5. 脳覚醒状態の自己催眠・瞑想への応用
最後に、岩波先生の誘導による脳覚醒トランス状態を、自分自身で再現・応用する方法について考察します。ここでは、専門家の誘導なしに自己催眠や瞑想で脳覚醒状態に近づくための**音声ガイド(誘導ナレーション)**を提示します。また、その際の注意点や工夫も解説します。
岩波氏の技術は本来、彼自身の高度な誘導に負う部分が大きいため、完全に同じ体験を独力で得ることは容易ではありません。しかし、トランス呼吸法の習得や簡単な自己暗示の技術を用いることで、ある程度類似の変性意識状態に入ることは可能とされています。実際、岩波氏も「呼吸法を極めれば自力で脳覚醒トランス状態に入れるようになる」と述べています。そこで、以下に示す誘導ガイドは岩波式のエッセンス(呼吸→弛緩→暗示→覚醒)を組み込み、音声で自身を導く形式で作成しました。
このガイドは、一人で目を閉じて聴く(または読み上げる)ことを想定しています。実際に試す際は、安全で静かな環境を整え、椅子に座るか横になってリラックスできる姿勢を取ってください(※座る場合は背もたれに寄りかかり、首を支えられる状態が望ましいです)。また、10分~15分ほど邪魔が入らない時間を確保しましょう。開始前に軽くストレッチして体を緩め、水分補給をしておくのも良い準備です。誘導中は無理に特別な体験を起こそうとせず、ガイドに身を委ねることが重要です。途中で雑念が浮かんでも構いませんが、できるだけ判断や分析をせず、声の誘導に注意を戻すようにしてください。では、以下にナレーション形式の自己誘導スクリプトを示します。
脳覚醒自己誘導ガイド(ナレーション形式)
こんにちは。これから、あなた自身の内面へ深く入っていく誘導を行います。まず楽に座って、軽く目を閉じてください。深呼吸をしましょう。
ゆっくりと鼻から息を吸います… 1…2…3…(息を止めず、無理なく吸い込む)。はい、十分に吸ったら、今度は口から静かに吐き出します…ふぅー…。肩の力が抜けていきます。もう一度、ゆったり深く息を吸って…お腹が風船のように膨らむのを感じます。吐くときはその風船から空気を抜くように、ゆっくり長く吐きます。…いいですね。その調子で、あなたのペースで呼吸を続けてください。吸って…吐いて…。
呼吸に合わせて、体の緊張が少しずつ溶けていきます。足の先から力が抜け、ふくらはぎ、太もも…腰…背中…肩…と、重力に預けるようにダランと緩んできます。首筋もリラックスし、表情筋も力が抜け、顎は軽く開いて楽な位置にあります。上手く力が抜けない部分があれば、息を吐くたびにその場所に温かな風が当たってほぐれていく、とイメージしましょう。全身が心地よく緩んでいるのを感じます。
では、今意識を呼吸に乗せて、頭の中の雑念を吐き出してしまいましょう。吸う息とともに新鮮なエネルギーが頭に満ち、吐く息とともに考えすぎる心や今日までのストレスがスーッと出て行きます。何も考えなくて大丈夫。ただこの呼吸に身を任せます。吸って…吐いて…。もし思考が湧いてきても、それを追いかけないで、そのままフワフワと流してしまいます。浮かんでは消える雲のように、心に空白が広がっていきます。
(5秒ほど間を取り、ゆっくりした口調で続ける)
とても落ち着いてきました。呼吸は深くゆったり続いています。今、あなたの意識は静かな海の底にいるようです。波ひとつない穏やかな水中で、全身が漂っています。周囲はどこまでも透明で、安心できる場所です。ここでは、あなたは何ものにも妨げられず、完全に自由です。何の心配も要りません。…ただリラックスと心地よさだけが、あなたを満たしています。
では、ここから少しずつ特別な体験へと入っていきましょう。あなたは今、柔らかな青空の下に横たわっています。ポカポカと暖かい陽射しが体に降り注ぎ、細胞の一つ一つまで温めてくれます。その暖かさが、背骨を伝わって頭の中にまで広がっていきます。頭のてっぺんから足先まで、エネルギーが満ちていくのがわかります。胸の中心(ハート)にもポッと火が灯ったように、温かい感情が湧いてきます。
それは**「安心」かもしれません。「嬉しさ」かもしれません。心の奥底で、小さな子供だった頃のあなたがニコニコと笑っているのが見えます。何の不安もなく、ただ嬉しくて笑っています。その笑顔が、今のあなたと重なっていきます。あなたも思わず口元がほころび、頬が緩むのを感じます。そう、とても幸せな気持ちが広がってきました…。どんな感情が訪れても大丈夫です。もし涙が出そうになったら、それも自然に任せてください。あなたの心が今、自由に羽ばたこうとしている証拠です。喜びでも、安堵でも、感動でも、それを存分に感じて**ください。
