1. フォーカシング(Focusing)とは

1-1. 概要

  • 開発者
    フォーカシングは、心理学者であり哲学者でもあるユージン・ジェンドリン(Eugene T. Gendlin)氏が、カール・ロジャーズの来談者中心療法の研究をもとに開発した心理技法です。
  • 目的
    感情や身体感覚に丁寧に「注意を向ける(フォーカスする)」ことで、言語化されていない曖昧な感覚(フェルト・センス:felt sense)をとらえ、これをゆっくりと解きほぐしていくことを目的としています。
  • 特徴
    • 身体感覚(ボディ・センセーション)を重視し、論理や知識では把握できない内的な「気づき」を促す。
    • セルフヘルプとしても活用できるため、専門家とのセッションだけでなく自己練習に取り組む方も多い。
    • 感情面だけでなく、身体症状の緩和や自己理解の深化など、多方面の効果が期待される。

2. フォーカシングによる改善・癒しの事例

フォーカシングは心理面のセラピーとして広く活用されてきましたが、近年では身体の痛みや慢性症状、さらには重い病気に対してもサポート的役割を果たす場合があると報告されています。以下に紹介する事例はあくまで個人的な体験談やケースレポートであり、科学的に「治癒」が証明されたわけではない点にご留意ください。

2-1. 痛みの軽減

  • 慢性的な肩こり・腰痛
    フォーカシングの過程で「痛みの根底にある感情やストレス」を丁寧に感じていくうちに、筋肉のこわばりが和らぎ、痛みが軽減したという報告があります。
  • 頭痛や偏頭痛
    強い頭痛の際にフォーカシングを行い、「頭痛に伴う感情や身体感覚」を受容することで発作が和らいだ、あるいは頭痛の頻度自体が減ったとの体験談があります。

2-2. 心身症や自己免疫疾患への良い影響

  • 過敏性腸症候群(IBS)や喘息などの症状緩和
    セルフケアの一環としてフォーカシングを実践することで、ストレス関連の症状が軽くなったとの報告が見られます。
  • リウマチや慢性疲労症候群など
    完全な治癒を示すデータは限られるものの、症状にまつわる不安や苦痛が和らぎ、QOL(生活の質)が向上したという例があります。

2-3. 難病や重い病気との向き合い方

  • がん患者への心理的サポート
    抗がん剤治療による副作用や闘病ストレスを軽減するために、フォーカシングの過程で沸き上がる恐怖や悲しみに寄り添い、自分自身をいたわることで、痛みや苦痛を抱えながらも心身のバランスが保てたというケースが報告されています。
  • 心身の結びつきを深く理解する
    病気を「治す」というよりは、身体からのメッセージを通じて自分の内側とつながることで、生き方そのものが変化し、結果的に症状も緩和に向かうケースがあります。

3. フォーカシングによって痛みや難病が軽減するメカニズム

フォーカシングのメカニズムについては、心理学的・生理学的な観点と、気やプラーナなどのスピリチュアル的視点の両面から説明が試みられています。

3-1. 科学的知見

  1. 身体感覚(フェルト・センス)の明確化と情動調整
    フォーカシングでは、身体に現れる「曖昧な感覚」に意図的に注意を向けることで、それまで意識化されていなかった感情や思考を言語化・構造化していきます。これにより、無意識下のストレスが低減し、自律神経バランスが整いやすくなると考えられます。

  2. 神経可塑性とストレス反応の改善
    フォーカシング中の「自己への優しいアプローチ」は、脳の可塑性(ニューロプラスティシティ)を促し、ストレスや痛みに対する脳の反応を変化させる可能性が指摘されています。具体的には、過剰な交感神経の活動が緩和されることで、痛みや炎症に関連するホルモン分泌が減少するという仮説があります。

  3. マインドフルネスや認知行動療法との共通点
    自分の感覚に注意を向けながら、それを批判せずに受け入れるという手法は、マインドフルネス的な要素や認知行動療法的な「自己観察」の一部に通じます。このプロセスにより、不安やうつなどの感情的苦痛を緩和し、それに伴う身体的苦痛にも良い影響を与える可能性があります。

3-2. スピリチュアル的・エネルギー的視点

  1. 気やプラーナ、魂からのメッセージ
    東洋医学やヨガ哲学などでは、身体症状は「気(プラーナ)の流れの滞り」や「魂(高次の自己)からのメッセージ」として捉えられることがあります。フォーカシングのプロセスで、痛みや不調が訴えかけている深層の意味に耳を傾けると、エネルギーのブロックが解放されると考えられています。

  2. 潜在意識との対話
    スピリチュアルなアプローチでは、フォーカシングを「潜在意識(あるいは無意識)との直接的な対話」ともみなします。身体に浮かび上がる感覚を丁寧に拾い上げ、そこに隠された情報を受け取ることで、問題の根本原因に気づき、自己治癒力を活性化するという見方です。

