト三国やポーランドなど)にも軍事行動を拡大しようとし、中国は台湾への大規模侵攻を決行してアメリカや日本と交戦状態に入ります。北朝鮮はこの機に乗じて韓国や在日米軍基地に威嚇行動(ミサイル発射や局地的な武力挑発)を行い、アメリカと韓国は対処を迫られます。イランもイスラエルや湾岸諸国との緊張を激化させ、中東戦線が生じる可能性があります。一方、米国はヨーロッパとアジアの二正面戦争を強いられ、NATO軍と協力してロシア軍と戦いつつ、太平洋では日米豪などと共に中国軍に対峙することになります。欧州諸国は総力を挙げてNATOの集団防衛に参加し、ドイツやフランスも大規模な動員体制に入ります。イギリスを含むNATOはロシアの進攻を押し返すため東欧に師団規模の部隊を展開し、また中国に対してもイギリスやフランスがインド太平洋に艦隊を派遣する可能性があります。ロシア・中国は互いに呼応して戦線を拡大し、例えばロシアが欧州方面で戦果を上げれば中国が台湾・日本方面でさらに攻勢を強める、といった具合に事実上の共同戦線を形成するでしょう。両陣営ともサイバー攻撃や宇宙空間の軍事行動も駆使し、世界規模で全面対決する構図となります。

3. 想定される経緯: この世界大戦シナリオは段階的にエスカレートしていくと考えられます。まず引き金として考えられるのは、ウクライナ戦争へのNATOの直接介入です。例えばロシア軍がウクライナ西部からポーランド領内にミサイル攻撃を行いNATOと交戦状態に入る、あるいはロシアが戦術核兵器を使用し、これに対抗して米国が実力阻止に乗り出す事態です。これによりヨーロッパでNATO対ロシアの戦争が正式に始まります。その混乱に乗じて、中国が台湾侵攻を決断し、台湾有事が発生します。米軍と日本の自衛隊が台湾防衛のため介入し、中国軍と本格的な戦闘に突入します。同じ頃、中東ではイスラエルとイランの緊張が臨界点に達し、イランが核開発を加速またはイスラエルや米軍基地に対する攻撃的行動を取ったため、イスラエルがイランの核施設を先制攻撃し、中東戦争が勃発する可能性があります。こうした複数の戦線が並行して発火し、短期間のうちに世界はヨーロッパ・中東・東アジアの三正面戦争の様相を呈します。その後は各戦線がさらに拡大します。ロシアはベラルーシ軍とともにウクライナ西部やバルト諸国に攻め込み、NATO軍と大規模会戦を行います。中国は台湾を攻撃するだけでなく、在日米軍基地やグアムにもミサイル攻撃を加え、南シナ海や西太平洋全域で日米豪と中国との海空戦闘が発生します。北朝鮮もミサイル発射や局地的な南侵で戦火に加わり、朝鮮半島有事が起こる可能性があります。インドも中国と国境紛争を抱えるため、この戦争に引きずり込まれる恐れがあります。戦況が不利になった陣営は核兵器の使用を検討する危機的局面も訪れます。仮にロシアや北朝鮮が戦術核を使用すれば、米国も核による報復を検討し、核戦争の瀬戸際となります。まさに「最初の紛争が転移し、侵略者を増長させ、他地域の紛争に火を付ける」連鎖過程が現実化するわけです​

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。この間、国連など国際機関は完全に機能を失い、世界は無政府状態に陥ります。数年に及ぶ戦乱で各戦線とも甚大な被害を出しつつ、最終的に人類が経験したことのない規模の世界戦争となります​

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4. 最終的な結末の推定: このシナリオの結末は極めて悲劇的です。大量破壊兵器の使用により、地球規模で数千万単位の死者が出る可能性があります。仮に核兵器が複数都市で使われれば、人類文明そのものが危機に瀕するでしょう。第二次世界大戦は最終的に枢軸国の無条件降伏で終結しましたが、新たな世界大戦では決着の付け方も困難です。限定的な核使用にとどまった場合でも、参戦国は疲弊しきって戦争継続が不可能になり、渋々停戦協定に至るかもしれません。一方の陣営(おそらく米欧日を主軸とする側)が勝利したとしても、その代償はあまりに大きく、旧来の国際秩序は崩壊するでしょう。ロシアや中国では政権が崩壊し内乱状態になる可能性があります。米国もかろうじて勝者となっても経済・軍事両面で深手を負い、戦後の世界をリードできるか不透明です。欧州も甚大な被害を受け、アジアも人口稠密地帯が戦場となった日本・台湾・韓国・中国沿岸部は壊滅的状況に陥ります。仮に戦争後に国際社会が再建されるとしても、新たな国際組織の樹立や勢力圏の再編など、現在の世界秩序とは連続性のないまったく新しい世界が生まれるでしょう。最悪の場合、核の冬など環境破壊によって人類全体が長期的苦境に立たされ、事実上の引き分け(文明崩壊的な終息)となるシナリオすら考えられます。歴史家の中には、このような大国間の世界規模戦争が起きる確率を2~3割と見る向きもあり、現実味のある最悪シナリオとして無視できません​

