1. 企業が従業員に“優しい”制度を導入する背景と実態

1-1. 建前(表向きの理由)

  1. ワークライフバランスの推進

    • 「社員が長期的に働きやすい環境を整えたい」
    • 「多様な人生設計に対応して、社員の健康や満足度を高める」
    • 「社会的責任を果たす会社としてブランドイメージを向上させたい」
  2. ダイバーシティ&インクルージョンの推進

    • 「さまざまな背景や考え方を持つ人材を活用することでイノベーションを起こす」
    • 「性別や国籍などに関わらず平等な機会を提供し、企業として倫理的・社会的に貢献する」
    • 「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点から企業価値を高める」

1-2. 本音(実際に求めていること)

  1. 競争力確保・収益拡大のための人材確保

    • 離職率の低減や採用市場での優位性を確保するため、イメージ戦略として制度を整備
    • 「優秀な人材を集めたい」「良い学生に来てほしい」という思いからの取り組み
  2. 企業としての評価や評判の維持

    • 「時流に乗らないと『古い会社』と認識され、結果的に有能な人材や顧客が離れてしまう」という危機感
    • SNSの発達などにより、悪評が立ちやすい環境を避けるための対策
  3. 実際には“ハードワーク”を期待

    • 「制度はあるが、実際にそれをフルに使う人は少ない」など、形骸化しているケースも存在
    • 制度は“表向き”で整えているが、「利益に貢献する社員」を重宝するという意識が依然として強い

2. 新卒採用面談における代表的な5つの質問と採用担当者の本音・建前、回答例

ここでは、新卒採用面接でよく投げかけられる代表的な質問5つを取り上げます。それぞれの質問における“建前”と“本音”、さらに「採用されやすい回答例」「不採用になりやすい回答例」を示します。


質問1. 「入社後、どのようなキャリアを築きたいですか?」

  • 建前(表向き)
    「あなたのキャリアプランを尊重したい」「企業としてあなたのキャリアアップを支援したい」

  • 本音
    「会社へのロイヤルティが高く、長く働いてくれそうか」「将来的に会社にどれだけ貢献してくれる人材か」

採用されやすい回答例

「将来的には○○の分野で専門性を高めつつ、チームをまとめるリーダーとして成果を出したいと考えています。そのためにまずは御社で幅広く経験を積み、○○のプロジェクトにも積極的に参加したいと思っています。長期的には、海外事業や新規事業にも携われるチャンスがあれば挑戦したいです。」

  • ポイント: 会社のビジネス領域や方向性をリサーチし、そこで自分がどう貢献できるか・成長していくかを具体的に語る。

不採用になりやすい回答例

「早く独立したいと考えています。3年くらいで転職や起業を考えています。」

  • ポイント: 短期的に辞める意志を示唆したり、ロイヤルティの低さを感じさせると、敬遠される可能性が高い。

質問2. 「ワークライフバランスについてどう考えていますか?」

  • 建前(表向き)
    「社員がプライベートも充実させながら働くことを重視しています。あなたが求める働き方を教えてください。」

  • 本音
    「あまりにも残業を嫌う人や“権利”ばかりを主張する人は敬遠したい。忙しい時期には協力してくれる柔軟性があるかを知りたい。」

採用されやすい回答例

「仕事もプライベートも両立させることが大切だと思っています。ただ、繁忙期やプロジェクトの要所など会社としての勝負どころには、積極的に力を注ぎたいと考えています。一方で、オフの時間にしっかりとリフレッシュして、長期的にパフォーマンスを維持することも重要だと思います。」

  • ポイント: バランスを大切にしながらも、必要なときにはコミットする姿勢を示す。

不採用になりやすい回答例

「休暇や有給は当然しっかり消化したいです。定時にすぐ帰れる会社を探しています。」

  • ポイント: 権利主張だけが前面に出ると、「貢献意欲が低い」「柔軟性に欠ける」と判断される場合がある。

質問3. 「当社はダイバーシティ&インクルージョンを推進していますが、その点についてどう思われますか?」

  • 建前(表向き)
    「多様な考えや背景を尊重し合える職場を目指しています。あなたがどのように感じるかを知りたいです。」

  • 本音
    「形だけの取り組みだとしても、会社の方針や価値観を否定せず協力的である人かどうかを見極めたい。」

採用されやすい回答例

「社会や市場が多様化している今こそ、いろいろな視点をもった人たちが協力することで大きな価値を生み出せると思います。私もこれまでの経験の中で、異なる背景を持つ仲間と協力して成果を出したことがあり、その大切さを実感しています。」