心が解き放たれていくと同時に、あなたの頭(脳)は研ぎ澄まされていきます。先ほどまで空っぽだった頭に、今はキラキラと眩しい光が満ちています。その光はあなたの可能性です。これまで眠っていた底知れない力です。それが今、目を覚まし始めました。「自分は大丈夫」「何でもやれる」というポジティブな感覚がみなぎってきます。あなたの脳が100%フルパワーで動き出したのです。
その感覚を味わってください。身体も心も軽く、エネルギーと自信が溢れています。何か一つ、今のあなたの内なる想いに耳を傾けてみましょう。心の声がクリアに聞こえるはずです。…(数秒静寂)…「~~したい」「私は~~だ」──浮かんできた言葉やイメージが、今のあなたにとって大切なメッセージです。それをしっかりと受け止めてください。
では、ゆっくりとこの感覚を胸に抱いたまま、現実の世界に戻っていきましょう。深呼吸を一つします。吸って…吐いて…。あなたの意識は静かな海の底から、ゆらゆらと水面へ昇っていきます。暖かな陽射しが見えてきました。体の感覚が徐々に戻ってきます。手足の指を少しずつ動かしましょう。足先、指先に力を入れて…パッと放つ。もう一度、グッと握って…はい、力を抜きます。冷たい床や椅子の感触がわかります。
ゆっくりと、目を開けてください。まぶたが重ければ軽く瞬きをしましょう。あなたはすっきりと目覚め、意識は今ここに戻ってきました。頭は冴えわたり、心は満たされています。必要であれば、ここでストレッチをして体をほぐしてください。
これで誘導は終わりです。あなたはいつでも、自分の内側にこのパワーと安らぎを見出すことができます。それでは、ゆっくりと日常の時間に戻りましょう。お疲れさまでした。
(ナレーション終了)
誘導ガイドの補足と工夫
上記のガイドは概ね15分程度で想定しています。実践する際は、落ち着いてゆっくり読み上げるか、録音して聞いても構いません。重要なのは、呼吸とイメージと感情にフォーカスし、理性を脇に置くことです。
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呼吸のリズム: 最初の深呼吸は特にゆっくり丁寧に行ってください。息を吐く時間を長めに取り、吐くときに全身の力を抜くよう意識します。これは副交感神経を優位にし、催眠状態に入りやすくする基本です。
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ボディスキャンによる弛緩: 誘導文中にあるように、足先から順に筋肉をゆるめていく漸進的筋弛緩はリラクゼーションに効果的です。岩波氏のセッション前にもストレッチで体を緩めることを推奨していますが、自己催眠でも同様に体の力みを取ることが深いトランスへの鍵です。
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安心感の喚起: 誘導では暖かい陽射しや穏やかな海といったポジティブなイメージを用いています。これは安全基地を心に作る効果があります。不安が強い人ほどまず**「ここは安全だ」「解放して大丈夫だ」**というメッセージを繰り返し与えることが大切です。自分で録音する際は、安心感を与える言葉(「大丈夫」「安全」「守られている」等)を多めに入れても良いでしょう。
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暗示とイメージのバランス: ガイド中盤では、笑顔の子供や光などのイメージを提示しつつ、「自由」「幸せ」「力が湧く」といったポジティブ暗示を入れています。これは岩波氏のいう「プラス暗示」を再現した部分です。自己催眠では、自分にしっくり来る肯定的フレーズをあらかじめ用意し、それを心が受け入れやすいタイミング(十分リラックスして意識がぼんやりしているとき)に投入するのがコツです。例えば、「私は私でいていい」「恐れなくていい」「やればできる」等、しみ込ませたい言葉を選びましょう。
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感情の解放: 誘導中、実際に笑いや涙が出てくることがあるかもしれません。それはとても良い反応です。泣きたいときは声を出して泣いても構いませんし、笑いがこみ上げたらこらえず笑ってください。感情の発露は心のデトックスであり、出し切った後には必ずスッキリします。ただし、一人で行っていてネガティブな感情(怒り・恐怖など)が強く出過ぎて対処が難しい場合は、無理せず一旦誘導を中断し、深呼吸を繰り返して落ち着いてください。再開するかどうかは気分を見て判断しましょう。