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5. 日本の立ち位置と影響: 日本にとってこのシナリオはまさに存亡の危機です。米国の同盟国である日本は否応なく参戦を余儀なくされます。とりわけ中国が台湾や在日米軍基地を攻撃すれば、日本本土(沖縄や基地のある地域)は直接戦場となります。日本政府は直ちに集団的自衛権を発動して自衛隊を防衛出動させ、日米共同で対処するでしょう。政治面では国家緊急権の発動や戒厳令に近い体制で戦時統制が敷かれ、国会も超党派で対処に当たると考えられます。平時の法律や予算は大幅に変更され、自衛隊による他国防衛や長距離反撃も現実化します。安全保障面では、本土へのミサイル着弾やサイバー攻撃、最悪の場合核攻撃の危機にさらされ、日本は戦後初めて直接的な武力攻撃事態を経験することになります。自衛隊と在日米軍は本土防衛と台湾支援で大部分の戦力を割かれますが、同時に朝鮮半島有事にも備える必要があります。北朝鮮が日本に向け弾道ミサイルを発射する恐れも高く、迎撃体制を強化しても被害は避けられないかもしれません。経済面では、戦時下でサプライチェーンは崩壊しエネルギーや食料の極度の不足に陥ります。中東戦争で原油供給が止まり、海上輸送も危険にさらされるため、日本経済は急激に縮小し、工場は軍需生産と停電対応に追われ、国民生活は配給制や厳しい節約を強いられるでしょう。社会面では、都市への空襲やミサイル攻撃に備えて国民の大規模な避難・疎開計画が実施されるかもしれません。多くの国民が防空壕や地下施設での生活を余儀なくされ、死傷者も多数にのぼる可能性があります。戦後約80年守られてきた本土の平和が破られるショックは計り知れず、日本社会はパニックや恐怖に見舞われますが、一方で国難に際して強い結束が生まれる可能性もあります。産業界も総力を挙げて軍需生産・技術提供に動員され、科学者も防衛技術やサイバー戦に協力するでしょう。長期化すれば徴兵制の議論も現実味を帯び、若年層が戦場に送られる事態も考えられます。国際的には、日本は米国と共に自由主義陣営の一員として戦う立場を鮮明にし、戦後の再建においても主要な役割を果たすことになるでしょう。しかし、それは日本が戦勝国となった場合であり、仮に米国側が劣勢となれば日本の存立自体が脅かされ、最悪の場合占領や分割統治といった悲劇的結果も否定できません。このシナリオにおける日本の被害と変容は、1945年の比ではない甚大なものとなり得るため、日本にとって絶対に回避すべき事態といえます。

シナリオ2:新冷戦体制による長期的な緊張状態

1. シナリオの概要: 二つ目は、現状の対立が直接の大国間戦争に発展せず「新たな冷戦」状態として固定化されるシナリオです。つまり、米国・欧州・日本などの陣営と、中国・ロシア・北朝鮮・イランなど権威主義陣営が直接武力衝突は避けつつも長期にわたり鋭く対立する構図です。ウクライナ戦争は停戦や凍結状態になり、台湾海峡でも中国が軍事演習による威圧は続けるものの実際の侵攻は控える、といった形で表面的な平和は維持されますが緊張は解消しません。各陣営は軍拡と経済ブロック化を進め、政治的・外交的には相手陣営を封じ込めようとする**長期的な覇権争い(新冷戦)**に突入します​

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。これはちょうど第二次大戦後の米ソ冷戦構造に似ており、21世紀版の「東西冷戦」とも言える状況です。このシナリオでは幸い第三次世界大戦のような壊滅的戦争は起きないものの、国際社会は深刻な分断と不安定な均衡状態に陥ります。