  • ポイント: 「ダイバーシティ」を前向きに捉えていること、かつ具体的な経験やエピソードを交えると説得力が高まる。

不採用になりやすい回答例

「多様性は必要だと思いますが、実際どこまでできるんですか? 日本企業ってあまり進んでいないですよね?」

  • ポイント: 「本音に踏み込みすぎて会社を否定する」印象を与えかねないため、ネガティブな表現はリスクが高い。

質問4. 「チームワークと個人の成果、どちらが大切だと考えますか?」

  • 建前(表向き)
    「協調性を大切にしているが、個々の成果も重視したいと考えている。バランス感覚を確認したい。」

  • 本音
    「過度に個人プレーに走る人も困るが、『みんなで仲良く』を強調しすぎるだけの人も成果が出せない。チームに貢献しつつも自分の成果にも責任を持てる人材かを見たい。」

採用されやすい回答例

「個人の成果は大切ですが、それを最大化するにはチーム全体が協力し合える環境作りが不可欠だと思います。自分の強みを活かしながらも、周りのメンバーのサポートや意見交換を大切にして、チーム全体として高い成果を目指したいです。」

  • ポイント: 「チームワーク」と「個人の責任感」の両方を重視する姿勢。

不採用になりやすい回答例

「個人で数字をあげる方がインセンティブも大きいので、まずは自分の成果を追求したいです。」

  • ポイント: チームワーク軽視の印象が強まると敬遠されがち。

質問5. 「最後に、当社で何か聞きたいことはありますか?(逆質問)」

  • 建前(表向き)
    「あなたが当社に興味を持っているか知りたいし、疑問点にきちんと答えたい。」

  • 本音
    「当社にどの程度理解や関心があるのか、また優先度はどこにあるのかを見たい。あまりに福利厚生や休暇制度など“待遇”だけを気にするようだと敬遠したい。」

採用されやすい回答例

「御社の海外進出についてさらに詳しく伺いたいのですが、今後の具体的なスケジュールや注力エリアなどがあれば教えていただけますか? 私も将来、海外プロジェクトに参加できるよう準備していきたいと考えています。」

  • ポイント: 事業内容やキャリアアップに関連する質問をすることで、会社への意欲を示す。

不採用になりやすい回答例

「有給休暇の取得率や残業代の計算方法が気になります。どの程度保証されているんでしょうか?」

  • ポイント: もちろん重要な内容ではあるが、“条件や待遇のみ”に関心があるように受け取られるとマイナス評価につながりやすい。

3. これから就職活動を行う学生へのアドバイス3点

  1. 企業研究は「表」と「裏」の両面を意識する

    • 企業が掲げるビジョンや制度(表向きの情報)だけでなく、実際にどう運用されているか(裏の情報)も可能な範囲で調べましょう。OB・OG訪問や口コミサイト、SNS、新聞記事などを活用することで、企業が求めていることや実態を把握しやすくなります。
    • 「会社は本当に何を求めているか?」「自分がどのように貢献できるか?」を具体的に考えることで、企業側が欲しがる“ポイント”をより的確にアピールできます。
  2. “ロイヤルティ”と“柔軟性”をバランスよく示す

    • 「働きやすい環境」というキーワードが注目される一方、企業は「利益に貢献してくれる人」「問題解決力や対応力がある人」を求めています。
    • 面接では、会社の理念や方針への共感を示しつつ、繁忙期などがあれば柔軟に対応する姿勢をアピールしましょう。ただし、過剰に「会社のためなら24時間全力投球します」というように極端な自己犠牲を強調しすぎると不自然な印象にもなるので、バランスが大切です。
  3. 自分の軸を明確にし、相手(企業)に合わせた“伝え方”を意識する

    • 自分が就職活動で譲れないポイント(例:職種や業界、働き方、価値観など)をしっかり持ちながら、それを企業側に合わせた形で表現することが大切です。
    • 面接官の“本音”を想定したうえで、「自分はどのように企業の課題やビジョンに貢献できるか」をわかりやすく伝えましょう。その際は表現をマイルドにしつつも、本質的には「自分が入社したら、こんなに力になれます」という未来図を具体的に描いてあげると、面接官に好印象を与えられます。

まとめ

昨今、企業が導入するワークライフバランスやダイバーシティ&インクルージョンといった制度には、“社会的責任”や“社員を大切にする”という建前の一方、本音としては「優秀な人材を確保し、競争力・収益を伸ばしたい」「悪評や離職率の高さを避けたい」という思惑があるケースが少なくありません。
就職活動においては、企業の表面的なメッセージだけでなく、そこにある本当のニーズを理解して面接に臨むことが重要です。とはいえ、すべて“企業に合わせすぎる”ことが良いわけではなく、自分の軸や価値観を持ちながら、相手に伝わりやすい形でアピールするバランス感覚が求められます。

これらを踏まえた準備と面接対応を行うことで、“真の意味で”満足のいく就職先と出会える可能性が高まるでしょう。皆さんの就職活動が実りあるものとなるよう、ぜひ参考にしてみてください。