1. アルコール中毒の発生原因

アルコール中毒(アルコール依存症)は遺伝的要因環境/社会的要因心理的要因など複数の要因が絡み合って発生します。

  • 遺伝的要因: アルコール依存症には50~70%程度の高い遺伝率が報告されており​

    journal.jspn.or.jp

    、家族歴の有無がリスクに大きく影響します​

    niaaa.nih.gov

    。実際、親が大酒家である場合、子が依存症になるリスクは高くなります。また、日本人に多いALDH2遺伝子(アセトアルデヒド分解酵素)の活性低下型は少量で顔が赤くなる体質で、飲酒量が抑制されアルコール依存を予防しやすいとされます​

    journal.jspn.or.jp

    。事実、日本のアルコール依存症患者の約9割はこの酵素が活発に働く「お酒に強い体質」であり、残り1割が顔が赤くなりやすい「中間型」と報告されています​

    ask.or.jp

    。近年では社会環境の変化により、本来なりにくいはずのALDH2低活性の人でも依存症になる割合が増えており​

    journal.jspn.or.jp

    、遺伝要因と環境要因の相互作用が指摘されています​

    journal.jspn.or.jp

  • 環境・社会的要因: アルコールへのアクセスの容易さや飲酒文化も発症リスクを左右します。日本では伝統的に飲酒が社交の一部となっており、職場の飲み会(いわゆる「ノミニケーション」)や冠婚葬祭での飲酒機会が多いことが影響します。しかし近年は若者の飲酒離れもあり、社会全体の飲酒量は減少傾向です​

    e-healthnet.mhlw.go.jp

    。一方で女性の社会進出に伴い女性の飲酒機会が増え、女性のアルコール問題が新たな課題となっています​

    e-healthnet.mhlw.go.jp

    若年時からの飲酒開始もリスク要因で、15歳以下で飲酒を始めると21歳以降まで飲まなかった場合に比べ、アルコール使用障害(AUD)発症リスクが5倍以上になると報告されています​

    niaaa.nih.gov

    。さらに飲酒の習慣(毎日飲む、一気飲みするなど)が身につくと、脳がアルコールに慣れて量がエスカレートし依存に陥りやすくなります。
  • 心理的要因: ストレス対処や精神疾患との関連も深く、うつ病、不安障害、PTSD、ADHDなどを抱える人はアルコール乱用に陥りやすい傾向があります​

    niaaa.nih.gov

    。アルコールは一時的に不安や緊張を和らげるため、ストレス解消の手段として飲酒を繰り返すうちに慢性的な依存状態になることがあります。また、過去のトラウマ(心的外傷)体験がある人も自己治療的に飲酒に走りやすいことが指摘されています​

    niaaa.nih.gov

    。性格面では、衝動性が高い人や「飲めばなんとかなる」という回避癖のある人も依存を形成しやすい傾向があります。なお、男性より女性の方がアルコールの影響を受けやすいことも知られており、習慣的飲酒開始から依存症発症までの平均期間は男性20年に対し女性は10年未満という統計があります​

    ask.or.jp

    。これは女性ホルモンや体格差により女性の方が短期間で身体的・精神的依存が進みやすいためと考えられます。

以上のように、生まれつきの体質から社会環境、個人の心の問題まで様々な要因がアルコール中毒(依存症)の発生に関与します​

mayoclinic.org

mayoclinic.org

特に「遺伝+環境ストレス」の組み合わせは発症リスクを高めるため、家族に依存症者がいる場合や若い頃からストレス環境にある場合は注意が必要です。

2. 代表的な症状

アルコールを短時間に大量摂取すると急性アルコール中毒となり、血中アルコール濃度の上昇に伴って軽度から重度まで様々な症状が現れます​

saiseikai.or.jp

saiseikai.or.jp

。症状は主に以下のように分類できます。

  • 軽度~中等度の症状: 吐き気、嘔吐、腹痛といった胃腸症状や、顔面紅潮、瞳孔拡大、異常な発汗など自律神経の変化がみられます。また、多幸感(気分の高揚)やほろ酔い・酩酊によるふらつき、抑制の低下による衝動的な言動、判断力の低下、意識の混乱(錯乱)などの精神症状も現れます​

    saiseikai.or.jp

    。ろれつが回らない、千鳥足になるといった動作の障害も典型的です。比較的軽度の酩酊では機嫌が良く饒舌になる程度ですが、飲酒量が増えるにつれて行動や意識に明らかな異常が出始めます。
  • 重度の症状: 意識がはっきりせず自力で歩行や起立ができなくなり、やがて昏睡状態に陥ります​

    ginza-pm.com

    。中枢神経の深部まで麻痺が及ぶと呼吸抑制・低体温が起こり、最悪の場合は呼吸停止に至って死亡することもあります​

    saiseikai.or.jp

    。重度の急性中毒では嘔吐物による窒息(誤嚥)もリスクが高く、救急処置が必要です。

急性期の症状以外にも、泥酔時には一時的な記憶障害(ブラックアウト)が起こることがあります。これは飲酒中の出来事を本人が覚えていない現象で、異常酩酊時によくみられます​

ginza-pm.com

。また、酩酊が極端に進むと幻覚や妄想が出現し、周囲には理解できない奇異な行動をとる場合も報告されています​

ginza-pm.com

。例えば虫や人影が見える幻視、ありもしない声が聞こえる幻聴などの症状です。こうした状態はアルコール性幻覚症病的酩酊と呼ばれ、通常の酔いを超えた危険なサインと言えます。