2. 各国の立ち位置と動き: この新冷戦シナリオでは、各主要国は自陣営の結束強化と相手陣営の封じ込めに注力します。米国は引き続き西側陣営のリーダーとしてNATOや日本・韓国・オーストラリアなど同盟国との軍事協力を強化し、中国・ロシアに対する**「双方向の抑止」を図ります。欧州諸国はロシアの脅威に備えてNATOの軍事力増強を継続しつつ、エネルギー依存の低減や経済安全保障の面でも連携を深めます。日本や韓国、オーストラリアも米国との同盟関係をより緊密にし、防衛費増額や軍事能力の向上を続けます(日本はGDP比2%への防衛費増強計画を進め、2024年度には過去最大の約8兆7千億円の防衛予算を計上

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)。一方、中国とロシアは公式には同盟関係ではないものの、安全保障上は互いに背中を預ける戦略的パートナーシップを維持します。中国はロシアへの経済・外交支援を続け、ロシアは中国の台湾政策を支持するといった連帯行動が継続します​

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。さらに北朝鮮やイランといった国もこの中露陣営に接近し、ミサイル技術や無人機供与など軍事協力を深めます​

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。こうして「中国・ロシア・北朝鮮・イラン」対「米国・欧州・日本・同盟国」という二大ブロックが固定化されます。この陣営間では直接の戦闘は避けられるものの、情報戦や経済戦が熾烈になります。米欧日はロシアへの制裁を維持し、中国に対しても先端技術の輸出管理や投資規制を強化します。中国とロシアはドル依存から脱却するため自国通貨による取引を推進し、新興国との貿易圏を広げて「脱西側」の経済圏を築こうとします。国連など多国間の場でも双方が激しく対立し、安保理は常に米英仏 vs 中露の構図で機能停止、世界貿易機関(WTO)や他の国際機関でも合意形成が困難になるでしょう。非同盟の中立国(インドや東南アジア諸国、ブラジルなど)は両陣営の狭間でバランスを取りつつ、自国の利益を図る動きを見せます(例:インドはQUADに参加しつつロシアから資源調達を継続するなど)。全体として、主要国は陣営内の結束と相手陣営への抑止**を最優先課題とし、直接衝突を避けつつも一触即発の緊張状態が続くことになります。

3. 想定される経緯: 新冷戦への移行は徐々に進行します。まず直近数年(2025年前後)において、ウクライナ戦争がある程度の区切りを迎える可能性があります。例えば2025年中に停戦合意や事実上の休戦ライン確定(双方がこれ以上大きく前線を動かせず、紛争が凍結)に至るかもしれません​

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。同時期、イスラエルとパレスチナ(ハマス)間の戦争も国際仲介で停戦し、中東情勢はいったん沈静化に向かいます。台湾海峡では2024年の台湾総統選後、中国が出方を伺い、米中新首脳会談などで偶発的衝突回避のルール作りが話し合われる可能性があります(軍用機・艦船の接触防止メカニズム設置など)。これらの調整により、大国間直接戦争の火種は一応抑えられ、表面的には平和が保たれます。しかしその裏で各国は着々と戦備を固め、長期対立への備えを進めます。中期(2025~2028年頃)には、米国と中国・ロシアの間で軍拡競争が本格化します。米国は同盟国とともに最新兵器配備(極超音速ミサイル、防空網、宇宙・サイバー戦力など)を急ぎ、中国も核弾頭数の増強や海軍力のさらなる増強を図ります​

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。ロシアは制裁下で経済が苦しい中でも、中国の支援を受けつつ軍事力を再建しようとするでしょう。お互い直接撃ち合わないまま威嚇的な軍事演習が増加し、例えば中国が台湾周辺で大規模演習、NATOも東欧で実動演習を繰り返すなど、緊張を示威する行動が続きます。さらに代理戦争や紛争介入が散発します。例えば中東やアフリカの不安定地域で、米中露が各々支持勢力を通じて影響力争いを展開します(ある国で内戦が起きれば、西側は民主勢力を支援し、中露は現政権や反米勢力を支援する、といった構図)。サイバー空間では相手国のインフラを狙った攻撃や機密情報の窃取が常態化し、水面下での攻防が続きます。外交面では、米中の首脳会談や米露間の安全保障対話など危機管理のための対話は維持されますが、核心的対立では譲歩はなく平行線となります。長期(5年以降)では、この緊張状態が慢性化し、「安定した対立関係」が形成されます。双方とも相手を崩壊させるまでの力はなく、かと言って和解もできないため、冷戦のような辛うじて平和が保たれた緊張状態が続くのです。国際関係は二極化が定着し、各国は陣営のリーダーに追随する形で動くのが常態化します。ただし、時間の経過とともに各国の国力に変化が起これば動きが出る可能性もあります。例えばロシアが内政不安で影響力を失えば中国が単独で西側と対峙する構図に移行し、「米中冷戦」の様相が強まります。あるいは米国内の政治変動で対外姿勢が変わり、どこかで限定的な緊張緩和(デタント)が訪れる可能性もあります。しかし少なくとも今後数年間は、不安定な平和と鋭い対立が同居する時代が続く公算が大きいでしょう​