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復帰と余韻: 誘導の終わりでは、確実に現実意識に戻すプロセスを入れています。深い自己催眠から覚めるときは、急に起き上がらず徐々に感覚を戻すことが大切です。手足を動かしたりストレッチしたりして、血圧の変動によるふらつきを防ぎます。終わった後、しばらくぼんやり余韻を味わう時間を持つのも良いでしょう。セッション直後は脳波的にα波が多く出てリラックス状態が続いているはずですので、そのまま10分ほど静かに座って内省したり、ノートに浮かんだ気づきをメモしたりすると効果が定着しやすくなります。
実践上の注意点
自己誘導を行う際の注意点や工夫を、いくつか補足します。
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毎日の呼吸法トレーニング: 岩波氏の指導でも強調されるように、日々の呼吸法練習が土台となります。上記ガイドはスポット的な誘導ですが、それを支えるために普段から深い呼吸に慣れておくことが大切です。可能なら朝晩5分ずつでも腹式呼吸の時間を設けましょう。効果をすぐ求めず、**「量をやる」**つもりで続けると、数週間で呼吸が深まり意識転換がスムーズになります。
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環境とタイミング: 誘導は静かな環境で行ってください。スマホの電源を切り、照明も落として薄暗くすると集中しやすくなります。音声ガイドを流す場合はイヤホンよりスピーカーのほうが周囲の圧迫感がなくて良いでしょう。また、眠気が強い深夜は寝落ちしやすいので避け、日中~夕方で適度に疲労があるくらいの時間帯が理想です(寝てしまうとトランスではなくただの睡眠になってしまうため)。どうしても仮眠状態になる場合は、椅子に座る、背もたれのないスツールに腰掛けるなどして姿勢を工夫すると良いでしょう。
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安全対策: 自己催眠中は意識が内向きになるため、外界への注意が散漫になります。自宅で行う場合も火気の使用(アロマキャンドル等)は避け、ドアを施錠するなどして第三者に不用意に起こされないようにしましょう。車の運転直前や、高所・水辺など危険が及ぶ場所での実施もしないでください。基本は安全な室内で、一人静かに行うものです。また、深刻な精神疾患で治療中の方は、主治医の指示を仰いでください(岩波氏のプログラムでも統合失調症の方は対象外とされています)。
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継続とフィードバック: 最初のうちは、誘導ガイド通りにやってもうまくトランスに入れないかもしれません。しかし焦りは禁物です。効果を求めすぎると逆に意識が冴えてしまうため、「リラックスできれば十分」くらいの気持ちで繰り返してください。回数を重ねるごとに、徐々に深みに入りやすくなります。誘導の内容も、自分に合うようアレンジして構いません。例えば、光のイメージが湧きにくければ音や香りの想像に変えても良いですし、子供の自分よりも「理想の自分」を思い描く方が響くならそうしましょう。自分の反応を記録し、「このフレーズで心が動いた」「ここで雑念が出た」等をメモすると、次の改善につながります。
以上のガイドとポイントを活用すれば、完全にとはいかないまでも、岩波先生の脳覚醒状態に近い深いリラクゼーションと意識覚醒をセルフで体験することが可能です。岩波氏が提示したように、「脳の覚醒は、脳の緩みをベースとして生まれる」ものです。自己催眠でもまずは緩み・リラックスを十分に作り、その上でプラス暗示を与えることで、少しずつ自己の変容を実感できるでしょう。
参考文献・情報源: 本稿で引用した内容は岩波英知氏の公式サイト、プレスリリース、著書の紹介文、および実際の体験者によるブログ・ノート記事など多岐に渡ります。特に【3】【5】【8】【10】【27】などは岩波氏側の発信、【23】【26】などは参加者の体験談、【39】はホロトロピック・ブレスワークの科学的報告を示す文献です。興味のある方は
等の出典箇所をご参照ください。