長期の大量飲酒によって引き起こされる**慢性アルコール中毒(アルコール依存症)の場合、急性期の酩酊症状に加えて離脱症状など独特の症状がみられます。離脱時には手の震えや発汗、不安・いらだち、不眠などの症状から、重症では振戦せん妄(Delirium Tremens)**といって意識混濁や幻視、発作(けいれん)を起こすこともあります​

mayoclinic.org

。慢性アルコール中毒では飲酒量をコントロールできなくなり、朝からアルコールを求めたり、隠れて飲む、「飲まないと手が震える」といった状態に至ります。身体的にも肝臓障害の進行による黄疸や腹水、認知機能の低下や末梢神経障害(手足のしびれ)など様々な合併症が現れますが、これらについては後述する長期影響で詳述します。

3. 罹患者の性別・年齢などの傾向(2000年以降)

日本におけるアルコール中毒(アルコール依存症)の有病率は1%前後と推計されています。2013年に行われた全国調査によれば、国際診断基準(ICD-10)で現在アルコール依存症と診断される成人は約57万人(人口の約0.5%)でした​

e-healthnet.mhlw.go.jp

ncasa-japan.jp

。生涯でアルコール依存症を経験する人は男女合わせて約107万人、成人の約1%に上ります(男性1.9%・女性0.2%)​

ncasa-japan.jp

。一方で、治療につながっている患者はごく一部です。厚生労働省の患者調査では、アルコール依存症で医療機関を受診中の患者数は年間4.3~6万人程度にとどまり​

e-healthnet.mhlw.go.jp

、治療が必要と推定される80万人以上の依存症者のうちわずか5%程度しか受診できていないとの報告もあります​

j-arukanren.com

。このように依存症患者の大部分が未治療のまま潜在しており、社会的支援の不足が指摘されています。

図1男性の習慣的飲酒者(週3回以上飲酒し、日本酒1合以上飲む人)の割合は、近年大きく減少しています​

e-healthnet.mhlw.go.jp

。特に20~30代の低下が顕著で、1989年では20代男性の32.5%が習慣飲酒者でしたが、2019年には12.7%まで減少しました。また他の年代も含め、男性全体の習慣飲酒率は平成元年の51.5%から令和元年には33.9%へと大幅に低下しています​

e-healthnet.mhlw.go.jp

。これは若年層のアルコール離れや健康志向の高まり、高齢化による飲酒控えなどが要因と考えられます。

図2女性の習慣的飲酒者の割合は増加傾向にあります​

e-healthnet.mhlw.go.jp

。1980年代は女性全体で6%程度でしたが、2019年には8.8%まで上昇しました。特に30代~60代女性の増加が目立ち、例えば40代女性では8.8%(1989年)から16.6%(2019年)へと倍増しています。一方、20代女性は4.1%から3.1%へ微減しましたが、中年層以降の飲酒率上昇により男女差は縮小してきています​

ncasa-japan.jp

。現在はアルコール関連問題を抱えるのは依然として男性が大半ですが、将来的には女性の依存症患者が増加する恐れがあると専門家も指摘しています​

ncasa-japan.jp

年齢層別に見ると、アルコール依存症は中高年に多い傾向があります。飲酒習慣率は男性は50~60代、女性は40~50代でピークとなっており​

ncasa-japan.jp

、長年の飲酒蓄積により中年以降に発症するケースが多いと考えられます。実際、アルコール依存症患者の多くは40代以降で、20代で発症するのは少数派です。ただし未成年者や大学生の急性アルコール中毒事故は依然問題で、東京消防庁の統計では急性アルコール中毒で救急搬送される患者の約47%が20代以下の若年層となっています​

saiseikai.or.jp

。この背景には、イッキ飲みや飲酒経験の浅さから自分の適量を超えてしまうケースがあるとされています​

saiseikai.or.jp

。2000年以降、未成年者の飲酒そのものは減少傾向にありますが、依然として大学のコンパ等で急性中毒事故が起きており、注意喚起が続けられています。

全体的な年次推移を見ると、日本のアルコール総消費量は1990年代に頭打ちとなり徐々に減少しています​

e-healthnet.mhlw.go.jp

。特に2000年以降は高齢化の影響もあり、一人当たり飲酒量も減る傾向です​

e-healthnet.mhlw.go.jp

。男性の重度飲酒(いわゆる大酒)も減っていますが、その反面女性の飲酒量・頻度が上がり、アルコール依存症の裾野が男女双方に広がりつつある点が現代的な特徴です​

e-healthnet.mhlw.go.jp

e-healthnet.mhlw.go.jp

。アルコール中毒者数自体は過去数十年で大きな増減はないものの、患者の高齢化が指摘されています。長期飲酒により健康を損ねた高齢の依存症者が増えている一方、若年層は嗜好の多様化で飲酒離れが進み、新規の依存症患者は減少傾向にある可能性があります。このような世代交代により、将来的にはアルコール関連問題の構図も変化していくと考えられます。