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4. 最終的な結末の推定: このシナリオでは短期的に明確な結末は訪れません。冷戦構造が続く限り、国際情勢は**「決着なき対立」となります。ただ、長期的にはいくつかの可能な結末シナリオがあります。一つは、数十年単位の競争の末に一方の陣営が自壊・弱体化して冷戦に勝利するパターンです。例えば経済成長の止まったロシア・中国陣営が内部矛盾で力を失い、西側の優位が確定するという筋書きです(1980年代末にソ連が崩壊して米国が冷戦に勝利したようなもの)。逆に、中国が経済力と軍事力で米国を凌駕し、西側の結束が緩んでしまえば、中国主導の国際秩序に塗り替えられる可能性もあります。しかし今後数年から十数年のスケールでは、どちらかが急激に没落する兆候はなく、膠着状態が続く可能性が高いと考えられます​

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。別のシナリオとしては、陣営間で限定的な協調や妥協が生まれ、「新ヤルタ体制」のような勢力圏のすみ分け合意に至る可能性です。例えば米中が非公式に相互不可侵の線引きを行い、お互いの勢力圏には直接干渉しないといった了解ができれば、大戦リスクは後退し安定化に向かいます。しかし価値観や利益が対立する中でそうした大妥協が成立する見通しは立っていません。したがって、この新冷戦シナリオの当面の結末は「継続」**であり、世界は当面、表面的平和と潜在的戦争リスクが両立する緊張状態に留まるでしょう。これは一見大戦を避けて安定しているようにも見えますが、常にどこかで火種が燻り、大国の代理戦争が発生する危険と隣り合わせです。冷戦時代も朝鮮戦争やベトナム戦争など間接戦争が多発しましたが、新冷戦下でもウクライナや中東での紛争が完全には解決せず、断続的な衝突が続くかもしれません。「平和だが緊迫した世界」が常態化するため、人々の不安も払拭されず、軍事費に巨額が投じられて社会経済的コストも蓄積する状態が続くと推測されます。

5. 日本の立ち位置と影響: このシナリオにおいて日本は西側陣営の一員として米国との同盟関係を軸に動きます。直接の戦火は及びませんが、引き続き中国・北朝鮮という強隣国に囲まれた厳しい安全保障環境が続くため、防衛力強化と同盟連携が日本外交・安全保障の最優先事項となります。政府は2020年代後半に向けて防衛費をGDP比2%に倍増させる計画を遂行し、ミサイル防衛やスタンドオフミサイル(敵基地反撃能力)など抑止力を着実に整備していくでしょう。実際、日本の防衛費は既に世界でも上位となっており、2024年度には過去最大の約7.95兆円を計上しています​