  3. 自己受容と自己愛のエネルギーが高まる
    フォーカシングを習慣的に行うと、痛みや症状を「排除すべき敵」としてではなく「大切なサイン」として扱うようになります。これによって自己受容や自己愛が深まり、“癒し”が加速するとスピリチュアルな側面からは考えられています。


4. フォーカシングによって病気を癒すための具体的ガイド

フォーカシングの正式な手順としては、ジェンドリンが提唱した「6ステップ」などが有名です。以下はセルフケアの一例として、簡易的にまとめたものです。より深く学びたい場合は、専門書やワークショップ、認定ファシリテーターによる指導を受けることをおすすめします。

4-1. 手順の全体像

  1. 静かな環境をつくる
    • 携帯電話の電源をオフにする、照明を落とすなど、落ち着いて内省できる環境を整えます。
  2. リラックスした姿勢で座る、または横になる
    • 背筋を伸ばしつつも余計な力は入れず、ゆったりとした気持ちで呼吸を整えます。
  3. 「フェルト・センス(曖昧な身体感覚)」に注意を向ける
    • まず、全身に意識を巡らせ、「今の自分を象徴する身体感覚はどこにあるだろう?」と問いかけます。
  4. 感覚を言葉やイメージで「とらえてみる」
    • その曖昧な感じに似合うキーワードやイメージを、浮かんだままに受け取ります。たとえば「重い」「モヤモヤ」「黒い雲のよう」など、直感的な表現を大切にします。
  5. 感覚とイメージの“フィット感”を確かめる
    • 選んだ言葉やイメージがその感覚に本当に合っているか、身体の内側に尋ねてみます。
    • しっくり来なければ、言葉やイメージを修正しながら「これかな?」と何度か問い直します。
  6. 「変化」を待つ(フェルト・シフト)
    • ピッタリした言葉やイメージが見つかると、身体感覚が微妙に変化したり、少し緩んだ感じがすることがあります。これを「フェルト・シフト(felt shift)」と呼び、フォーカシングの核心的なプロセスです。
  7. 受け取った気づきを大切にする
    • そこで感じたことや思い浮かんだメッセージを否定せず、そのままメモしたり、しばらく余韻を味わいます。

4-2. 病気や痛みにフォーカスする場合

  1. 症状へのアプローチ
    • 「痛みや不調がある部位は、どんな風に感じる?」と身体に優しく問いかけます。
    • 痛みや不調をただ“客観的に”観察するのではなく、そこに潜む曖昧なメッセージを感じ取ろうと意図してみます。
  2. 痛みを「排除の対象」としない
    • あくまで「何かを伝えようとしている存在」として痛みを迎え入れます。
    • これはスピリチュアルな視点だけでなく、心理学的にも大切な心構えです。
  3. 浮かんできた感情やイメージを受容する
    • 「こんな感情を持っている自分はダメだ」と否定せず、まずは「そう感じているのか」と受け止めます。
    • そのプロセスそのものが、痛みや症状の背景にあるストレスや葛藤を緩和することにつながります。

4-3. フォーカシングのコツと注意点

  1. 批判や分析をしない
    浮かんでくる感覚やイメージを、すぐに論理的に分析・否定するよりも、まずは「受け止める・味わう」姿勢を大切にします。
  2. 無理に答えや結論を求めない
    フォーカシングは、短時間で劇的な変化を期待するのではなく、継続的なプロセスの中でじわじわと内面の変化が育まれるものです。
  3. 専門家やファシリテーターとの併用
    深刻なトラウマや強い精神症状がある場合は、専門のセラピストやカウンセラーの指導のもとで行うほうが安全です。また、医療機関の治療を中断せずに併用する形を推奨します。
  4. 身体の違和感や痛みが強まる場合
    稀に、感情や身体感覚をしっかり味わうことで一時的に不快感が増すことがあります。その場合は無理せず中断し、深呼吸や水分補給などを行って落ち着きを取り戻してください。

5. まとめと留意事項

  • フォーカシングは、心理学的アプローチとして開発されましたが、身体感覚を深く扱うことから、痛みや病気の「背景」にアプローチする有効なツールとして注目されています。
  • 科学的視点では、自律神経のバランス調整や情動調整、スピリチュアルな視点では、気・プラーナ、魂からのメッセージを受け取ることで、自然治癒力を高めるプロセスと捉えられています。
  • ただし、医学的治療の代替としてではなく、あくまで補完的・補助的な手段としての活用が望ましいでしょう。実践する際には、専門家の指導を受けたり、継続的なフォーカシングのトレーニングを通じてスキルを磨いていくことが大切です。