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。日米同盟も一層緊密化し、米軍と自衛隊の一体的運用やインテリジェンス共有が進みます。米国の核抑止(拡大抑止)に対する信頼を維持しつつ、日本国内でも有事に備えた態勢づくり(例えば国民保護計画の見直しや重要インフラ防護の強化)が図られます。外交面では、日本は「自由で開かれたインド太平洋」戦略の旗振り役として、地域の民主主義国やASEAN諸国との連携を強めます。特にオーストラリアやインドとの安全保障協力、英国やフランスとの防衛協定深化など、多角的な準同盟ネットワークを構築して中国・ロシアへの包囲網を補完しようとするでしょう。一方で日本は地理的に中国との関係悪化の影響を強く受けるため、経済面でのリスク分散が急務となります。サプライチェーンの「中国プラスワン」戦略や経済安全保障推進法の活用による重要技術・物資の自律性確保などが進みます。ただし中国経済への依存を急激に断つことは難しく、日本企業は引き続き中国市場で利益を追求しつつリスクヘッジするバランスに悩むでしょう。社会面では、安全保障意識の高まりが続きます。国民の間で防衛力増強への支持は以前より高くなり、憲法改正(自衛隊明記)や敵基地攻撃能力保有についての議論も一段と現実味を帯びます。学校教育やメディアでも安全保障や国際問題が頻繁に取り上げられ、人々の関心も高い状態が続くでしょう。半面、中国やロシアとの人的・文化的交流は減少し、ビジネスや観光でも相手国への不信感が根強く残ることで相互理解が阻害される懸念もあります。日本国内の政治経済は基本的に平時に近い形で回りますが、防衛費増大による財政負担やエネルギー価格高止まりなど経済面の課題が長期化します。またサイバー攻撃やスパイ活動などグレーゾーン侵略への対処も日常化し、日本企業や政府機関は高度な警戒態勢を維持する必要があります。国際舞台では、日本は引き続きG7やQUADなど同志国との連携を主導し、人権や自由貿易など価値観外交を展開します。ただ国連などでは中露の反対で日本の提唱する改革や新たなルール作りは難航し、フラストレーションも溜まるでしょう。このように日本は直接戦争に巻き込まれない安堵感と、常に隣接する大国の脅威に晒される緊張感の中で、粘り強く国益と安全保障を追求することになります。戦争勃発よりはましとはいえ、平和の配当を享受できた冷戦後時代とは異なる重い安全保障負担を長期に背負う展開となります。

シナリオ3:緊張緩和と協調による安定化

1. シナリオの概要: 三つ目は、現在の複合的危機を受けて各国が緊張緩和(デタント)と協調路線に舵を切り、国際情勢が安定化に向かうシナリオです。これは最善のケースと言えます。具体的には、ウクライナ戦争が停戦・和平に至り、台湾海峡でも対話が再開され、中国が武力行使を思い留まります。中東でもイスラエルとパレスチナ(ガザ)が停戦し、イランなどを含む地域の安定化に向けた外交が進みます。米中関係は競争は残るものの管理可能な範囲で安定し、貿易や気候変動対策といった共通課題での協力が見られるようになります。要するに、第二次世界大戦前夜のような対立一辺倒の流れを食い止め、各国が「平和のための現実的妥協」を選択することで大戦リスクが大幅に低下する未来像です。このシナリオでは全面的な和解ではないにせよ、「新冷戦」に比べれば対立は緩み、部分的な国際協調が復活します。例えば、気候変動問題では世界的な協調拡大が見られると予測する専門家が約半数おり​

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、こうした分野の協力が緊張緩和の糸口となる可能性があります。

2. 各国の立ち位置と動き: この協調シナリオでは、主要国は競争よりも安定化と利益共有を重視する方向に動きます。米国は同盟国の安全を保障しつつも、中国・ロシアとの直接対決を避けるべく外交努力を強化します。たとえばロシアに対しては、ウクライナでの一定の譲歩(双方痛み分けの停戦)を受け入れ、段階的に制裁を緩和する代わりに侵略の再発を止めるよう交渉するでしょう。中国に対しては、台湾問題で現状維持を相互確認し、米国も「一つの中国」政策の枠内で台湾への過度な政治的接近を控える見返りに、中国は統一を当面追求しないという暗黙の了解を取り付けるかもしれません。中国の習近平政権も、経済停滞や人口減少など国内課題に直面する中、対外的な安定を優先します。米国との経済デカップリングを最小限に抑え、自国経済の立て直しに集中するため、対立より協調を選ぶでしょう。ロシアでは、プーチン政権が体制維持を図るためにも戦争の泥沼化を避けたい思惑が働き、欧米との裏取引で停戦に応じる可能性があります。あるいはプーチン退陣後により穏健な政権が登場し、西側との関係改善に動くかもしれません。その場合、ロシアは中国一辺倒からバランス外交に復帰し、欧州とのエネルギー貿易を部分再開するなど関係修復に努めるでしょう。欧州諸国はウクライナの和平を歓迎し、対ロ制裁の見直しや復興支援を通じてロシアを国際社会に引き戻すことを検討します。一方、ウクライナは領土の一部(クリミアや東部)を失う痛みを伴う和平となる可能性がありますが、国家の独立と欧州との連携(将来的なEU加盟など)は保証され、復興支援を受けつつ中立的立場を取るかもしれません。中東では、イスラエルとパレスチナ自治政府の間で二国家解決に向けた対話再開への圧力が強まり、米国や湾岸諸国の仲介で人道状況改善と政治プロセス再始動が図られるでしょう。サウジアラビアとイランの和解が進展し、地域の宗派対立も緩和されます。イラン核問題では、米国が制裁解除と引き換えに核開発凍結を受け入れる新たな核合意が結ばれる可能性があります。北朝鮮についても、米中が協調して対話を促し、核・ミサイル実験の凍結と制裁緩和のバーターが成立するかもしれません。国際機関では、コロナ後の世界経済再生や気候変動対応など共通課題で合意が増え、先進国と新興国の協調が見られます。例えばG20やAPECなどで米中露の首脳が同席し実務協力に合意する場面が増えるでしょう。全体として、各国は対立よりも利益追求のための安定を選ぶようになります。これは決して理想主義的な和解というより、現実的な妥協の積み重ねによる緊張緩和です。互いに相手を倒すのではなく共存を図る戦略に転換する動きと言えます。

3. 想定される経緯: この協調路線への転換も徐々に進むと考えられます。第一段階では、現在進行中の紛争の終結・停戦が実現します。例えば2025年までにウクライナとロシアが停戦に合意し、国境線については凍結(当面は現状支配線を維持)しつつ、ロシア軍がこれ以上前進しない代わりにウクライナもNATO加盟を棚上げするといった妥協が成立する可能性があります。その際、西側同盟の断固たる支援がロシア軍を押し返し「これ以上進めば甚大な代償を伴う」と認識させたことが和平を後押しするでしょう​

cdainstitute.ca

。また2024年の米国大統領選挙やロシア政局の変化などを契機に、米露間の秘密交渉が進展することも考えられます。同時期、イスラエルとガザの戦闘は国際社会の圧力で停戦し、人道危機への対応が始まります。イランやレバノンのヒズボラも全面介入を控え、中東大戦への発展は回避されます。第二段階では、大国間の直接対話が活発化します。米中首脳会談が定期化し、軍事ホットラインの設置や偶発事態の管理に関する合意(いわゆるガードレールの構築)が進みます。米露間でも戦略的安定対話が復活し、新START条約の延長や改定に向けた協議が行われるでしょう。第三段階では、多国間協調の復活が見られます。例えばG20や国連安保理で、パンデミック対策や気候変動などに関して米中露が歩調を合わせた決議が採択されるといった動きです。世界経済が米中対立で分断される流れも部分的に修正され、重要物資の貿易や金融協力では安定が戻ります。米国は同盟国との経済連携強化(半導体やEVのサプライチェーン協調など)を進めつつ、中国とも限定的に貿易投資を認め合う**「デリスキング」(完全な分断でなくリスク管理)に舵を切ります。EUも米中の間で橋渡し役を果たし、世界貿易機関の改革やルール策定に三極協調で臨む動きが出るかもしれません。第四段階では、国際社会の新たな秩序作りが模索されます。例えば、安全保障面では欧州とロシアの間で「欧州安保の新枠組み」について対話が始まります。東アジアでも米中を含めた地域安全保障の多国間対話(拡大ASEAN地域フォーラムなど)が活発化し、誤解や不信を減らす措置が協議されるでしょう。中長期的には、第二次大戦後や冷戦終結時に匹敵する国際秩序の再調整が行われ、各国が納得するルールを再構築する試みもありえます。しかしこのシナリオでも、すべてが順調に進むとは限りません。小さな事件で再び不信が高まるリスクも残ります。そのため緊張緩和は段階的かつ不安定なプロセス**となりますが、各国が後戻りのコストを理解すれば、徐々に平和と安定が定着していくでしょう。

4. 最終的な結末の推定: このシナリオの結末は、完全な世界平和とまではいかなくとも、大国間戦争の危機が大きく後退した安定期の到来です。ウクライナでは戦争が終結し、国土復興が進みます。ロシアは国際社会に部分的に復帰し、エネルギー協力などで欧州と実利的関係を再構築するかもしれません。中国と米国は深い相互不信は残しつつも、「新冷戦」と呼ばれるほどの鋭い対立は緩和されます。台湾問題は先送りされ、台湾海峡の平和が維持されます(台湾も挑発的な独立志向を抑え、中国も統一を短期目標としない現状維持戦略に戻る)。中東では、イスラエルとアラブ諸国の和解が進展し、パレスチナ問題でも二国家共存に向けた道筋が模索されます。イランの核武装は防がれ、サウジアラビアなどとの関係正常化も実現するでしょう。北朝鮮も挑発を控え、朝鮮半島で対話が行われる可能性があります(南北首脳会談再開や経済支援協議など)。国連をはじめ国際機関は再び重要な協調の場となり、少なくとも大国が拒否権を乱発して麻痺する状態は改善されるかもしれません​

japantimes.co.jp

。例えば安保理では大国間の妥協が増え、PKO(平和維持活動)や制裁決議が機能し始める可能性があります。経済面では、世界経済のブロック化が緩み、主要国間で新たな通商交渉が進むかもしれません。技術交流も部分的に再開し、グローバルなイノベーション協力が復活するでしょう。こうした流れが続けば、結果的に**「新たな平和と繁栄の時代」に入ることも夢ではありません。もっとも現実には、競争と協調が入り交じる複雑な多極世界となる可能性が高く、一切の軍事衝突がなくなるわけではありません(地域紛争やテロは依然起こりうる)。それでも、大国同士が直接戦火を交える最悪シナリオを避け、対話によって問題解決を図るという集団安全保障の精神**が復権することは、人類にとって大きな前進です。第二次大戦前に理想に終わった国際協調が、21世紀において現実のものとなる期待が生まれます。

5. 日本の立ち位置と影響: この平和的シナリオにおいて、日本は大戦回避と国際安定の恩恵を大いに受けます。まず安全保障面で直接の脅威が和らぐため、防衛力強化は継続しつつも軍事衝突への備えに神経を尖らせる状況から多少解放されます。台湾有事のリスクが低下すれば、在日米軍や自衛隊の緊急即応体制にも余裕が生まれます。日本政府は対中関係の改善にも乗り出し、首脳往来の再開や日中経済協力の枠組み強化などを図るでしょう。長年懸案だった日中間の海上連絡メカニズム(ホットライン強化)も実効性ある形で稼働し、尖閣周辺での偶発的衝突回避にもつながります。ロシアとの関係でも、ウクライナ和平後は日本も対露制裁を段階解除し、北方領土問題での対話を再開する可能性があります。欧州がロシアと和解するなら、日本も歩調を合わせてエネルギー分野などで限定的な協力を検討するかもしれません。経済面では、国際協調が復活することで日本の貿易・投資環境は安定します。米中対立によるサプライチェーン分断リスクが低下すれば、日本企業は戦略を立て直し、中国市場と西側市場の双方でビジネスを展開しやすくなります。半導体やハイテク分野でも、米中の規制が緩和されれば日本は仲介役として技術交流のハブになるチャンスもあります。エネルギー価格も安定し、インフレ圧力が和らげば日本経済に追い風となります。政治外交面では、日本は引き続き日米同盟を基軸としつつも、平和協調路線に転じた国際社会で橋渡し役を果たすことが期待されます。もともと平和国家としてのソフトパワーを持つ日本は、中東和平や開発援助を通じた安定化支援などに積極的に貢献できるでしょう。実際、日本はウクライナや中東への多額の人道支援・復興支援を表明しており、戦後秩序の構築においても経済力を生かした役割を果たす見通しです​

dentons.com

。また、核軍縮・不拡散分野でもイニシアチブを取るかもしれません。岸田政権下でも提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」を具体化し、米露中を含む核軍縮交渉の促進に日本が外交的資源を投入する可能性があります。国連改革についても、対立が和らいだ好機を逃さず、日本は悲願の安保理常任理事国入りや制度改革の議論をリードするでしょう。社会面では、日本国民の不安感は大きく緩和されます。ウクライナ戦争や台湾有事への恐怖が薄れ、経済やコロナ後の社会課題により注力できる空気になります。ただし安全保障意識が低下しすぎないよう、政府は慎重に世論をリードする必要があります。せっかく整備した防衛力を無意味化しないためにも、日本は「平和の守り手」として適度な緊張感を保ちつつ世界平和に貢献する立場をアピールするでしょう。総じて、日本にとってこのシナリオは最も望ましい展開です。戦争回避に成功しつつ、国際協調の輪の中で経済成長と安全保障の両立を図れるからです。もちろん現実には課題も残りますが、日本は持ち前の平和国家の経験を活かし、戦後秩序の維持・強化に積極的役割を演じていくと期待されます。

個人として世界平和に貢献するためにできる具体的な行動

不安定な国際情勢の中でも、私たち一人ひとりが平和のために果たせる役割があります。ユネスコ憲章が謳うように「戦争は人の心の中で生まれるものだから、平和の防壁も人の心の中に築かなければならない」​

internationaldayofpeace.org

のです。以下に、個人として世界平和に貢献し得る具体的な行動・提言を挙げます。

  • 平和の文化を育む: 日常生活で暴力や差別を拒否し、対話と相互理解で問題を解決する態度を実践しましょう。例えば職場や学校で意見対立があっても相手の立場に耳を傾け、互いに尊重する姿勢を示すことです。暴力的な言動やヘイトスピーチに加担せず、周囲にも思いやりと言葉の大切さを広めることは、草の根から「平和の文化」を築く第一歩です​

    internationaldayofpeace.org

  • 正しい情報を追求し発信する: 国際情勢について関心を持ち、事実に基づく情報を集めるよう努めましょう。フェイクニュースや偏ったプロパガンダに惑わされないよう、信頼できる報道や専門家の分析を日頃から読む習慣が大切です。またSNSなどで情報発信する際も、対立を煽るのではなく冷静で公平な視点を心がけます。世論は政治家の意思決定に影響を与えるため、私たちが健全な議論をリードすることが平和的な政策を後押しします。

  • 異文化理解と対話の推進: 国際平和の土台はお互いの文化や価値観への理解にあります。個人として、外国の人々との交流や留学・旅行を通じて多様な文化に触れる努力をしましょう。日常でも在留外国人や異なる背景を持つ人々と積極的に対話し、偏見や固定観念を減らすことができます。敵対心や差別感情は無知から生まれるため、互いを知り尊重し合う関係を築くことが平和への近道です。

  • 民主的プロセスへの参加: 私たちの一票や声も平和構築に影響します。選挙では、外交的解決や国際協調を重視する政策を掲げる候補者を支持することで、平和志向の政治を後押しできます。地域レベルでも、平和や人権に配慮した条例づくりや教育を求める署名活動に参加するなど、政治に市民の意思を反映させる努力が大切です。政府に対して戦争回避や難民支援を求める意見を発信することも有効です。一人ひとりの市民の意見の積み重ねが、国の進路を平和へと導きます。

  • 草の根の平和活動への参加・支援: 地域社会で行われている平和活動に関わってみましょう。例えば、紛争や核問題について学ぶ勉強会やシンポジウムに参加したり、平和記念イベントを手伝ったりすることができます。学校や地域でピースキャンドルや折鶴を作るイベントなどに子ども達と参加すれば、次世代への平和教育にもつながります。また、自分で対話の場を設けることもできます。地域の異なる意見を持つ人々を集めてディスカッションを行うなど、市民同士が理解し合う取り組みを始めるのも良いでしょう。

  • 困っている人々への支援: 紛争や災害で苦しむ人々を放置せず、連帯の意思を示すことも平和構築に寄与します。具体的には、難民支援や紛争被害者支援を行う団体(国連難民高等弁務官事務所 UNHCRや国際赤十字など)に寄付したり、ボランティアとして参加したりすることです。身近でも、難民として来日した人々の日本語学習を手伝ったり、コミュニティに溶け込むサポートをすることができます。世界の痛みに共感し行動する市民が増えることは、政府にも人道的な外交を促す力となり、ひいては平和な世界づくりに貢献します。

  • 持続可能な社会への貢献: 平和を脅かす要因には、貧困や資源争奪、環境悪化なども含まれます。それら根本原因に取り組むことも間接的に平和に寄与します。例えば、日々の生活で省エネやごみ削減に努め、気候変動対策に協力することは、将来的な資源紛争を減らすことにつながります。また、フェアトレード製品を選んだり寄付で開発途上国の教育支援をしたりすることで、経済格差や貧困の緩和に貢献できます。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、個人としてできることを実行するのも、一種の平和運動と言えます。

以上のように、個人レベルでもできる行動は数多くあります。小さな行動でも、多くの人が積み重ねれば大きな変化を生みます。重要なのは、無関心や無力感に陥らず、「自分にも平和のためにできることがある」と信じて行動することです。私たち一人ひとりが寛容さと対話の姿勢を持ち、困っている人を助け、理不尽に声を上げていくことで、世界は少しずつ平和に近づいていくでしょう。それこそが不安定な時代にあっても希望を失わない市民の責任であり、平和への確かな貢献となるのです。